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SEALDs女子を襲うネットの闇

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
安保法制強行採決が行われた9月19日未明、国会前で抗議するSEALDs

安保法制への反対運動で注目を集めた学生団体「SEALDs(シールズ)」。「憲法読めない総理はいらない」「民主主義ってなんだ?これだ!」というデモのコールに象徴されるような、主権者として声をあげる姿に、多くの人々が勇気づけられ、自らも行動を起こすようになった。しかし、それ故か、SEALDsへのバッシング、特に女性メンバーへの猛烈なバッシングが、安倍政権支持派のネットユーザーから行われており、その中には、嫌がらせを通り越して犯罪というべきレベルのものも。だが、ネット上の匿名性も絶対ではない。他人を誹謗中傷し、嫌がらせを続けるなら、それなりのリスクもあるということだ。

○「毎日、毎時間」の罵詈雑言、猥褻画像やグロ画像を送りつけられることも

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安保法制への抗議行動の盛り上がりに「これまで大人しかった日本の人々が行動をついに起こした」と海外メディアも報じたが、こうした機運が高まった大きな要因のひとつとして、若い世代が、顔出しで最前線で活動したことは大きいだろう。しかし、彼ら、彼女らへ向けられる悪意、特にとりわけ、SEALDsの女性陣への攻撃は凄まじい。例えば、本人が公表していないフルネームをさらされる、遺体などグロテスクな画像や猥褻画像を送りつけられる、本人のSNS等に繰り返し卑猥かつ、侮辱的な書き込みをする等の嫌がらせが「毎日、毎時間」(SEALDs女性メンバー談)行われているという。こうした嫌がらせは、主に安倍政権や安保法制を支持する人々から行われている。政策について議論をネット上ですること自体は今日においては普通のことだが、SEALDsの女性メンバー達へ一方的に送り付けられるものは、もはや議論ですらなく「クズ、死ね、売国奴、キチガイ、慰安婦」など罵詈雑言。このような行為は、政治的に保守かリベラルかという以前に人間として最低である。

○ネットメディアも便乗

呆れたことに、こうしたネット上での嫌がらせを助長するネットメディアまである。J-castウォッチは、SEALDsの女性メンバーが嫌がらせを繰り返している誹謗者達を「クズよばわり」「物議をかもしている」との記事を配信した。同記事は、これまでどれだけ多くの、また酷い罵詈雑言が繰り返されたか、プライバシー侵害、猥褻画像やグロ画像が送るつけられたかなどの、SEALDsの女性メンバー達の被害には、具体的に触れることなく、「引用に耐えない下品な表現のつぶやきも多い」とだけ書いてお茶を濁す一方で、SEALDsの女性メンバーの個人名を記事の中で晒した上で、彼女への批判的なコメントをいくつも紹介している。お世辞にもフェアな記事とは言えず、「自業自得」というようなバッシングを助長するような内容だ。筆者は、どのような意図を持って問題の記事を書いたのか、J-castウォッチに取材を申し入れたが、現時点までに回答はない。同ニュースの運営会社の代表取締役は、大手新聞の出身だが、ジャーナリズムの倫理や作法というものは、同ニュースの編集には活かされていないようである。

*その後、J-castウォッチは個人名を削除

いわゆる「まとめサイト」も、SEALDsバッシングの温床になっているようだ。中でも非常に攻撃的な右系まとめサイト「保守速報」などでは、SEALDs女性メンバーの言動を監視、前後の文脈を排した上で部分的切り取り、あげつらう投稿が頻繁に行われている。また巨大匿名ネット掲示板「2ちゃんねる」でも、同じようなことが行われており、これらのネット右翼のたまり場で増幅された憎悪が、SEALDs女性メンバーらが使うSNSにも吹き出ている、という構図がある。

○あまりに悪質な行動は訴えられることも?!ネットの匿名性は絶対ではない

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だが、ネットの匿名性に乗じて嫌がらせを繰り返す人々は、いつまでも、やりたい放題ではないかもしれないことは、理解しておくべきだろう。民事裁判で損害賠償請求されたり、場合によっては、犯罪として刑事告発され、処罰されることもあり得るのだ。被害を受けた側が警察署などに訴え、警察側が名誉毀損罪や侮辱罪などの疑いがあるとして捜査を開始した場合、プロバイダ側は、当然、警察の捜査に協力する。また、刑事ではなく民事の損賠賠償等の訴えでも、プロバイダ責任制限法第4条第1項により、ネット上で被害を受けた人は、その権利が侵害されたことが明らかであって、損害賠償請求権の行使のために必要である場合や、その他開示を受けるべき正当な理由がある場合、プロバイダに対し、権利侵害の情報の発信者(つまり掲示板やSNSなどに書き込んだ人)の氏名、メールアドレス、住所などの情報の開示を請求することができるのだ。すでにSEALDsのメンバーらや支援者、弁護士等は、悪質なケースについて訴えることも視野に入れているという。ネット上に他人の誹謗中傷を書き散らかす以上、それなりのリスクも伴うということだろう

○女性ゆえに各方面からたたかれる日本社会のおかしさ

SEALDs女性メンバー達へのネット上の反応を見ていて、つくづく感じることは、日本では21世紀の今日も、女性が自由に発言することに反感を持つ、前時代的な発想を持つ人間が少なくないということだ。あるSEALDsの女性メンバーのSNSには、「女のくせに黙ってろ」というような書き込みすらあった。また、嫌がらせとまではいかないまでも、SEALDs女性達の振る舞いや恰好にまで、苦言や小言を言う人々が政治的にリベラルとみられる層にもいる。やれ、「デモなのに服装が派手だ」「臍を出すな」「自撮りをするな」……なぜ女性というだけで、あらゆる方面からいちいち批判されたり、説教されないといけないのか。他人がどんな格好をして、どのような発言をしても(悪質な差別発言、セクハラ発言でない限り)、基本的に本人の勝手であろう。

安保法制をめぐり、SEALDsやそれに限らず様々なグループや個人の立場で、女性たちが声をあげている。こうした女性たちへの悪意に満ちた攻撃を許さないこと、彼女たちの言動は彼女たちの自由であることを、支持すること。それが「民主主義国家」として当然のことであり、「憲法を守る」ということでもある。そのことを今一度、日本社会全体として確認する必要があるのではないだろうか。

(了)

*写真の無断使用を禁じます。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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