誰がマスコミを「マスゴミ」にしたのか―SMAP解散危機、ベッキー騒動は「ニュース」なのか?

SMAP解散危機を伝える夕刊紙。民放キー局でも1時間以上、この件を報じた社も(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

マスメディアを批判する言葉として、ネット上でよく使われる言葉に、「マスゴミ」というものがある。権力や経済界に媚びへつらった報道をしたり、視聴率や売り上げ部数至上主義で、芸能ゴシップや低俗なテーマなどに長い時間をとったり、紙面を割いたりしていることへの、視聴者や読者のメディア不信を象徴している言葉だ。

確かに、全体的に言えば、日本のマスメディアには、多くの問題があり、筆者も批判することも少なくないのだが、一方で、マスメディア内のジャーナリズム精神を持った良心的な記者やディレクターの苦労もよくわかる。彼ら自身が、現在のメディアの在り方に悩んでいるのだ。

○「視聴者が何を求めているか」と「メディアが何を報じるべきか」

先日、都内で催されたシンポジウム“後藤健二さん殺害事件から1年 ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか~取材現場からの自己検証”での、テレビ朝日の内藤正彦・ニュースセンター編集長の発言が、印象的であった。

テレビで何を視聴者に伝えるべきなのか。視聴者が何を見たいのか。それが違うこともある。最近の例だと、SMAPの解散危機が大きな話題となっているが、インドネシア・ジャカルタでのテロも、もっと伝えるべきことだと思う。ジャーナリズムとして報じるべきことはあるが、一方で、視聴者が望むものを無視して良いというわけでもない。そこが難しい」

出典:シンポジウムでの内藤氏の発言要旨

注:内藤氏の発言はテレ朝を代表しているわけではなく、あくまで彼個人としての発言である。

こうした問題提起、特に上記発言の前半部分は、常日頃、筆者も痛感していたことだ。先週はタレントのベッキーさんと人気バンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さんとの不倫騒動や、SMAP解散危機がメディアを埋め尽くしていた。確かにそれが、数字が取れ、部数も伸びるからなのであろう。だが、日本のマスメディアは、全体的にもっと本来の意味でのニュース、ジャーナリズム的な報道の割合を増やすべきではないのか。シリアやイラク情勢の混迷が続き、欧米やロシアがますます「対テロ」に前のめりになる中で、アジアで起きたIS、あるいはその支持者によるテロは、過激思想が急速にアジア方面にも伝播しつつあることを象徴する事件だ。ISから名指しでターゲットとされている日本にとっても他人事ではない

○緊急事態条項、GPIFの巨額損失…軽視される重大テーマ

また、他にも報じるべき重大テーマはたくさんある。たとえば、安倍総理は、参院選で与党が勝てば、改憲に乗り出すことを幾度も言及している。だが、改憲の目玉とされる「緊急事態条項」は、「独裁条項」、「民主主義破壊条項」と言うべき危険性をはらんでいる。要は、内閣総理大臣が「緊急事態」であると判断した際に、国会を通さず、内閣が法律を制定でき、かつ個人の人権を制限できるというものだ。つまり、ナチスがドイツを支配した際に活用された「全権委任法」と同様の危うさがあるのだ。日本での議会制民主主義を根本から変える可能性がある条項だけに、もっとその是非についてメディア上で議論されるべきであろうし、人々も関心を持つべきことだ。

最近で言えば、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による年金運用で兆円単位で損失が出ていることも、重大テーマだろう。これまで、GPIFは国内債券(60%前後)をメインに年金を運用し、株式市場への充当は、国内株式12%前後、外国株式12%前後と、せいぜい3割弱にとどめていた。これは国民の財産である年金を守るため、比較的リスクの低い運用を行ってきたからだ。しかし、安倍政権は、2014年10月、GPIFの運用比率を変え、総資産の約半分を株式市場に充当。これには当初から年金をハイリスクにさらすことになるのでは、と野党や識者らの懸念の声があった。実際、GPIFの年金運用見直しは、安倍政権の支持率と密接につながる日経平均株価の底上げに、一時的につながったものの、その後、中国経済の減速の影響などによる世界同時株安に伴い、日経平均株価も下落。それにより、昨年秋以降から、兆円単位で年金の損失が続いている。昨年1月の時点で安倍政権は、今後の年金運用の最大損失額を「21兆5000億円」と見積もる想定を、民主党の長妻昭衆議院議員の質問主意書に対する答弁書の中で示していた。*こうした予測が現実のものとなりつつある。それでなくても、年金崩壊が危惧される中、安倍政権のGPIF改革の是非は、間違いなくもっと論議されるべきことだ。

○ニュース番組中、戦争のことをやると、見事にそこだけ視聴率が落ちる

日本が今、様々な深刻な問題に直面している中で、これまでの通りに、マスメディア、とりわけテレビが刹那的な芸能ニュース、タレントのスキャンダルに埋め尽くされているのは、まずいのではないだろうか。問題はテレビ等にとどまらず、Yahoo!など主要ニュースサイトの閲覧ランキングでも、上位は「SMAP」「ベッキー」関連。結局のところ、マスコミを「マスゴミ」にしているのは、視聴者であり読者である。政治家のレベルが有権者のレベルであるように、メディアの質も視聴者・有権者の質なのだ。

思い出すのは、以前、筆者の友人である某有名ニュース番組のディレクターがこぼしていたメディアの内情だ。

「僕も中東での戦争などのニュースをもっと取り上げたいんですが、そういうのは、視聴者から敬遠されるらしい。テレビ局では、リアルタイムで視聴率をモニターしているんですが、ニュース番組中、戦争のことをやると、見事にそこだけ視聴率が落ちるんですよね…だから特集企画も通りづらいんです」

「テレビの質が落ちているからだろうけど、マトモな視聴者はどんどんテレビから逃げていく。そして残った低俗なものを好む視聴者にあわせ、テレビはどんどん劣化していく。そんなテレビの質のデフレスパイラルがあるんじゃないか、と思います」

出典:某有名ニュース番組ディレクター談

○メディアは育てるものでもある

あえて、強調するが、マスメディアの中にも、ジャーナリズム精神を持った有能で良心的な記者やディレクターは確実にいる。だが、彼らが十分、やりたいことをやれず、そのジャーナリストとしての能力を発揮しきれないのは、彼らだけの問題ではなく、間違いなく視聴者や読者側の問題でもある。より多くの人々が社会的なテーマや政治、国際情勢に興味を持ち、良心的な仕事ぶりにはエールを送るなどをしたら、日本のメディアはもっとマシになるのではないだろうか。メディアは単に批判するだけのものではなく、育てるものでもあるということを、多くの人々に考えていただければ、と願う。

(了)

*配信当初、GPIFの最大損失額予想の政府答弁書の発表について、誤って「今年1月」と書きましたが、正しくは「昨年1月」でした。配信後、気がつき修正させていただきましたが、今後このようなことがないよう、重々気をつけたいと思います。申し訳ありませんでした。