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地方選挙で連勝も「政権に追い風」かは別―機能不全になりつつある日本の民主主義

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
辺野古の抗議テント。先の宜野湾市長選で勝利した現職も米軍基地辺野古移設には触れず

沖縄宜野湾市長選、東京都八王子市長選、山口県岩国市長選と、注目された地方選挙では、いずれも政府与党が支援する現職が当選した。参院選に向け、弾みをつけたい安倍政権としては、胸をなで下ろしたことだろう。

ただ、大接戦となった宜野湾市長選以外は投票率は低く、岩国市長選では47.49%で過去最低、八王子市長選に至っては、わずか32.6%だった。これでは、お世辞ににも民意が反映されたとは言い難い。低投票率では、自民や公明などの組織票を持つ政党が強い。組織の力の差で競り勝った、ただそれだけ。ここ数年繰り返されるおなじみのパターンだったのだ。

○今夏の参院選、投票率はどうなる?

振り返ってみれば、前回の参院選(2013年)も戦後3番目の低投票率だった(52.61%)。今年夏の参院選も初の18歳からの投票が行われるが、それが投票率上昇につながるかは、何とも言えない。前回参院選の世代別の投票率を見ると、74歳以下では、見事に若年層になればなるほど、投票率が低下しているからだ。

関連情報↓

http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/072sangi/682/

なぜ、投票率が伸び悩むのか。それは、政党や政治家が有権者に訴える力が弱いから、ということが大きいのだろうが、有権者側の問題もあるだろう。

○投票したい候補(党)がいない場合、どうするか

よく選挙に行かない理由として「投票したい候補(党)がない」というものがあげられるが、上記したように、自民や公明などの組織票を持つ政党が強い。選挙に行かないということは、これらの政党に投票していることも同じことなのだ。どうしても「投票したい候補(党)がない」場合でも、戦略的投票というやり方もある。つまり、有権者が自分にとってベストの候補(党)はいない場合でも、最悪の候補(党)が勝つよりは、少しでもマシな候補(党)を勝たせるため投票する、というものだ。

学生団体SEALDsがアップした戦略的投票についての動画

○投票義務制も必要?

議会制民主主義制をとる国において、投票とは制度の根幹をなすものだ。だから、投票を義務とし、棄権には罰金を科す国々もある。オーストラリアやベルギーなど国々がそうだ。義務化しても、即座に有権者の政治への関心や政治の質が上がるわけでもないだろうが、少なくとも今よりは民意を反映した選挙結果へとなるだろう。日本でも、このまま投票率が低下するなら、議会制民主主義国家の体をなさなくなる。義務化を含め、投票率を向上させていく取り組みが必要だろう。

○人々の生活に余裕が必要

一方、投票率の低下には、人々が目の前の生活に必死で、選挙どころではない、という面も多分にあるだろう。筆者もブラック企業・ブラックバイト関連の取材をしていてわかるのだが、連日残業で土日も休めない、あるいは自宅に仕事を持ち帰ってやっているという状況が一般化しつつある。ちょうど今日から今年の春闘が始まるが、重要なのは賃上げだけでなく、残業を減らすことだ。日々、限界まで疲労困憊している中で、政治のことも考えろ、と言っても無理があるというものだろう。

今年の夏の参院選は、その結果によって改憲するかしないかという、正に日本の政治や社会の在り方の根本が変わりうる重大な選挙である。だからこそ、一人でも多くの有権者が参加するよう、ありとあらゆる取り組みがなされるべきである。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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