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NHKで大暴言、憲法読めない高村副総裁が露呈―自民党改憲草案のデンジャラスさ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
自民党の高村副総裁(写真:ロイター/アフロ)

今月3日放送のNHK「日曜討論」での、高村正彦・自民党副総裁の憲法をめぐる発言には全くもって驚かされたが、呆れる程、メディアでとりあげられていない。おそらく、メディア関係者らが高村発言のどこが問題なのかわかっていないからなのだろうが、その危険性を指摘したい。

〇正反対のものを「同じ」とうそぶく

問題の発言は、共産党の志位和夫委員長に、自民党の改憲草案について「『公益及び公の秩序』のために基本的人権を制約できるとある」と指摘された際に飛び出した。これに対し、高村副総裁は、「それは現憲法の『公共の福祉』を置き換えただけ」「わかりやすく言い換えたもので意味は変わらない」と言ってのけたのだ。だが、日本国憲法における「公共の福祉」と、自民党の改憲草案での、「公益及び公の秩序」では、180度意味が違う。大事なことなので、もう一度、強調する。今回の高村発言は、全く正反対のことを同じものだという詐欺的発言だ。具体的に言うと、

日本国憲法における「公共の福祉」とは、個人の人権と別の個人の人権が衝突する際の調整機能だ。つまり、Aさんの権利を際限なく認めた場合、Bさんの権利が侵害されることになるので、そこは調整しましょう、というものである

これに対し、

自民党の改憲草案における、「公益及び公の秩序」とは、国家の都合のため、個人の人権を抑圧することができる、という全体主義的なものだ

そもそも、日本国憲法は、戦前・戦中の国家権力の暴走が悲惨な戦争へと突き進み、多くの人々の人権を抑圧し、命を奪ったという反省から、立憲主義に基づいたものとなっている。つまり、憲法は国家権力を縛り、その暴走から人々を守るもの、という主義だ。その立憲主義において、要となるのが「個人主義」。つまり、個人が尊重され、その自由や権利が保障されるというものだ。だからこそ、個人の人権VS個人の人権の調整機能である「公共の福祉」は、国家が権力で個人の人権を押さえつけるという「公益及び公の秩序」とは、本質的に、全く正反対なのである。

「公益及び公の秩序」について、自民党の改憲草案Q&Aでも「憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないと明らかにしたもの」と書かれており、「公共の福祉」とは区別されている。高村副総裁は、弁護士資格を持つだけに、その違いもわかるはずだ。よほど、耄碌していない限り、公共の放送でウソをついた、ということになる。

〇高村発言が示す改憲案の危険性

今回の高村発言が捨て置けないのは、基本的人権を制限するという、極めて重大なことについて、誠実さに欠けるからだが、それは自民党改憲草案にある「非常事態条項」にも直結してくる。つまり、非常事態宣言を行うことにより、内閣が国会を通さずに法案を成立させることができる、何人も政府の指示に従わなくてはならないという自民党改憲草案98条および99条だ。同条文案には「基本的人権は最大限に尊重されなくてはならない」とは書いてあるものの、それでなくとも、自民党の改憲草案は、いかに基本的人権を制限し、人々を公なるものに従わせるか、という色合いが極めて濃厚だ。独裁状態とも言える強大な権限を安倍政権が手にした際、果たして本当に基本的人権が守られるか。今回の高村発言により、ますます疑念が増したとも言える。

〇メディアは追及を

高村副総裁が、問題の発言をした際、志位委員長は「全く違う」とツッコミを入れたが、司会者が絶妙なタイミングで介入。議論を中断させてしまった。翌日のメディアでは、高村副総裁と民進党の岡田克也代表とのやり取りについては報じたものの、この日の放送の最大の暴言についてはスルーしていた。振り返れば、昨年の安保法制審議などでも、安倍政権は砂川事件の判決を集団的自衛権行使は「合憲」である根拠にするなど、詭弁や事実を捻じ曲げた説明を繰り返してきた。「ウソも繰り返せば、人々は信じる」―そんな「ナチスの手口」じみた不誠実さを、メディアはもっと追及するべきだ。メディアの追及が甘いからこそ、権力は図に乗り、より不誠実なものとなっていくのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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