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自衛官の父、「安倍劇場」を叱る―国会での自民議員総立ちの拍手に「冗談じゃない!」

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
現役自衛官の父、富山正樹さん(中央)。安保法制差止訴訟の原告でもある。

安倍首相が先月26日の衆院本会議で行った所信表明演説で、自衛隊員などに敬意を示そうではないかと呼びかけた際、自民党の議員たちが一斉に立ち上がり、約20秒間も拍手を行うという場面があった。だが、自衛隊員の家族からは「私達を利用するな」と反発する声も上がっている。

〇国会で異様な「安倍劇場」

問題の場面は、安倍首相が以下のように発言し、自ら拍手した時のことだった。

「わが国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く」「現場では、夜を徹して、海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が、任務に当たっている」「彼らに対し、いまこの場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」

安倍首相の拍手に促され、自民党の議員らが総立ちでの拍手喝采したのだ。戦後の国会史上初の異様な雰囲気に対し、野党議員らからは「まるで北朝鮮かナチス」「気持ち悪い」と批判の声が上がり、与党側も佐藤勉・議院運営委員長が「不適切だった」と認めた。

〇憤る自衛官の父親「政治利用するな」

自衛隊員を称えた安倍首相だが、当の自衛隊員の家族らには安保法制により、自衛隊員が危険にさらされるのではないか、という懸念がある。福岡市在住の鍼灸師で、次男が現役の自衛隊員である富山正樹さん(52歳)は、「冗談じゃない、と言いたいですね」と自衛隊を政治利用する安倍首相に憤りを感じたという。

「安保法制によって、今年の11月から南スーダンに派遣されている自衛隊のPKO部隊が、駆けつけ警護、つまり他国の部隊の掩護のために戦闘を行えるようになりますが、南スーダンでは大統領派と副大統領派が戦闘を行っている内戦状態。誰がどう見ても、PKO派遣の5原則に反し、自衛隊を送れる状態ではないのに、安倍首相はそれを認めようとしない。所信表明演説では、自衛隊員を利用するくせに、許せません。もし自衛隊員が犠牲になったら、一体誰が責任を取るのでしょうか?」(富山さん)。

富山さんは、イラクやアフガニスタンでの対テロ戦争で米兵達がボロボロになっていく様を、米兵の家族らから聞き、また自身で調べていくうちに、黙っていてはいけないと確信したと言う。

米国では、1日に22人の帰還兵が自殺し続けています。戦場で負った心の傷、恐怖や後悔の念から、酒やドラッグに溺れていく。家族や恋人、医師やカウンセラーも、帰還兵たちを助けることはできない。それが、『帰還した兵士とともに、家庭や社会に戦場が持ち帰られる現実』です。今、自衛隊員には安保法制について厳しい箝口令が敷かれていますが、だからこそ、自衛隊員の家族が声をあげるべきですし、自衛隊関係者以外の、一般の市民の方々にも、無関係だと思ってほしくはありません」。

富山さん自身は、昨年の7月から、街頭に立ち、安保法制反対のアピールを続けているという。

富山さんと話していて、筆者が思い出すのは、イラク取材中に出会った米軍兵士らの、血を吐くような叫びだ。「俺は、(当時の米大統領の)ブッシュに騙された!あの、クソったれ野郎に!!」「こんなはずじゃなかった、俺はこんなところに来るべきじゃなかったんだ!」。PKO5原則での派遣可能な状況とかけ離れた南スーダンで、今後、自衛隊が駆け付け警護などの戦闘行為に従事するならば、その自衛官らは、筆者が出会った米兵達と同じような苦悩を抱えるのかもしれない。

〇リアリティと責任感を持って政策を論じるべき

自民党議員総立ちの拍手について、安倍首相は、「どうして批判されるのかわからない」(先月30日、衆議院予算委員会)と反論するが、まるで、太平洋戦争時、自分たちは安全なところにいながら、若者達に「特攻」させた旧日本軍上層部のようだ。富山さんも不気味さと憤りを感じているという。

「カッコ良くみせないと、鼓舞できないのでしょうけども、安保法制によって、自衛隊員やその家族が直面している悲しい、つらい部分には触れないで政治利用する。ふざけるな、と思います」。

安倍首相も、拍手した自民党の議員たちも、心情的な演出で自己陶酔するのではなく、リアリティと責任感を持って政策を論じるべきだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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