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南スーダン自衛隊PKO派遣の問題点まとめ&対案としてすべきこと

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
南スーダンでは治安が悪化、国連も「内戦が再燃している」と声明を出した。(写真:ロイター/アフロ)

来月、南スーダンに派遣される予定の自衛隊の部隊に、安保法制により可能となった、「駆けつけ警護」を、新たな任務として付与するか、政府は来月半ばにも決定するという。駆けつけ警護とは、他国のPKO部隊や一般市民が武装集団などに襲撃された際、自衛隊が駆け付けて、応戦するというものだ。だが、南スーダンへの自衛隊のPKO活動には、主に以下のような問題点がある。

・憲法上の問題がある―南スーダン軍と交戦の恐れ

・PKO協力法にも反する―停戦が実現したとは言い難い

・自衛隊員が拘束された場合、捕虜としての人権が守られない

・最も必要とされる支援は、駆けつけ警護ではない

○憲法上の問題がある―南スーダン軍と交戦の恐れ

南スーダンでは、2013年12月に大統領派と反大統領派の内戦が勃発。今年7月には首都ジュバを中心に大規模な戦闘が行われ、それ以後も各地で戦闘が頻発している。問題は、南スーダン正規軍の兵士達も非人道的な蛮行を繰り返しているということだ。今年7月には、米国人も含むNGO職員らが、南スーダン軍の兵士らに襲撃を受け、女性職員らが集団暴行され、その場にいた現地人記者が殺されるという事件が発生。この件の事実関係について南スーダン政府も認めている。また、この事件の際にPKO部隊はNGO側から救援要請を受けていたにもかかわらず、出動しなかったため、PKO部隊を統括するUNMISS(国連南スーダン派遣団)は強い批判にさらされている。したがって、再び同じような状況になった場合、UNMISSは、南スーダン軍との衝突も辞さない可能性もある。つまり、UNMISSの指揮下に入る自衛隊は、最悪の場合、南スーダン軍と交戦することもあり得るのだ。また、積極的に自衛隊から出動しなかったとしても、PKO基地付近で戦闘があった場合、自衛隊も巻き込まれ、応戦する可能性もある。だが、これらは、交戦権を否定した憲法第9条に完全に違反することだ。

○PKO協力法にも反する―停戦が実現したとは言い難い

南スーダンでの活動に向けた訓練を行う自衛隊。陸自ウェブサイトより
南スーダンでの活動に向けた訓練を行う自衛隊。陸自ウェブサイトより

南スーダンの首都ジュバでの今年7月の戦闘では、民間人含む約300人が死亡、PKO部隊でも、中国軍の隊員2名が死亡、5名が負傷する事態となったが、それ以降も安倍政権が言う「平穏な状況」とは言い難い。この10月10日にも、ジュバ近郊で反大統領派の待ち伏せ攻撃で、21人が死亡する事件が起き、同12日、UNMISSも情勢悪化を警戒する声明を出している。この様な状況は、PKO協力法の5原則に反するものだ。つまり、

(1)紛争当事者間で停戦合意があること

(2)受入国と紛争当事者の同意があること

(3)中立的立場を厳守すること

(4)以上のいずれかが満たされなくなった場合は即時撤収・撤退すること

(5)武器使用は要員の生命保護など必要最小限が基本であること

という原則のうち、(1)と(4)に反している。また、駆けつけ警護は、(3)と(5)に抵触する可能性が高い。自衛隊の海外派遣という重要な決定は、精神論や方便で強引にするのではなく、法を厳守して行われるのが、当然のことである。安倍晋三首相は、この10月11日の参院予算委員会で、大野元裕参議院議員に今年7月のジュバでの戦闘について問われた際、

「武器をつかって殺傷、あるいは物を破壊する行為はあった」「我々は一般的な意味として衝突、いわば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」

と答弁。あれは戦闘ではなかったとの見解を示したのだが、詭弁を弄するのではなく、現実を直視し、法に従ってPKO任務についての判断を行うべきだ。

○自衛隊員が拘束された場合、捕虜としての人権が守られない

昨年7月1日、衆院「安保法制」委員会の審議で、岸田文雄外相は海外で外国軍を後方支援する自衛隊員が拘束されたケースについて

「後方支援は武力行使に当たらない範囲で行われる。自衛隊員は紛争当事国の戦闘員ではないので、ジュネーブ条約上の『捕虜』となることはない」

と述べた。それは、仮に南スーダンに派遣された自衛官が誘拐・拘束されたとしても、捕虜の人道的待遇を義務付けたジュネーブ条約によって保護されない、つまりは自衛官が拷問されたり、虐殺されたりしても文句が言えない、ということを意味するのだ。交戦権を認めるわけには、憲法上できないからであろうが、充分な法的な保護もなく、自衛隊員を危険な紛争地に送るなど、言語道断であろう。

○最も必要とされる支援は、駆けつけ警護ではない

今年9月、南スーダンで支援活動を行った今井高樹氏。JVCのウェブサイトより
今年9月、南スーダンで支援活動を行った今井高樹氏。JVCのウェブサイトより

仮に、自衛隊がPKO部隊として駆けつけ警護の任務を付与されたとして、南スーダンをめぐる状況を改善する上では、できることはあまりない。むしろ、自衛隊の派遣以外に貢献できることがある。今年9月、困窮する避難民への人道支援活動のため、南スーダン入りした日本国際ボランティアセンター(JVC)の今井高樹氏は「国内避難民や周辺国に逃れた難民は合わせて250万人にも及びます。こうした人々への支援活動こそ急務です」と語る。「ただ、やはり戦闘が続いている限り、支援を必要とする避難民は増える一方です。根本的な問題の解決として、やはり停戦を実現しなくてはなりません。日本政府は、南スーダン政府への多額の支援を決定していますが、お金は出すけど、口は出さない、という状況です。停戦しなければ、お金も出さないという姿勢を強く出していくことが重要なのではないでしょうか。現在、南スーダン政府は、同国の油田地帯で戦闘が頻発しているため、石油の生産・輸出がほとんどできていません。その結果、財政が厳しくなり、給料が払われずに困窮した警察官や軍兵士による略奪が、治安悪化に輪をかけています。現政権を認め、財政支援を行う代わりに、反大領領派との和平や人権状況の改善を強く求めていく。そうした合意を取り付け、約束が守られるように監視もしていく。それが、日本政府がやるべきことだと思います」(今井氏)。

○自衛隊を人柱にせず、日本としてできる貢献を

戦車や軍用ヘリが投入されての大規模な戦闘を「衝突」だと詭弁を弄し、法的な保護もないまま自衛隊員に危険な任務を負わせようとする。安倍政権の振る舞いを見ていると、自衛隊員を犠牲にして、それをテコに改憲への流れをつくろうとしているのでは、と疑いたくなる。いずれにしても、安倍政権は無理なことは無理だと認め、前出の今井氏がのべたような、日本だからこそできる方法で、南スーダンに貢献することを目指すべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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