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トランプが核戦争を引き起こす?!中東危機の深刻化、米ロの対立―日本も他人事ではない

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
米イスラエル広報委員会の会合で発言するトランプ氏。親イスラエル路線を強調(写真:ロイター/アフロ)

米国大統領選で「世界の警察はやめる」等、内政重視を強調してきた、トランプ氏。だが、その外交政策はかなり攻撃的だ。特にイランとの核合意の破棄、イスラエルとの関係強化といった外交政策は、最悪の場合、中東での核戦争を招きかねず、米国とロシアの対立も生む。安保法制で集団的自衛権の行使を認めた安倍政権にとっても他人事ではない。

〇イランとの核合意を破棄!?

トランプ氏が大統領就任後の外交政策として強調していたことに、「イランとの核合意の破棄」というものがある。これは、昨年7月、米欧など6カ国とイランが合意したもので、イランが核兵器を開発できないまで核開発を縮小することを条件に、米欧や国連安保理が同国への経済制裁を解除するというもの。今年1月、米欧など6ヵ国は対イラン制裁を解除した。だが、これに先立つ昨年3月、米国の共和党議員47人が「核開発問題の解決についてイランと欧米6カ国とが合意できたとしても、オバマ大統領が退任後、共和党政権になれば直ちに破棄されるだろう」と警告する共同書簡をイラン政府へ送っているのだ。この共同書簡に署名した47人の中には、08年の大統領選での共和党候補になったジョン・マケイン上院議員、上院総務を務めるミッチ・マコーネル上院議員などの重鎮、今回の大統領選の予備選に出馬したテッド・クルーズ上院議員、マルコ・ルビオ上院議員も含まれている。大統領選では浮いた存在だったトランプ氏だが、共和党主流派との関係改善を目指しており、そもそも対イラン政策では、「核合意を破棄せよ」との主張は似通っている。CBSやFOXなど米国大手メディアは、トランプ氏が「最悪の合意」とイランとの核合意を非難し、これを撤回する可能性について一斉に報じているのだ。それは、核兵器開発を思いとどまったイランを、再び核兵器開発へと向かわせることになるだろう

〇イスラエルへの接近でリスク増、米国とロシアの対立も?

イランが、トランプ氏の動向で核合意の破棄以上に神経を尖らしているのが、イスラエルとの接近だ。トランプ氏は大統領選の最中、度々イスラエルとの関係強化を訴えてきた。今年7月の遊説では、「イスラエルは重要な同盟国だ。100%守る」とも発言。そのイスラエルは、イランの核開発に神経を尖らしており、2009年から2012年にかけ、政権内で幾度も対イラン攻撃が検討されたことを、エフード・バラク元国防相が昨年8月、明らかにしている。これらの攻撃計画が実行されなかったのは、イスラエル単独でイランの核施設を破壊できる能力がないことや、全面戦争になった場合、逆にイスラエルが不利になるといった分析があったからだ。当時は、米国の政権にしてはイスラエルに厳しいオバマ政権であったが、反イスラム・親イスラエルのトランプ氏が米国の次期大統領となることは、米国とイスラエル合同での対イラン攻撃の可能性が高まることを意味する。トランプ氏の親イスラエル発言の連発に、イランの最高指導者アハメド・ハメネイ師も今月11日、国営ラジオで「ライオンの尾をもて遊ぶようなものだ」と、トランプ氏に警告するなど、緊張の度合いを高めている。一方、ロシアは近年、多額の経済協力を行うなど、「同盟国」としてイランとの関係を深めている。トランプ氏はロシアのプーチン大統領を評価しているようだが、対イラン政策をめぐっては、米国とロシアが対立することになるかもしれない

〇トランプ氏、核兵器使用も容認?!

トランプ氏の外交・安全保障政策が中東での緊張を高めている中、輪をかけてリスクを増大させているのが、核兵器使用をめぐるトランプ氏の発言だ。大統領選の最中、トランプ氏は対テロ戦争での戦術として、複数回、「核兵器を持っているのに、使えないのでは意味がないではないか」と発言したとされている(関連情報)。しかも、トランプ氏の言う対テロ戦争の矛先には上記したように、イランも含まれている。海外メディアはそうしたトランプ氏の発言を真剣に分析。今月14日付けのワシントンポスト紙も米国の科学者たちがトランプ氏の核使用を懸念しているとの論考を掲載、イギリスの諜報機関MI6の元長官であるジョン・サワー氏も、英BBC放送のラジオ番組で、「トランプ氏がロシアや中国との核戦争を引き起こす懸念がある」と発言している。ただでさえ、シリア情勢やウクライナ情勢をめぐり、米ロ関係は悪化しているが、トランプ氏がイランへの攻撃を強行したら、米ロの対立はさらに激しいものとなるだろう。

〇日本にとっても他人事ではない

イランを舞台にした中東での大戦争が起きた場合、安保法制で集団的自衛権の行使を可能にしたとする日本にとっても、他人ごとではない。安倍政権は集団的自衛権行使の三要件の一つとしての「存立危機事態」で、ホルムズ海峡での機雷除去をあげているが、これは事実上、対イランを想定しているものだ。だが、イランも核兵器も近い将来核兵器を持つかもしれず、イスラエルも事実上の核保有国。さらに米国やロシアも絡むかもしれない、大戦争が発展した場合、日本も集団的自衛権を行使して、自衛隊を派遣するのか?仮に戦争に巻き込まれないにしても、戦争が勃発したら原油価格高騰など、日本経済にも大きな影響が出るだろう。安倍首相は今月17日、トランプ氏と会談する予定だが、「被爆国」としてトランプ氏の過激な外交政策をいさめることが重要だ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相はトランプ氏への祝辞で、「民主主義や人々の権利や尊厳を尊重すること」と、クギを刺した。そうした確固とした信念が、日本の対トランプ外交にも必要なのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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