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安倍政権に「捨て石」にされる自衛隊―南スーダン派遣は不条理すぎる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
19日に行われた国会前での南スーダン自衛隊派遣への抗議。約3800人が参加した。

はっきり言って、誰の目から見てもおかしいことだ。政府の命令により、陸上自衛隊の部隊の先発隊が、昨日20日、南スーダンにむけて青森空港を出発した。PKO活動へ参加するためではあるが、内戦状態にある南スーダンでの任務は危険がともなう。安保法制によって新たに任務とされた「駆けつけ警護」は違憲であるという見方が、野党や専門家からは指摘されている。正直なところ、自衛隊が南スーダンに派遣されても、できることは限られているだろう。自衛隊が直面するリスクに対し、南スーダンの状況の改善というベネフィットがあまり期待できない。それでも安倍政権が派遣をゴリ押しするのは、何故なのか。

◯改憲の捨て石にされる自衛隊

南スーダンへの自衛隊を派遣し、「駆けつけ警護」の新任務の付与する安倍政権の目的は、何か。国際貢献ということもあるのだろうが、それだけではなく、要は、憲法を破壊することだろう。駆けつけ警護の任務を与えられたものの、既に指摘してきたように、現地で虐殺や略奪を繰り返しているのは、反政府勢力のみならず、南スーダン政府軍もまた加害者である。今年7月に国際NGOのオフィスを襲ったのも南スーダン軍の兵士達だった。現地の政府軍と自衛隊が戦うことは、交戦権を否定した憲法に明らかに反する。だから、現地で南スーダン軍が問題を起こした場合も、自衛隊は動きづらい。場合によっては国際的な批難を浴びることもあり得る。その様な事態になった際、「戦えない憲法が悪い」として、改憲論に話を持っていくのだろう

自衛隊員が任務中に殺されてしまうこともあるだろう。実際、他国のPKO部隊でも犠牲者は出ている。そのような場合、安倍政権は自らの責任を棚に置き、自衛隊員の犠牲を最大限に利用するだろう。「PKO任務で充分な装備を持てないことが犠牲をを招いた」「戦えない憲法を変えよう」と主張し始め、元々従順な大手マスコミも自衛隊員に犠牲者が出てしまえば、一層、反対し辛い雰囲気になるだろう。つまり、安倍政権は改憲という自身の偏ったイデオロギーのために、自衛隊を捨て石にしているのだ。

◯自衛隊を派遣しなくても国際貢献を行う方法はある

南スーダンに自衛隊を派遣しなくても、国際貢献する方法はある。既に260万人以上となっている難民や国内避難民への人道支援だ。また、大統領派と反大統領派との和平交渉を進めることが重要だ。日本は既に2013年12月以降、総額38億7,300万円の対南スーダン支援を実施している。こうした援助を背景に、大統領派に強く和平交渉の進展を求め、また反大統領派の武装解除を進めていくべきだ。そのような活動の方が、国際的にも評価されるだろう。

◯命令を下す者の責任は重い

自衛隊はあくまで、日本の平和と安全のために存在するのであり、なんでもできる便利屋のような扱いをするべきではない。既に、本来の任務のための訓練の他、被災地支援や米軍等との共同訓練など、自衛隊が抱える負担はかなり大きなものとなっている。それよりも、「各国のワインの味だけは詳しくなる」と揶揄されるような、外務省の職員らの、交渉力や行動力を強化することが、国際政治の中で重要になってくる。それは政治家にも言えることだ。己の無能さや、偏ったイデオロギーのために、自衛隊の命を軽んじるべきではない。自衛隊員は命令があれば、それが命がけの任務であっても、命令に従う。だからこそ、命令を下す者の責任も非常に重いのだ。その責任に対し、「戦闘でなくて衝突」等の国会審議での安倍政権の言葉は、あまりに軽い。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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