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トランプ政権が暴走する今だからこそー日本のNGOが塗り固められたイメージと異なる中東を紹介

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
相沢恭行さん(右)とハニ・デラ・アリさん(左)。PEACE ON提供

米国のトランプ大統領が、イラクやシリアなど中東の国々7か国の人々が米国に入国することを拒否する大領領令を発し、JALやANAなどの日本の航空会社もこれに従うなど、今、中東の人々への差別が公然と行われている。そんな中、東京都・京橋のギャラリーでは、日本のNGOが、現地アーティストの絵画作品や、織物などを展示。主催者の一人、相沢恭行さんは「中東と言うと、日本ではIS(イスラム国)とかの過激派を連想する人々がすくないでしょうけども、それだけではなく、豊かな文化があることを知ってほしい」と語る。

〇塗り固められたイメージと異なる中東アラブ世界を見てほしい

昨日30日から東京都中央区の「ギャラリーモーツアルト」で、“Amal for Peace展 2017”が催されている。アマルとは、アラビア語で「希望」という意味。イラクやシリア等、中東の国々への人道支援文化交流を行うNGO「PEACE ON」と、パレスチナの織物などのフェアトレードを行う「パレスチナ・アマル」の主催、NGO「日本イラク医療支援ネットワーク」と、シリアの女性たちの縫物などのフェアトレードを行う「イブラ・ワ・ハイト」の共催。ヨルダン在住のイラク人画家のハニ・デラ・アリさんの絵画や、中東の人々が頭や首に巻く布「クフィーヤ」などを展示している。イスラム教徒や中東の人々というと、日本のメディア上でも物騒なイメージで語られることが少なくない。「PEACE ON」代表の相沢恭行さんは今回の展示を通じ、「日本の人々が中東を見る新しい“窓”を提供できたらと思います」と言う。

「破壊と殺戮のイメージに塗り固められた中東アラブ世界ですが、そこで生きぬく人々の心には、悠久の歴史の中で育まれ華やいできた美しい文化があるのです。イラク戦争で、人道支援のために現地に入った2004年の春、あちこちで戦闘や自爆攻撃が行われている中でも、屈することなく自分たちの作品をつくり、展覧会などの活動を続けるイラクのアーティストたちの姿に感銘を受けました。戦乱の中でアートなんて、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、『人はパンのみに生きるにあらず』。戦争で心が疲弊してい時こそ、アートもまた必要とされているのではないかと思います。僕自身、自分がイラクの人々を助けているというより、イラクのアーティス達の命がけのメッセージにとても励まされています」。

〇イラク人画家が作品に込めた故郷への思い

ナツメヤシの葉や繊維で手すき紙に書かれたハニさんの作品
ナツメヤシの葉や繊維で手すき紙に書かれたハニさんの作品

今回の展示で中心となるのは、イラク人画家のハニ・デラ・アリさんの作品。イラク西部ヒートの出身のハニさんはかつては首都バグダッドで活動していたが、幼い子ども達の安全のため、隣国ヨルダンに避難せざるを得なかった。ヨルダンで高い評価を受けたハニさんだが、故郷への思いは強まる一方で、彼の作品にもそうした郷愁が反映されているという。

「日本でいうところの桜のような、イラクの象徴的な木はナツメヤシです。その実はとても栄養があり、国外にも輸出されている特産品です。『生命の樹』とも呼ばれるナツメヤシは、故郷の大地とそこで生きる人々を結びつけてきた貴重な存在であるということを、ハニは戦争によって故郷イラクから引き剥がされ、時代の混沌に投げ出されるなかで改めてその意味の大きさに気が付きました。人は生まれ育ってきた土地と分かちがたく結びついていて、そこから離れて生きるということは、たとえ安全な生活が保障されていたとしても、魂のなかで何かが決定的に損なわれてしまうということを。それは、震災や原発事故で、避難を余儀なくされた日本の人々にも通じる気持ちかと思います。ハニは、日本の和紙をヒントに、イラク人の女性たちがナツメヤシをすいた紙を使って、作品を描いています。その主なテーマもナツメヤシと農婦です」(相沢さん)

〇こんな時だからこそ、イラクと日本の掛け橋に

会期中、かつてインディーズバンドとして活躍した相沢さんのミニライブも催される。
会期中、かつてインディーズバンドとして活躍した相沢さんのミニライブも催される。

相沢さんは、年内にハニさんの日本招聘も計画しているという。「ISは絶望で人々を引き付けているのだと思います。破壊と暴力の連鎖の中で、強い憎しみを抱えた人々を吸い寄せている。米国のトランプ政権も人々の憤りや不満に付け込んでいる。こんな時だからこそ、人間性を取り戻すアートの力で、イラクと日本をつないていきたい。是非、日本の人々に、メディアでの塗り固められたイメージとは異なる、中東アラブの世界を知っていただければ、幸いです」。

「ギャラリーモーツアルト」での展示は、今週2月4日まで。明日1日には、相沢さんと、パレスチナ・アマルの北村記世実さん、モスルでの緊急支援から帰国したばかりの日本イラク医療支援ネットワーク事務局長・佐藤真紀さんとのトークも行われる。

(了)

Amal for Peace展 2017

中東和平の美 ~美への希求から伝えたい和平への願い~

期間:2017.1/30-2/4

11:00-19:00(最終日17:00)

場所:ギャラリーモーツアルト

東京都中央区京橋1-6-14 YKビル1F 

イベント等の詳細はURL参照。

http://npopeaceon.org/?p=311

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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