あなたの銀行は大丈夫?688の金融機関560兆円が撤退!石油や石炭が「座礁資産」に―国際NGOが講演
188カ国で地球温暖化防止に取り組んでいる国際環境NGO「350.org」のメイ・ブーヴィ事務局長が来日、2月1日、都内で開催されたイベントで基調講演を行った。ブーヴィさんは、地球温暖化問題を悪化させている石炭・石油などの化石燃料産業への投資を引き上げる「ダイベストメント」の国際的な動きを紹介。日本の人々にもお金を預けている銀行が、石炭事業に多く投資していないか確認し、場合によっては預け先の銀行を変えるよう、呼びかけた。
◯5兆ドル以上の資産が化石燃料への投資から撤退
「ダイベストメント」とは、元々は、戦争や環境破壊、人権侵害などを促進する倫理的に問題のある国家や企業、事業などから投資を引きあげること。近年では、地球温暖化防止のため、化石燃料関連事業、とりわけ石炭関連事業からの投資の撤退を呼びかける動きが国際的に高まっている。1日の講演でブーヴィさんは「既に世界688の機関が石油や石炭などの化石燃料からの投資引き上げを宣言、その運用資産の総額は5兆ドル以上です」とダイベストメントが世界の投資に大きな影響を与えていると語った。また、ブーヴィさんは、「地球温暖化の深刻な影響を防ぐためには、現在の化石燃料の埋蔵量のうち、その8割は燃やすことができない」と、石油や石炭などの大部分が使えなくなるとして、これまで莫大な富を産んできた化石燃料は「投資の回収が見込めない座礁資産となりつつある」と指摘した。
◯石炭火力発電を推進する日本
世界的なダイベストメントの動きの中でも、特にターゲットとされているのが、石炭火力発電だ。比較的「クリーン」とされる高効率型の石炭火力発電でも、天然ガス火力発電に比べ、約2倍のCO2(二酸化炭素)を排出してしまう。そのため、一昨年11月、日米欧など先進諸国が参加する経済協力開発機構(OECD)の会合でも、原則として石炭火力発電の輸出への公的融資は禁止されることが決議された。他方、こうした「脱石炭」の流れに真っ向から抵抗しているのが、日本だ。
ブーヴィさんは、日本が支援した具体例として、インドネシア・西ジャワ州での、チレポン石炭火力発電所1号機をあげ、「大量のCO2を排出するだけではなく、汚染による地元漁業への悪影響や住民の健康被害、農民の失業など、様々な問題を引き起こしています。住民の合意形成も不十分で多くの人々は、何の事前説明や意見表明の機会も与えられないまま、いきなり建設計画の決定を知らされました」とその問題点を指摘した。
チレポン石炭火力発電所1号機の建設には、日本の国際協力銀行が2.14 億ドルを融資。韓国輸出入銀行や、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行も、融資を行っている。また、事業主体の現地法人に出資しているのも丸紅や中部電力。1号機への融資が決定されたのは、2010年で民主党政権時だったが、現在、安倍政権の下で、さらに大規模な2号機への融資が検討されている。安倍政権はその成長戦略の一環として、石炭火力発電の輸出を前面に打ち出しており、国際社会からの批判の的だ。昨年のCOP22(国連気候変動枠組条約第22回締約国会議)でも、その姿勢は「クレイジー(狂ってる)」として、温暖化防止に最も後ろ向きな国だと評された*。
*http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20170124-00066909/
◯温暖化を促進する日本のメガバンク
ブーヴィさんは「化石燃料への投資には、日本の大手銀行も深く関わっています。日本の皆さんには、是非、『地球にやさしい銀行』を選んで、お金を預けるというキャンペーンに参加してほしい」と訴えた。350.orgの日本支部「350.org Japan」が行った調査によると、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友などの日本のメガバンクグループを中心に、日本の金融機関は2011年から2016年にかけて約11兆円に及ぶ融資と引受を、化石燃料関連企業に対して行っていたという。350.org Japanは、この調査を下に、特設ウェブサイト「MY BANK MY FUTURE」を開設*。同ウェブサイトには、「銀行見比べ表」があり、自分の銀行が化石燃料及び原発関連企業へどのような投融資を行っているかを簡単に調べられるようになっていて、銀行へ直接メッセージを送ることもできるという。
◯一人一人の意識変革が必要
1日のブーヴィさんの講演は、 350.org Japan主催のイベント「エシカル金融を始めよう!~私たちの選択が地球を救う~」の一環として行われた。エシカルとは、「倫理的消費」、つまり、環境や人権、その他の社会的な問題に配慮した消費活動のこと。本イベントでは、一般社団法人エシカル協会の代表理事でフリーアナウンサーの末吉里花さんや、オーガニック・コットン販売を事業の中心とする株式会社アバンティ代表の渡邊智恵子さん、鎌倉投信株式会社の資産運用部長の新井和宏さんが、文化人類学者の辻信一さんの司会で、ブーヴィさんと共にトーク。「消費者として、生活の中で自分が何を買うか、自身のお金が何に使われているか考えて行動することで、環境や平和に貢献できる」「企業は単に金儲けするだけではなく、皆が幸せになれるビジネスのあり方を模索しないといけない」等が語られた。
米国や中国などを含む温暖化対策の全世界的な取り組みであるパリ協定が発効したことや、太陽光や風力などの自然エネルギーが大躍進し、既存の火力や原子力をも上回る競争力を持つようになったことなど、温暖化関連の世界の動きはここ1,2年で激変している。世界第3位の経済大国として、日本が今後、どのような方向へ進むのか。政府や大企業は勿論のこと、一般の市民の意識も変革していくことが求められているのだろう。
(了)