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W杯優勝は「過去の産物」か?

林壮一ノンフィクションライター
世界一を掴んだ名将なら、メディア対応も一流かと思われたが…(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

「とても難しい、厳しいゲームでした。浦和がゴールした後も、我々は恐れずに戦った。基本的には満足しています。浦和を称えたい」

4月5日、浦和レッズに黒星を付けられた広州恒大監督のルイス・フェリペ・スコラーリは、試合後の記者会見でそう語った。

「満足している? それはおかしいよ」

私の後ろの席に座っていた中国人記者は、そう吐き捨てた。中国人レポーターが順番に敗因を探ると、スコラーリは不機嫌そうに「我々は神様のようなチームじゃない」「4年間で2度アジアを制しているんだ!」等と応じた。

2002年日韓ワールドカップの優勝監督なだけに、プライドが高いのは分かる。しかし、その姿に人間の大きさは感じられなかった。

私も挙手して質問した。

「終盤、広州は足が止まったように見えました。今日は浦和が<走り勝った>という印象を受けましたが、いかがでしょうか?」

すると元世界一の監督は、眉間に皺をよせながら言った。

「そうじゃないと思います」

たった、それだけの回答だった。

最後に、中国人記者が「中国代表選手は疲れがあったのでは?」と訊いても、「彼を称えたいと思う」と素っ気ない。

敗れても美しかったボクシングの元世界ヘビー級チャンプ、ジョージ・フォアマンや元統一ミドル級王者のマーベラス・マービン・ハグラーらの取材を重ねて来た私としては、この日のスコラーリに魅力は感じなかった。

反面、浦和レッズの動きは良かった。一年前の同大会(4.21)で、レッズは水原金星に1-2で逆転負けを喫している。その際、敵将のソ・ジョンウォン監督は「前半、浦和に苦しめられることは予想していた。が、後半、消耗して足が止まるだろうと思っていた。そこを突くプランを立てた」とコメントした。

レッズはあの敗北から学び、修正した様が見えた。

見る人の心を打たねばプロとは呼べない。2016年4月5日のスコラーリは、「元世界一の男」に過ぎなかった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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