選挙世論調査とその結果――2014年衆院選から考える
今回の選挙の特徴
12月14日に投票・開票がおこなわれた衆議院議員選挙。結果は、連立与党である自民党と公明党が全議席の三分の二を維持するという大勝に終わりました。勢力図もこれまでとさほど大きな変化はありません。
こうした今回の選挙の特徴はいくつかありますが、ざっくりまとめるとそれらは以下のようになるでしょうか。
〈1〉争点(消費税増税延期、アベノミクス)の訴求力の弱さ
〈2〉寒波による悪天候や〈1〉などによる史上最低の投票率
〈3〉事前の世論調査による現有勢力維持の予測
やはり今回は、事前にこの選挙がそもそも必要かどうか議論されたように、盛り上がりに欠けるものとなりました。結果、投票率は52%台と戦後最低を更新。北陸や東北での寒波による悪天候も影響したと見られますが、関心の低さがうかがえます。
こうした投票行動になんらかの影響を与えると考えられるのが、事前の選挙世論調査(情勢調査)です。これは、選挙前にマスコミ各社がおこなう議席数予測のこと。国民は、この世論調査を見て「こうなるなら、選挙に行かなくていいかな」とか「こんなことになるなら、それを変えるために選挙に行こう」などと考えるわけです。もちろん、そうした世論調査を知らないまま投票するひとや、世論調査をまったく気にしないひともいるでしょう。
今回のケースで言えば、概ね現有勢力が維持され、大勢に変化はないという予測を各マスコミが出していました。では、その予測はどれほど当たったのでしょうか?
各メディアの議席予測と結果
今回の情勢調査では、新聞各社はどこも似たような予測をしていました。
・自公で3分の2超す勢い 民主70台か(朝日新聞、12月11日)
・自民300議席うかがう、与党3分の2の勢い(読売新聞、12月13日)
・与党、3分の2超す勢い 自民堅調続く 民主伸び悩み 第三極振るわず(毎日新聞、12月8日)
詳しくはそれぞれの記事に譲りますが、世論調査結果は概ねどこもこのような感じでした。
そのなかで具体的に数字を明示していた報道機関は、朝日新聞、産経新聞、週刊文春、Yahoo!などに限られます(読売新聞や東京新聞のように、グラフだけ見せるところもあります)。それらを表にまとめると、以下のようになります。
自公連立与党が議席全体の三分の二を超えるといった大勢は、予想通りの結果だと言えます。また、民主党や公明党の議席数も予想の範囲内であり、大躍進した共産党や大敗した次世代の党についても、各メディアは概ね当てています。
しかし、予測と異なっている点も少しあります。それは、自民党が予測よりも6~21議席少なかったことと、維新の党が予測よりも12~21議席多かったことです。自民党と維新の党が、日本の政治にとって非常に大きな存在感を持つ党であり、注目され続けているのは間違いありません。全体的には精度が高くなったとは言え、予測は誤差範囲を超える程度には外れたのです。
アンダードッグ効果が働いた?
自民党と維新の党についての予測が外れた理由は、はっきりとわかりません。それこそ、外れた原因を探る調査と分析が必要だからです。それは各社が抱える専門家が今後おこない、次の選挙に控えることでしょう。そうして世論調査の精度は上がってきたのです。
世論調査と投票行動の関係については、メディア研究ではかなりむかしからおこなわれてきました。今回、私が気になっているのは、もしかしたらアンダードッグ効果が少し働いたのかもしれない、ということです。
アンダードッグ効果(負け犬効果)とは、報道で不利だと伝えられた党や候補者に票が集まり、事前の予想とは異なる結果を見せる効果のことを指します。つまり、判官贔屓みたいな現象です。今回のケースで言えば、自民党が予測ほどは議席を伸ばさず、維新の党が結果的に現有議席をほぼ維持したこと(42→41議席)がそれに当たるのかもしれません。そういえば、維新の党の橋下徹共同代表は、投票日前日に「もう維新の党、はっきり言って負けます」と街頭演説し、その記事がYahoo!ニュースのトップページに載りましたが、こうしたことが影響を与えているのかもしれません。もちろん野党間の選挙区協力もあって、同情票が流れたのかもしれませんが(※1)。
選挙においては、この逆の効果が働くこともあります。それがバンドワゴン効果です。これは予測をさらに上回る効果のことを指します。つまり、優勢な党や候補者がさらに議席を増やし、劣勢な党や候補者はもっと議席を失うという効果です。このケースで思い出されるのは、2005年の小泉政権時代の郵政選挙や、2009年に民主党が大勝して政権交代を果たした選挙です。つまり、近年はバンドワゴン効果がよく見られたわけです。
バンドワゴン効果とアンダードッグ効果は、ともに報道が投票行動に影響を与えるので、アナウンスメント効果と呼ばれます。そこで気になるのは、インターネットがどの程度そこに影響を与えているのか、ということです。
情勢調査も含んだマスコミ報道と投票行動の間には、昔は存在しなかったインターネットという判断材料がこの15年ほどの間に大きく浮上してきたのです。ブロードバンド、ブログ、mixi、Twitter、Facebook、スマートフォン等々――我々の生活には大きな変化が訪れました。さらに、2013年の参院選挙からはインターネットでの選挙活動も解禁されました。今回もTwitterやFacebookでは、政治的な言説が飛び交っておりました。検索のために単語を盛り込んだり、ハッシュタグ付きのツイートがされたりする例はたくさん見られます。右も左もアーキテクチャをフルに使おうとしています。
今回の選挙結果は、大勢には大きな変化はありませんでしたが、自民党の議席数が予測以下だったことと、維新の党が予測を上回っていたことはやはり注視しなければならないように思います。そこにインターネットによるどのような影響があったのか(あるいはなかったのか)、それは今後の調査と分析を待ちたいと思います。
選挙世論調査が投票行動に与える影響
最後にちょっと個人的な体験を書いておきます。10年くらい前だったでしょうか、都知事選挙で締め切りの5分前(つまり19時55分頃)に駆け込み投票をしたことがあります。安堵しつつ10分後に帰宅してテレビをつけると、そこではさっき投票してきた候補者が落選したという結果が映されていました。そのとき、とても強い徒労感を受けたのを覚えています。たとえ行かなかったとしても、間違いなく結果は変わりません。このときから私は、ほぼ朝一で投票に行くようにしています。もちろんいつ投票しても一票は一票なので、気分の問題なのですが。
今回の低投票率の要因は、争点の弱さという要因はたしかにあるのですが、同時に事前の情勢調査で勢力が大きく変化しないことが報じられていました。もしかしたら、「投票率=予測される情勢変化の大きさ×争点の強さ」みたいな法則があるのかもしれません。まるでオルポート+ポストマンの「流言の伝播力=状況の曖昧さ×ことがらの重要性」のような。
なんにせよ強く思うのは、年々精度と発表速度を上げる選挙世論調査はむかしよりも投票行動に影響を与えているのではないか、ということです(外国では、韓国のように投票日前は世論調査を禁止している国もあります)。それに対して選挙制度はこれまでどおりでいいのか、もしかしたら再考すべきタイミングなのかもしれません。世論調査の禁止は無理でも、たとえば投票締め切りから開票発表まで1時間ほどインターバルを設ければ、もしかしたら投票率は上がるかもしれません。なんにせよこの点は考える余地がまだあるのではないでしょうか。
※1……自民党の得票率や野党の選挙協力、さらに無党派層の票の流れなどさまざまな要因が絡むので、現段階では単純にアンダードッグ効果が働いた結果だとは言い切れません。
※表……各メディアの世論調査の出典は以下。
・朝日新聞2014年12月11日付「自公で3分の2超す勢い 民主70台か 情勢調査」
・産経新聞2014年12月8日付「自民単独で3分の2うかがう 終盤情勢 過去最高議席上回る勢い。民主は低迷、共産躍進」