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2014年・このK-POPがおもしろい![ガールズ編]

松谷創一郎ジャーナリスト
K-POPヒップホップグループ・WA$$UP

2014年もそろそろ終わろうとしていますが、私は今年もK-POPを楽しみました。以前もここで書いたように、K-POPは世代交代の時期に差し掛かっています。少女時代・ジェシカの脱退やKARAの再編などが代表的な例ですが、その一方で勢いのある新人や若手が続々と登場しています。

というわけで、ここで今年私が楽しんだK-POP(ガールズ編)トップ10を記しておきたいと思います。それぞれ公式のミュージックビデオを貼っておきますので、興味ある方はご覧ください。なお、あくまでも音楽の専門家でもなんでもない私の趣味であることは、ご了承ください。ただ、これらの曲をきっかけに、それぞれのアーティストの他の曲を聴いてみたり、あるいはご自身の趣味を開拓されたりなど楽しんでいただければ嬉しいです。

10~5位――不思議ちゃんからセクシー路線、ビッチキャラまで

第10位:Crayon Pop「オイ(Uh-ee)」

この曲については、以前「K-POP界の新星クレヨンポップ、新曲はまさかのポンチャック!」という記事でも触れました。昨年ブレイクを果たしたアイドルグループの新たな一手は、韓国独自のテクノ歌謡・ポンチャックだったのです。完全にコミックソングですが、クレヨンポップのK-POP界における立ち位置は、ずばり“不思議ちゃん”。なるほどこうして“サブカル”(≠サブカルチャー)は生まれるのか、と思いました。同時に、やはりそうした存在が受容されるのは、韓国社会の成熟(多様な価値観の一般化)を意味するのでしょう。

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第9位:Lovelyz「Candy Jelly Love」

11月にデビューしたばかりの8人組。少女時代や東方神起の所属事務所・SMエンタテインメント傘下のウリムエンタテインメントに所属するグループです。このデビュー曲のMVが制服姿なあたり、デビュー時の少女時代や日本のアイドルを連想させます。ただし、楽曲はアイドル的ではありつつも、音はとても清々しい。リズムも面白いし、サビから間奏にいたるあたりの展開が気持ちいいのです。懐古調が主流の現在のK-POPにおいて、流行に流されずに、新しさを含めつつも正統派の道を歩もうとしているコンセプトがうかがえます。結果、とても大物感を漂わせています。

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第8位:AOA「ひらひら(Like a Cat)」

今年ブレイクし、日本デビューも果たした8人組。セクシー競争が日に日に激しくなるK-POPのなかで、今年もっとも成功したのはAOAでしょう。1月発表の「Mini Skirt」、6月発表の「Short Hiar」、そして11月発表のこの曲と、着実にステップアップしました。メイン・ヴォーカルのチョアの髪がどんどん短くなるたびに人気が上がっている印象があります。この曲は、タイトル通り女猫ソング。出だしが面白いのですが、猫の鳴き声を入れたり猫ダンスもしたりするようなストレートさが良いですね。チョアのハイネックノースリーブや、ボンデージ姿でムチを持って歩くなど、衣装も決まっております。

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第7位:T-ARA「Sugar Free」

韓国では一昨年のイジメ騒動(ファヨン脱退)以降は人気低落気味で、今年も新メンバーのアルムが脱退するなど、結局6人に戻ったT-ARA。今年はヒョミンとジヨンのソロ活動もあり、ガールズグループではベテランの域に差し掛かりつつあります。楽曲は相変わらず安定していて、韓国歌謡っぽさを残したままのEDMとの融合が見事です。この曲を創ったのは、「BO PEEP BO PEEP」「ROLY-POLY」「SEXY LOVE」など、これまでもT-ARAのヒット作を手がけてきたシンサドンホレンイ。彼によって、明確にT-ARA色が発揮されています。サビの部分で「シュガーフリー」を連呼するあたりも、あまり意味がなくていい感じです。

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第6位:ヒョナ「赤いの(RED)」

4minuteよりもソロ活動のほうが目立つヒョナさんは、今年もビッチキャラ全開。3年前、ソロ活動当初は「Bubble Pop!」で西海岸ビッチキャラだったのですが、昨年のTrouble Makerでの「Now」ではジャンキー的なビッチとなっており僕や私やオイラを心配させました。しかし、「赤いの(RED)」では明るいビッチっぷりが戻ってきて一安心です。この曲のサビは、「猿のお尻は赤い/赤いのはヒョナ ヒョナは」という詞。自分の名前がサビ! しかもダンスは股を全開にしてひとりスクワット! この自信満々なビッチっぷりが素晴らしいわけです。なお、素材は一流なのに身体が弱くてしばしばダウンするあたり、横浜ベイスターズの多村仁志を連想させます。

5~1位――ヒップホップガールズグループの強さ

第5位:f(x)「Red Light」

BoA、少女時代、新人のRed Velvetなど今年もSMエンタガールズは活躍しましたが、そのなかでいちばん尖ってて成功していたのは、間違いなくこの曲です。f(x)は、これまで少女時代の影に隠れたかたちとなっていて、全体的におとなしい印象が拭えなかったのですが、この曲はとてもソリッド。セクシーさを売りにする方向に行くこともなく、強さを前面に出しています。ちゃんと舵を切ったなと思いました。エンボ(アンバー)とクリスタルの良さも、これによってこれまで以上に発揮されました。……が、グループ自体はソルリの精神的な不調によってこの曲の展開途中に活動中止。とても残念です。

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第4位:Hi.Ni(ハイニ)「Clutch Bag」

今年下半期かなり好んで聴いたジャズ調の曲です。歌っているのはHi.Niというソロの歌手。インパクトのある曲ではないので、一回だけだとあまり良さが感じられないのですが、何度も聴くとじわじわと良さが出てきます。韓国歌謡(とくにドラマOST)にありがちなバラード歌い上げる系の歌手とはちょっと違ったクール路線が印象的です。ポジション的には、キム・エリムに近しいでしょうか。この曲もミドルテンポなのが成功しています。

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第3位:NC.A「私はちょっと違う(I'm different)」

NC.Aはまだ幼い顔をしたソロのアイドルですが、この作品はデビュー曲の「Oh My God!」に引き続き、ポップスのお手本みたいな曲だと思います。ポップスにありがちな勢い任せになることなく、全体の構成や抑揚の付け方などはとても完成度が高いです。難しいことや新規的なところはないですが、丁寧に組み立て上げられいます。そうした工夫によって、ポップスとしての軽さを維持しつつも、チープさは感じさせません。このへんのバランスが絶妙なのです。西野カナあたりがこの曲をカバーすれば大ヒットするでしょう。

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第2位:2NE1「COME BACK HOME」

やっぱり2NE1は強いです。なんだかんだ言って、今年も非常に強かったです。アルバム『CRUSH』は名盤でした。このなかに収められている「COME BACK HOME」は、初期の「Go Away」の一般性の高さと、一昨年の「I AM THE BEST(ネガ チェイル チャラガ)」の尖った強さ両方を兼ね備えており、第一期2NE1の完成形を意味しているように思えます。残念なのは、ボムさんが麻薬輸入疑惑の警察沙汰でひとり活動休止中ということ。年末の番組には3人で出演していましたが、そこでのCLさんのパフォーマンスはまさに圧巻でした。しかし、サブに3人がいるからこそCLさんもより輝くというもの。ボムさん(ほしのあき似)の復活が待たれます。ボムさんにまた「Ugly」を歌ってほしいです!

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第1位:Wa$$up「Shut Up U」

意外かもしれませんが、トップに来るのはこの曲でした。この尖り方はすごかった。Wa$$upは、昨年デビューしたばかりの、強さを全面に押し出したヒップホップガールズグループです。K-POPではいちおうアイドルに分類されますが、日本のメジャーシーンでは決して見られないタイプです。というか、日本では彼女たちを見てアイドルだと認識する人は少ないかもしれません。この曲は、極めて強めの序盤の展開から、するっと抜ける感じのサビに至る展開はなんとも素晴らしいです。日本にはあまりいないタイプですが、M.I.Aあたりを意識してるのかもしれません。なお、昨年発表した「Hotter than a summer」を聴けばわかりますが、メロディアスな曲にも十分適応できるグループでもあります。

まとめ

趣味でK-POPを聴いてかれこれ5年くらいになりますが(仕事は数度した程度です)、いまだにK-POPシーンを追いかけるのは面白いです。K-POPは、J-POPと違ってコンテクストよりも楽曲を含めたパフォーマンスが重視される傾向があるので、日本人の私でも素直に楽しめます。今年は、上記の10組以外にも興味深い曲はたくさんありました。少女時代、Girl's Day、ガイン、ORANGE CARAMEL、SISTAR、LABOUM、A pink等々、非常に面白かったです。

さて、最後にもうひとつだけ――。

昨年デビューしたばかりの5人組グループ・Ladies' Codeが、9月に移動中の交通事故でメンバーのリセとウンビが亡くなりました。リセは、福島出身の在日コリアンで、成蹊大学を卒業して韓国に渡って活動していました。順調に人気が高まりつつあるなか、この事故は起きてしまったのです。なんともやりきれない事故でした。

残された3人のメンバーの今後は未定ですが、この5人では最後のシングルとなった曲にリンクを貼っておきます。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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