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カープが優勝する2015年のプロ野球が開幕する〈後編:野手〉

松谷創一郎ジャーナリスト

前編から続く】

カープファンの血は赤い

みなさん、なぜ私の血が赤いか知っていますか? カープファンだからです。

さて、前編ではカープの投手陣が12球団で頭ひとつ抜けていることを確認しました。今回は、野手を守備別に見ていきたいと思います。

野手編:捕手

キャッチャーは野球において非常に重要で、各球団は頭を悩ますポジションでもあります。たとえば巨人は阿部慎之助をコンバートして、相川・小林の二人体制にしたように。カープは、この捕手という点においては10年ほどは安定しているチームだと言えます。それはなによりも石原慶幸倉義和が正捕手の座を競い合ってきたからですが、このふたりは今年36歳・40歳のベテランです。世代交代が必須なのです。

こうした状況で頭ひとつ抜け出し、今年は正捕手の座を奪うとみられるのがもうすぐ27歳になる會澤翼です。會澤は早くから注目されていました。バッティング、しかも長打力に秀でていたからです。数年前は外野手として出場したこともあるほど。昨シーズンは65試合に出場し、200打席で本塁打10本・打率.307を記録しました。フル出場すると25本ホームランを打つ計算です。オープン戦でも2本ホームランを放ち、その長打力は健在。會澤は7番か8番を打つと見られますが、こういう選手が下位打線に控えているのは頼りになります。

もちろん懸案なのはリードと守備ですが、ここも昨年キャリアを積みました。今年、大ブレイク間違いなしなのです。

野手編:内野手

昨年のカープでスタメンが確約されていたのは、二塁手の菊池と外野手の丸だけでした。その状況は今年も続いていると言えます。開幕戦で予想されるスタメンは、一塁に新外国人選手のヘスス・グスマン、二塁に菊池涼介、三塁に梵英心、遊撃手に田中広輔といったところ。

まず、グスマンですが、オープン戦では2本ホームランを打ったもののその評価は正直微妙です。どうも神経質っぽい(あるいは慎重な)性格らしく、それがペナントレースでどう転ぶかはわかりません。なお、ホームランバッターではなくアベレージヒッターのようで、守備はファースト以外はかなり厳しいらしいです。

セカンドの菊池は、オープン戦でも代表戦でも相変わらず見事な成績を残しました。御存知の通りその守備は破天荒極まりないものです。つい先日もソフトバンクとのオープン戦で、センター前ヒットのあたりをアウトにしましたが、これはすごかったです。

サードは、カープでいちばん懸案のポジションだと言えます。開幕時はひとまず昨シーズン同様に梵が守りそうです。ここで注目なのは、タイガースから戻ってきた新井貴浩と、堂林翔太です。新井はオープン戦でまずまずの成績でしたが、先週肘を少し痛めたらしく、スタメンからは外れそうです。ジョンソン・梵・堂林の出来しだいでは、代打に専念するかもしれません。また、堂林はオープン戦で結果を残せず二軍スタートです。野村監督時代には期待されて使われていましたが、なかなか伸びてこないのはファンももどかしいところです。

ショートは、2年目の田中広輔が当確です。オープン戦では結果を残せませんでしたが、野村前監督曰く「野球をよく知っている選手」。たしかに若手なのにベテランの風格があります。田中がいよいよ不調の場合は、梵や小窪が守ることになるでしょう。

また開幕一軍スタートとなったのは、サードが本職の3年目・美間優槻です。2節で先発投手陣と入れ代わりに登録抹消されると思いますが、最初の3試合で結果を残せるかどうかが見どころです。

なお、ほぼ忘れられつつあるのが、3年前までカープの4番だった栗原健太です。二度の肘の手術を経て今年再起をかけますが、どうなることやら。昨年は一度も一軍に呼ばれませんでしたが、今年ダメなら厳しいと思われます。

野手編:外野手

外野手は、開幕戦のスタメンはおそらく左翼・松山竜平、中堅・丸佳浩、右翼・鈴木誠也となると思われます。それは順当な結果だと言えるでしょう。

本来レフトはブラッド・エルドレッドライネル・ロサリオが争う予定でした。しかし、昨年本塁打王のエルドレッドは膝の半月板の故障で帰国。今季の出場はかなり厳しい状況です。一方、ロサリオはキャンプ中に虫垂炎で手術したために出遅れています。4月中旬には一軍に戻ってきそうですが。

そうなると松山が押し出されますが、オープン戦での活躍は目を見張るものがありました。昨年は怪我に泣きましたが、3割を超える打率を残しました。ファーストも守れるので、ジョンソンの成績しだいではスタメンを守る可能性もあります。松山のネックは、左投手です。野村監督時代にほとんど左投手で使ってもらえなかったため、そこの経験があまりないのです。もしかしたら今季も投手によって使い分けられるかもしれません。

センターの丸は、カープを代表する選手に成長しつつあります。彼の良さは、その選球眼の良さにあります。昨シーズンは打率.310に対し、出塁率が.419です。100の四球はリーグトップです。菊池と丸が出塁して、エルドレッドとロサリオが返すという展開でした。またチャンスに強いのも丸の特徴で、今年はいよいよ首位打者を狙えるかと思います。

そして、今年のカープの若手でもっとも注目されるのは、開幕スタメンにも内定しているライトの鈴木誠也です。本職はサードですが、その強肩を買われてライトも守っています。オープン戦では芳しい結果を残せませんでしたが、今年もっともブレイクが期待される選手でしょう。

そんな鈴木誠也とライトのポジションを争ったのが、ドラフト1位の新人・野間峻祥です。緒方新監督肝いりで獲得し、オープン戦初戦でホームランを放った逸材です。その後オープン戦では結果を出せませんでしたが、なんとか開幕一軍に滑り込みました。野間の場合、守備と走塁はすでに一軍レベルとのこと。当面は代走と守備固めでの起用が中心となると思いますが、鈴木誠也の調子しだいではスタメンに抜擢されることもあるでしょう。なお、ライトは堂林も守ることができます。現状、松山・鈴木誠也・野間・堂林で外野のポジションを争っている状況です。

野手編:総括

カープの野手は、丸と菊池を除けばスタメンが確定的な選手はいないと言えます。能力的に同レベルの選手が多く、それだけ競走が激しいのです。他にも小窪哲也やスラッガーの岩本貴裕、ベテランの天谷宗一郎廣瀬純などが控えています。

打線はオープン戦でひどい貧打を露呈しましたが、結局のところ同レベルの選手の調子を見極めて入れ替えて使っていくしかないのでしょう。そのときにいちばん気になるのは、緒方孝市新監督の手腕です。

野村謙二郎前監督も堂林を我慢して使ったりしましたが、3位に入った最後の2年間はあまりこだわらず選手を積極的に入れ替えて使っていました。それが上手くいって結果を出したわけですが、その代償としては選手が思ったほど育たなかったことです。とくに松山が右投手専用になってしまったことはもったいないように思います。

緒方監督の選手起用で注目すべきは、鈴木誠也や野間でしょう。このふたりにどれほどこだわるか、逆にこだわらないか。育てるためには起用する必要がありますが、そればかりにこだわっていると結果に結びつきません。その逆もしかりです。育成しながら結果も出すのは至難の技ですが、一年目の緒方監督にこのことを強く求めるのはハードルが高いと思います。

個人的には、勝負に徹してほしいと思います。というのも、マエケンと黒田が揃う今年は、本当に優勝に届くチャンスだからです。来年以降にマエケンがメジャーに渡り、黒田が衰えることによる戦力ダウンは必至です。今年を逃すと、優勝は遠のくです。

緒方監督がどれほど心を鬼にできるか――それを見守りたいと思います。

【了】

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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