スタジアムの建設費はどのくらい?――予算2520億円の新国立競技場はいかに高いか

1964年、東京オリンピック閉会式。(写真:山田真市/アフロ)

2520億円はギリシャのIMF返済額以上

2020年の東京オリンピックのために造られる予定の新国立競技場。8万人を収容する日本最大のスタジアムは、いよいよ10月からの着工を待つばかり――といったところで、その膨大な予算が世の中をザワザワさせています。その額はなんと2520億円。

ザハ・ハディッドによる新国立競技場のデザイン。自転車のヘルメットのようだと話題。
ザハ・ハディッドによる新国立競技場のデザイン。自転車のヘルメットのようだと話題。

すでに報じられているように、それは財政危機におちいっているギリシャが、IMF(国際通貨基金)に返済できない債務15億4000万ユーロ(約2100億円)を優に超えるレベルです。つまり一国の財政をも左右するほどの額でもあるのです。

とは言え、それが日本の他のスタジアムと比べて、どれほどの高額なのかはいまいちハッキリしないところ。必要なのは、他のスタジアムの建設費や改修費との比較でしょう。

果たして新国立競技場の2520億円とは、相場と比べるとどれほどの高いのでしょうか。

3種類のスタジアム

本題に入る前に、巨大スタジアムの種類や歴史を押さえておきましょう。

まず、スタジアムには大きく分けると3種類あります。ひとつが野球専用のスタジアム、もうひとつがサッカー専用のスタジアムです。前者には東京ドームや広島・マツダスタジアムなど、後者には埼玉スタジアム2002や愛知・豊田スタジアムなどがあります。また、天然芝のサッカーフィールドを屋外から野球のグラウンドに引き入れる、札幌ドームという異色の野球・サッカー兼用スタジアムもあります。

そして最後のひとつが、多目的型スタジアムです。これは、陸上競技のトラックを備え、サッカーやラグビー、さらにはコンサートにも使用できるものです。横浜・日産スタジアムや大阪・ヤンマースタジアム長居がこれにあたり、新国立競技場もこれを目指しています。

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歴史を振り返れば、これらの巨大なスタジアムにはいくつかのタイミングで建設ラッシュがありました。そのタイミングも大きく3つに分けられます。ひとつが1964年の東京オリンピック、もうひとつが1980年代後半から2000年代前半のドーム球場ブーム、そして2002年のワールドカップサッカーです。

さらに、日本では国民体育大会(国体)が年に一度おこなわれます。1946年から始まったこのイベントは毎年異なる都道府県で開催され、開催県では大会に合わせてスタジアムや体育館が建設されたり改修されたりします。その他には、ともに広島で開催された1992年のサッカーアジアカップや1994年のアジア大会、2007年の大阪・世界陸上などがあります。

日本の高度経済成長の歴史は、こうしたスポーツイベントとともにあったといっても過言ではないでしょう。公共事業でお金がつぎ込まれて建設業者を中心に国民は潤い、経済は浮揚してきました。

ただし、もちろんそれは過去の話。2020年の東京オリンピックが、日本経済に対してどれほどの活性剤となるかは未知数です。

ドーム球場の建設費は高い

ここからはスタジアムの具体的な建設費を見ていきましょう。そこでは一応の基準として、1980年代後半以降のスタジアムに限ることにします。物価が異なることもあり、それ以前の建設費はあまり目安にはならないからです。

さて、まず確認していきたいのはプロ野球のスタジアムです。1980年代後半以降に建設・改修された球場は10あります。前述したように、1980年代後半から2000年代前半まではドーム球場への建て替えが多く見られました。それを表にすると以下のようになります。

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1988年の東京ドームを皮切りに、日本には6つのドーム球場が造られました。現在でもその6球場は、プロ野球チームの本拠地として使われています。そのなかでもっとも予算がかかったのは、現在オリックス・バファローズの本拠地である京セラドーム大阪(大阪ドーム)の696億円です。次に、サッカースタジアムと兼用の札幌ドームが537億円と続きます。Wikipediaでは760億円と記載されているヤフオク!ドームは、480億円だと報道されています(※1)。

この3球場が、東京ドームやナゴヤドーム、西武ドームと比べて高額なのは、それなりに理由があります。スタジアムの座席や天井(ドーム部分)が可動式だからです。京セラドームはコンサートでの音響などを考えて、天井や座席が動く仕様になっています。しかし、天井部は部品が製造中止となったために、現在動かしていません。札幌ドームは、試合に応じて天然芝のサッカーグラウンドを屋外から引き入れるという独特の構造をしており、ヤフオク!ドームの屋根は開閉式であることが知られています。可動式のこれらの球場は、維持費も高くつきます。

MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(2014年/筆者撮影)
MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(2014年/筆者撮影)

新国立競技場もオリンピック終了以降に開閉式の屋根を設置するという計画になりました。これは主にコンサートなどのイベントを考えてのものですが、可動式の屋根の設置にはさらに予算を要するので、わざわざ先送りにしたのです。そのことは、可動式のドーム球場のことを踏まえるとわからなくもありません。

そんなドーム球場の予算は、屋根のない一般の球場と比較すると、かなりの高額になります。その設計が高く評価されているMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(2009年)は90億円、バブル期の1990年にオープンしたQVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)でも122億円の予算に収まりました。ドーム球場は、100億円前後で済む屋外球場の3~7倍ほどの予算がかかるのです。

ワールドカップの負の遺産

次に見ていきたいのは、2002年におこなわれたサッカーのワールドカップで会場となったスタジアムです。日韓共催となったこのイベントでは、日本全国の10のスタジアムが使用されました。そして、そのすべてがワールドカップのために建設・改修されました。4万人以上を収容する巨大なスタジアムが必要とされたこともあり、そのすべてで建設・改修費は100億円を超えています。

この10スタジアムで留意しておきたいのは、サッカー専用のスタジアムと、陸上競技などもおこなわれる多目的スタジアムの両者があることです。

サッカー専用でもっとも予算がかかったのは、394億円の埼玉スタジアム2002です。サッカー専用としては、日本最大の約6万4000人収容をする規模です。現在も、サポーターが熱狂的なことで知られる浦和レッズのホームグラウンドとして使用されています。レッズでなければ考えられないキャパシティだったのかもしれません。

一方、多目的型でもっとも予算がかかっているのは、603億円が費やされた横浜の日産スタジアムです。ワールドカップでは、決勝戦の会場にもなりました。約7万2000人を収容できる、現在の日本最大のスタジアムです。そして次に大阪のヤンマースタジアム長居が401億円と続きます。

このなかで注視したいのは、270億円をかけて建設された、ひとめぼれスタジアム宮城(宮城スタジアム)です。

4万9000人を収容するひとめぼれスタジアムは、ワールドカップでは決勝トーナメント1回戦の日本対トルコ戦がおこなわれて注目されましたが、しばしば負の遺産だと指摘されます。仙台市に隣接する利府町のこのスタジアムは、駅から遠くて渋滞が起こりやすくて、しかも駐車場が少ないという最悪の交通の便で知られます。サッカーJ1のベガルタ仙台も、ホームとしているのは約2万人を収容するユアテックスタジアム仙台。ひとめぼれスタジアムはベガルタの準ホームグラウンドではありますが、2009年のユアスタ芝生の張り替え時に使用された際は、前年比較で動員が約1000人減ったそうです(※2)。年間の維持費3億円は、県の財政を圧迫し続けています。

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また、サッカー専用や多目的型スタジアムにおいても、開閉式の屋根を持つスタジアムは存在します。建設費356億円の愛知・豊田スタジアム、同230億円のノエビアスタジアム神戸、同251億円の大分銀行ドームがそうです。

しかし、可動式の屋根は京セラドーム同様に問題を生じさせてもいます。サッカー専用としては日本で2番目に大きい豊田スタジアムは、多額の改修費と維持費を理由に、今年度から屋根を開けっ放しにしています。所有者である豊田市は屋根の撤去も検討しているほどです(※3)。

大分銀行ドームも、改修費と維持費には頭を悩ませているようです。2010年に故障し、2011年に大規模な改修工事を終えたものの、2年後の2013年には再度故障によって屋根が開いたままになりました。不具合が相次いでいるのです。

こうしたことを踏まえると、屋根開閉式・可動式のスタジアムには十分な慎重さが求められると言えるでしょう。ソフトバンクホークスの本拠地であるヤフオク!ドームですら、現在は屋根の開閉が年に数回しかおこなわれないほどです。もちろん札幌ドームやノエビアスタジアム神戸のように順調に使われているスタジアムもありますが、将来的には必ず改修の必要が出てきます。必要なのは、そうしたことを踏まえたうえでの中長期的視野であることは言うまでもありません。

群を抜く建設費の新国立競技場

さて、以上を踏まえて、日本のスタジアムの建設費を下のようなグラフとして表してみました。すると、新国立競技場の予算がいかに莫大かということがハッキリします。

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新国立競技場の建設費は、これまで最高額だった京セラドーム大阪の696億円の3.6倍に達するのです。このような高額になる要因は、すでにさまざまに報じられているとおりです。東京都心という地理的条件はもちろんのこと、建築資材・人件費の高騰、消費税増税、物理的な作業面積の少なさ、アーチ状の独特のデザインなどが挙げられています。

そしてまた、現在じわじわと危惧されつつあるのが、あのデザインを本当に実現できるのかということです。なかでも地中に埋め込むアーチの基礎部分は、都営地下鉄・国立競技場駅に接触するのではないかと複数の専門家から指摘されています。

もちろん、こうしたことを日本のゼネコンが技術力で回避することは可能かもしれません。しかし、それで建設費が高騰するのであれば元も子もありません。

7月7日、新国立競技場のプロジェクトを進めるJSC(独立行政法人日本スポーツ振興センター)は、オリンピック終了後に開閉式屋根を設置したときの年間収支見込みを公表しました。それによると、収入が40億8100万円、支出が40億4300万円となり、年間3800万円の黒字だと予想されています。しかし、そのなかで気になるのは、「修繕費」とされるライフサイクルコストです。年間10億8600万円というその見積もりは、本当にそれで済むのでしょうか。

工期を考えると、予定通りこの秋に着工をしなければ、2019年のラグビーワールドカップには間に合わないようです。ここから現在の案を破棄して、一からやり直す時間は本当にないのでしょうか。

あるいは、いっそのこと国立競技場での開催を諦め、既存のスタジアムを使うという手もあるでしょう。横浜の日産スタジアムはすぐにでもオリンピックに使えますし、2002年にサッカー・ワールドカップ決勝をおこなった実績もあります。千葉に東京ディズニーランドがあるのですから、神奈川で東京オリンピックをやるのもありではないでしょうか。

もちろんこうした案が無茶だということは、重々承知しております。しかし、現在の新国立競技場の案もかなり無茶苦茶です。未来に負の遺産を押し付けるリスクは、とても高いと考えられます。

JSCが推し進める新国立競技場プロジェクトは、誰がリーダーかも明確でありません。しかし、とりあえず日本の未来を信じて官民一体で突き進んでいき、後のことはまたそのときに考える――こうした状況、75年くらい前の状況と似ているのかもしれません。

※1……朝日新聞朝刊1994年1月14日付「列島ドームラッシュ 東京・福岡に続けと大阪・名古屋も」、読売新聞夕刊1991年11月13日付「福岡ドーム 開閉式屋根にチタン材 軽くて丈夫、国内最大規模」。

※2……毎日新聞朝刊(地方版/宮城)2009年10月21日付「宮城スタジアム:観客動員増、国際試合を アクセス改善模索」。

※3……朝日新聞デジタル 2015年2月26日付「豊スタの屋根『開けっ放し』へ 赤字でコスト削減」