高校野球を「残酷ショー」から解放するために――なぜ「教育の一環」であることは軽視され続けるのか?

2014年・第96回全国高等学校野球選手権大会・決勝戦直前の甲子園(写真:岡沢克郎/アフロ)

高校野球100年

8月6日、今年も全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園が開幕します。早稲田実業の1年生・清宮幸太郎や、地方大会を27イニング防御率0.00で投げ切った東海大相模の小笠原慎之介など、注目選手が多いのも特徴です。3日には組み合わせ抽選会もおこなわれ、いよいよ地方大会を勝ち抜いた49校が日本一をかけて闘います。そんな今年は、高校野球にとっては節目の年でもあります。1915年に前身である全国中等学校優勝野球大会が始まって、ちょうど100年なのです。

しかし、そうした夏の甲子園はこれまで多く批判されてきました。そのもっとも大きな問題点は、投手の酷使です。真夏の炎天下で選手は連日の試合を余儀なくされます。なかでも投手の連投は、国内外から強く問題視されています。

現状の15日間の日程で決勝まで進んだチームは、3回戦から決勝までの4試合を5~6日間で闘うことになります。2013年(95回大会)から準々決勝と準決勝の間に1日休養日が設けられましたが、それでも最大2日間の連投を余儀なくされます。当然のことながら、プロや社会人、大学、リトルリーグではこうしたことはおこなわれません。高校野球だけが異常なのです。

「残酷ショー」と呼ぶほかないこうした公然虐待の状況は、どうしたら改善できるのでしょうか。

空洞化する学生野球憲章

そもそも高校野球は、大手メディアが密接に関与している分、批判されにくい側面があります(※1)。夏の甲子園は、朝日新聞社と日本高等学校野球連盟(高野連)が主催し、毎日新聞も後援します。さらに全試合がNHKで中継され、夜には朝日放送(テレビ朝日系列)の『熱闘甲子園』がその日のダイジェストを放送します。単なる高校の部活動とは異なり、とても大きなスポーツコンテンツとなっています。

しかし、高校野球はあくまでも「教育の一環」です。それは高野連が準ずる「日本学生野球憲章」にも明確に謳われています。

第1第2条(学生野球の基本原理)

学生野球における基本原理は次のとおりとする。

[1]学生野球は、教育の一環であり、平和で民主的な人類社会の形成者として必要な資質を備えた人間の育成を目的とする。

[2]学生野球は、友情、連帯そしてフェアプレーの精神を理念とする。

[3]学生野球は、学生野球、野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない。

[4]学生野球は、一切の暴力を排除し、いかなる形の差別をも認めない。

[5]学生野球は、アンチ・ドーピングの教育、啓発、対策への取り組みを推進する。

[6]学生野球は、部員の健康を維持・増進させる施策を奨励・支援し、スポーツ障害予防への取り組みを推進する。

[7]学生野球は、国、地方自治体または営利団体から独立した組織による管理・運営を理念とする。

出典:日本学生野球憲章

ここで注視すべきは[6]の部分です。「スポーツ障害予防への取り組みを推進する」とありますが、現行の甲子園の日程は、それをまるで無視したものになっています。

もちろん2年前に設けられた休養日はそれを意識した施策ですが、決勝に進む高校が5~6日間で4試合の強行日程である以上、それが焼け石に水であることは言うまでもありません。また、今年の春からは地方大会においてはタイブレーク制も導入されました。これは延長10回または13回から無死1・2塁から任意のバッターで攻撃を始めることができる制度です。WBCなど国際大会でも見られるこの制度は、国内でも社会人野球やソフトボール、高校野球では明治神宮大会と国体でも導入されています。ただし、今回の夏の甲子園では採用されませんでした。

タイブレーク制は、導入前の昨年7月の高野連による調査では、現場での賛否が真っ二つに分かれました。支持するのは49.7%と、約半分だったのです(※2)。しかし、いくらタイブレーク制を導入しても120球投げたピッチャーが翌日連投する日程が存続する以上、それは大きな改革とは言えません。

アメリカでの取り組み

こうした状況はこれまでに幾度となく批判されてきました。その先頭に立つのは、高校時代にPL学園の投手として活躍した桑田真澄さん(元読売ジャイアンツ)です。桑田さんは、学生野球憲章と実態の不一致を踏まえて投球制限の大幅改革を提言します。

(あえて提言するなら)小手先の改善策よりも改革が必要。僕は球数制限しかないと思ってます。できれば小学生のころから変えていく。どんな調子悪くても“いけるか?”と言われれば“いけます”と答えるのが選手。ルールを設けて皆で守っていくというのが大事。

やらせることばっかりが指導者と思いがちですけど、実は止めることが大事な要素なんですね。日本学生野球憲章が大事だと思う。神棚に上げているんじゃなくて実践していく。

(球数制限を導入すれば)球数を投げさせる戦法って言われてましたけど、学生野球憲章に“フェアプレー精神の理念”というのがあるんですね。卑怯なプレーをしてはいけないということ。“部員の健康維持・増進”そして故障しないための“障害予防”です。これらを掲げているわけですから。

出典:『Sports Watch - ライブドアニュース』2014年8月27日「甲子園投手の『投げすぎ問題』に、桑田氏は『球数制限しかない』」

乗り越えなければならないハードルもたくさんありますが、桑田さんが指摘する球数制限や投球回数制限はもっとも目指すべきところでしょう。

『ピッチスマート』
『ピッチスマート』"Guidelines for Youth and Adolescent Pitchers"より

このような主張には賛同者も少なくありません。テキサス・レンジャーズ(MLB)のダルビッシュ有投手などがそうです。また、春の選抜大会の主催者である毎日新聞社も、昨年社説で「選手の将来を考えよう」と提言している(2014年8月5日)

実際、アメリカではプロとアマが連携しながら、投手の健康を守る取り組みが活発化しています。昨年秋には、MLB(メジャーリーグ機構)とアメリカ野球連盟が未成年者の投手を対象に、ガイドライン「ピッチスマート」を発表しました。それによると、日本の高校生にあたる選手は、15~16歳は95球、17~18歳までは105球が1日の上限だとされています。また、1日76球以上投げた場合は4日以上の休養が必要だとされ、1年間に投げる投球回数も100イニングまでと提言されています。これに照らし合わせると、現状の日本の高校野球が大きく逸脱していることは言うまでもありません。

高校野球投手の怪我の割合

それでは甲子園に出場する高校野球の投手は、どれほど故障しているのでしょうか。それは実際に目安となるデータがあります。高野連は、毎回甲子園に出場する投手を事前に診察しており、それが事業報告書で公表されています。そこでは、肘のX線検査と、医師による肘・肩の検査のふたつがおこなわれています。

以下、それぞれのデータを見ていきますが、年や大会によって検査を受けた人数は異なります。春の大会は年平均103.8人、夏の大会は同145.8人です。また、これらの検査で重複者がどれほどいるのかは明示されていません。

高野連・事業報告書から筆者作成
高野連・事業報告書から筆者作成

まず、X線による肘の剥離骨折と遊離体の検査です。剥離骨折は「野球肘」と呼ばれるもので、腱や靭帯と軟骨が離れてしまう状態を指します。一方遊離体とは、いわゆる「ネズミ」と呼ばれるもので、軟骨の小片が遊離し肘関節で動くというものです。

予選のない春の選抜大会よりも、予選のある夏の大会が多いことは一目瞭然です。割合としては、春が14.2%、夏が17.2%ほどで、もっと高かったのは2012年夏の23.5%でした。この検査には控え投手も含まれるので、エースだけに限ればもっと高い数字になると考えられます。

高野連・事業報告書から筆者作成
高野連・事業報告書から筆者作成
高野連・事業報告書から筆者作成
高野連・事業報告書から筆者作成

次に見ていくのは、医師による肩と肘の炎症の検査です。年によってかなりバラつきがあるので、おそらくこれは問診のみだと考えられます。まず肩のほうは、春の大会の平均は8.1%、夏は10.1%となっており、重い炎症の選手はいませんでした。一方肘の炎症は、春が11.9%、夏が13.5%でした。

これらの結果から見えてくることは、高校野球の投手はかなりの割合で肩か肘に故障を抱えているということです。しかし、こうした検査結果を踏まえても、高野連が投球禁止とした選手は過去8年にひとりもいませんでした。そこで注視すべきは、肘に重い炎症があると診断された選手が、2007、2011年の夏の大会でそれぞれひとりずついたという事実です。当該の選手は、肘に重度の炎症を抱えながら夏の甲子園で投げたことになります。こうしたところが、高校野球の「残酷ショー」としての側面なのです。

夏の甲子園に出るまでには、厳しい日程の地方大会でも連投を余儀なくされます。甲子園までのインターバルもさほどありません。もちろんそれは勝ち抜いた高校の優れた投手に限られますが、逆に言えば、優れているがゆえに怪我をする可能性も高まるのです。

こうした状況でやはり思い出されるのは、愛媛・済美高校からドラフト1位で楽天イーグルスに入団した安樂智大投手です。2年生になったばかりの2013年の春の選抜大会で、決勝までの5試合で772球を投げた結果、安樂は肘の故障に見舞われることになります。高校2年のときに記録した最速157キロのストレートは、プロ入り後は146キロまでしか出なくなっています。故障を考えてか、イーグルスが非常に慎重に育成していることがなによりの救いです。

改革可能な日程

それでは、高校野球はどうすればまともな野球として改善できるのでしょうか。その可能性はふたつあります。ひとつが分散開催、もうひとつが日程調整です。

分散開催とは、甲子園球場での一括開催にこだわらず、地域ブロックの1回戦や2回戦を経て、その後甲子園で余裕を持った日程で3回戦以上をおこなうというものです。これならば現状の予算を維持することもできます。しかし、そのときのハードルとなるのは、甲子園という“伝統”です。敗戦した球児たちがグラウンドの土を持って帰るように、甲子園は高校球児の聖地となっています。合理性だけでは決して動かすことのできない文化(伝統)が、大きなハードルとしてそびえているのです。

それよりも現実的なのは日程調整でしょう。現行の15日間の日程では、決勝に進む高校は最後の5~6日間で4試合をおこないます。問題はここにあります。スマートピッチのガイドラインに従えば、投手は最低中4日の間隔が必要となります。それを踏まえて日程を組むと以下のようになります。

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そうすると、全体の日程はほぼ倍の29日間にまで拡がります。2回戦後からは3~4日の休養日が4回入ります(これによって阪神タイガースの主催試合も可能となります)。

このとき浮上する問題は、大きくわけてふたつあります。ひとつが高校生を拘束する期間の長さで、もうひとつが予算です。

まず前者について「拘束期間の長さによって学業に支障をきたす」という反論がなされるならば、それは間違いなく欺瞞です。甲子園の大会も「教育の一環」ですから、高校生にとっては学業のひとつです。それを健全な状態に持って行くことこそが肝要です。

現実的により大きな問題なのは、後者の予算についてでしょう。高野連は、全国大会に出場する1校20人(選手18人、責任教師・監督各1人)に対し、1日ひとりあたり3000円(1校あたり6万円)の滞在費を支給しています。日程拡大によって増えるのはやはりここになります。

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大会3日前の抽選日から敗退日まで支給される滞在費は、現行日程では3024万円(雨天順延なしの場合)にのぼります。倍以上の29日まで拡大した改革日程案では、これが大きく膨らむと思われるかもしれませんが、実際はちょうど600万円増加の3624万円にとどまります。日程が開く期間は滞在チームも減っているので、実は支給額があまり増えないのです。

また、春の大会でも同じ中4日の休養日でシミュレーションをすると、日程は現行の12日間から25日間に、支給額は1740万円から2268万円と528万円増加します。つまり、両大会あわせて1128万円の増加となります。スタッフの人件費なども考えると、多めに見積もって1年間に1500万円くらいの予算増だと考えていいでしょうか。

回収可能な1500万円

それでは増加した1500万円の予算をどのようにして調達すれば良いのでしょうか? さまざまな状況を勘案すると、それほど難しいことではないことが見えてきます。

高野連は税制優遇を受ける公益法人ですが、その財務諸表によると2013年度の経常収益は約7億7000万円なのに対し、経常費用は約6億9200万円で、約7800万円の黒字になっています。その前年度は約6000万円の赤字なので、必ずしも収支が安定しているわけではありませんが、債券だけで12億円にもなる内部留保もあるので財政基盤はとても安定していると言えます(※3)。

また、高校野球には朝日新聞(夏の主催)や毎日新聞(春の主催)、NHK、朝日放送、スポーツ新聞など多くの受益者が存在します。それもあり、高野連は朝日放送と毎日放送、ミズノスポーツ振興財団などから計790万円の補助金を受けています。しかしNHKから放映権料を得ている形跡はなく、経常収益の約88%は入場料収入に頼っています(2013年度)。

以上を踏まえてこの1500万円を確保するためには、大きく分けて3つの方法があると考えられます。

ひとつは入場料金の値上げです。高校野球は入場料金がとても安く、バックネット裏が2000円、内野席は1500円、アルプス席が600円、外野席は無料です。しかもこれは一日券で、試合ごとの入れ替えはありません。この料金を上げることがまずは考えられます。2013年度の入場料収益は6億7796万円でしたが、単純計算でこれを2.2%上げれば回収することができます。

次にあげられるのは、グッズ販売の強化です。2013年度に「配布品」として計上されているのは1262万円ほどにしかすぎません。たとえば広島東洋カープは、独自の企業努力によってグッズ販売額を10年で2億から20億円にまで増加させました。こうした工夫はまだまだできるでしょう。

最後にあげられるのは、放映権料をちゃんととるということです。NHKが全試合を放映するのは地方のことも考えた公共放送だからですが、いくらなんでも無料というのは不可解です。1500万円とはドラマ1本の製作費と同程度なので、なんとでもなると考えられます。

もちろん高野連は公益法人なので、あくまでもその目的は公益事業にあります。よって高い営利目的の事業は許されません。しかし、「教育の一環」であることを順守するためならば、この程度の収入増は十分に許されるでしょう。少なくとも1500万円とは、2013年度高野連の「交際費」と「会議・会合費」を足した1386万円よりも少し多い程度の額なので、なんとかしてもらいたいものです。

八田新会長は改革断行できるか?

昨年8月末に発表した「『残酷ショー』としての高校野球」という記事は、大きな波紋を呼びました。100年目の高校野球で問われていることとは、それを現状の「残酷ショー」のままにしておくのか、それとも正常な野球の状態に改善するのかという選択です。そのときにポイントとなってくるのは高野連が掲げる「教育の一環」というテーゼです。これに従うならば、やはり日程の変更を含め大きな改革が必要です。

しかし、もし改革しないのであれば、それは「教育の一環」であることを放棄し、まさに「残酷ショー」として存続することを意味します。高校野球ファンのなかには、「残酷ショーだからこそ、高校野球は面白い!」という極論も散見されます。これは決して開き直りなどではなく、ある種の筋が通った意見でしょう。野球をよく知る者ならあんな異常な状況を素直に楽しむことはできませんが、中学生が殺しあう映画『バトル・ロワイアル』のように娯楽として消費するのであれば、それは理にかなっています。もちろん、高校野球は映画のようなフィクションではありませんが――。

今大会終了後の9月、高野連の新会長に、経済学者で前同志社大学学長の八田英二さんが就任する予定です。八田新会長は、就任にあたって「私は大学の教員。人間を育てるのは教育者の使命だと考える。高校野球も『教育』という面では変わりはないので、私の得意とするところ。最大限にできるのではないかと思う」と話しています(※4)。それが有言実行となることを期待しながら、来年101年目を迎える高校野球がどのように改善されていくのか、今後も厳しい目で見守りたいと思います。

※1……高校野球に関与していない大手マスコミのひとつである読売新聞は、2007年8月1~3日にかけて「高野連ってなに?」という連載をしました。そこでは、当時問題となった特待生や財務における内部留保の多さなどが指摘されています。

※2……朝日新聞デジタル2014年9月30日「タイブレーク制、5割支持 高野連が全加盟校アンケート」

※3……高野連は過去8年分の財務諸表を公式ホームページで公表している

※4……朝日新聞デジタル2015年6月13日「高野連会長に八田氏内定 『私は教員、高校野球も教育』」

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