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AKB48を超えた! メンバー101人のK-POPグループが誕生!……と思ったら

松谷創一郎ジャーナリスト
『PRODUCE 101』、「PICK ME」MVより。98人でスタートした。

既に3人が辞退

 大人数のアイドルグループといえば、日本のAKB48。が、このたび韓国に101人のグループが誕生した。その名はプロデュース101。12月17日、ケーブルテレビ・Mnetでのお披露目のオフィシャル動画を観ればわかるように、その人数はなんと101人!

 MVは、けっこう圧巻だ。4つの三角形のステージがそれぞれ繋がり、最後にはものすごい人数に。PL学園の甲子園のマスゲームや、よさこいソーランを超える迫力を感じる。100人超えると、やっぱりすごいね……と思ったら、既にケガなどで3人が辞退して98人だったとか。なんだかいろいろ展開が早い!

 制服を模した衣装はAKB48を思わせ、曲も冒頭のメロディラインはアイドル的であるものの、中盤から後半にかけては日本のアイドルグループにはあまり見られないけっこうゴリゴリしたEDMになる。これがけっこういい曲。中盤のダンスなどは、EXILEの“ランニングマン”を思わせるもの。日本と近いアイドル文化ではあるのだけど、同時にちゃんと国際的な音楽の流行を取り入れるのがK-POPの面白いところだ。

日本人メンバーもふたり

 プロデュース101は、韓国国内外・46の芸能プロダクションから101人の練習生を集めて構成されている。そこには、ワンダーガールズのJYP、KARAの所属事務所のDSPなどの練習生も含まれる(ただし、少女時代のSMエンタ、2NE1のYGエンタは参加していいない)。

上がアリヨシ・リサさん、下がニワ・シオリさん。
上がアリヨシ・リサさん、下がニワ・シオリさん。

 98人のメンバーは、全員韓国人というわけでもない。アメリカ人、カナダ人、中国人、そして日本人も含まれている。23歳のアリヨシ・リサ(自己紹介ビデオでお母さんは韓国人と話している)や、22歳のニワ・シオリがそうだ。

 今年K-POPでは、メンバーの9人中3人が日本人で構成されるTWICEがデビューしたばかり。少女時代やKARAに影響を受けて渡韓し、デビューを目指す日本人も少なくないのである。

 同時にこれは、1年続くMnetのテレビ番組・リアリティショーの企画でもある。お披露目のときに彼女たちを紹介したのは、日本でも人気の“グンちゃん”ことチャン・グンソク。1月中旬から始まるこの番組で、彼はメッセンジャーとしてメンバーにさまざまなミッションを伝達する役割を担うようだ。

 そしてプロデューサーは、なんと韓国国民。視聴者によるネット投票によって、メンバーを選抜していくのである。1年間かけて、最終的に11人まで絞るのだそうだ。90人が脱落するというサバイバル企画なのである。なんだ、101人のグループじゃなかった!

日本では不人気のオーディション番組

 現在の日本ではそれほど盛んではないオーディション番組は、韓国や欧米ではいまも人気がある。韓国では『K-POPスター』や『スーパースターK』などの番組が人気で、大スターとなったBIGBANGもリアリティショー発だ。アメリカでもオーディション番組『アメリカン・アイドル』の人気は続いている。

 同時に日本の多くのひとは、この『プロデュース101』に既知感を抱くはずだ。だって、モーニング娘。を発掘した『ASAYAN』ととてもよく似ているからね。

 ただ、『ASAYAN』の時代(2000年前後)と異なるのは、多くのひとがスマートフォンを持ち、簡便にネットにアクセスしていることだろう。視聴者はテレビだけでなく、SNSなどでメンバー個々の情報にアクセスしながら番組を観る。リアリティショーだからこその重層的な楽しみ方が可能なのである。

 もちろん日本におけるアイドル系リアリティショーは、AKB48グループが一手に引き受けていることは細かく解説するまでもないだろう(詳しくは「リアリティショーとしてのAKB48:峯岸みなみ丸坊主騒動の論点〈1〉」)。ただ、テレビにおけるオーディション番組の盛り上がりは、随分長い間止まったままという印象だ。こうした番組の成否は、日本のテレビ制作者にとっても大きなヒントになるんじゃないだろうか。

リアリティ番組の問題

 もちろん、こうしたリアリティ番組には問題がないわけではない。既に危惧されているのは、制作サイドの編集によって参加者のイメージが大きく左右されることだ。視聴者投票であるがゆえに、編集ひとつでサバイバルの結果も変わってくる可能性があるのだ。

 そしてもうひとつは、そのサバイバル性にある。人生をかけて必死に頑張る姿は、確かに視聴者の興味を強く惹きつけるだろう。

 しかし、日本でもAKB48のメンバーが丸坊主にして大きく問題視されたことがあったように、苛烈な競走は若いメンバーたちに大きなストレスを加えることになる。ゆえに、彼女たちには常に十全なケアが必要だろう。特に自殺報道の対策がなされておらず自殺率が先進国のなかで最高水準の韓国においては、ちょっとしたストレスが不測の事態を招いてしまう可能性もある。

 テレビ局と多くの芸能プロダクションが手を組んだオーディションという芸能界の可能性に期待しつつも、そのサバイバル性が悪い方向に過剰化──“残酷ショー”にならないことを願いたい。

■関連

・リアリティショーとしてのAKB48:峯岸みなみ丸坊主騒動の論点〈1〉(2013年2月)

・「残酷ショー」としての高校野球(2014年8月)

・韓国で巻き起こる“ガールクラッシュ”現象――4minuteが「Crazy」で魅せる“強い女”(2015年3月)

・少女時代・ジェシカ脱退から見るK-POP――韓国芸能界を生きる韓国系アメリカ人(2014年9月)

・2014年・このK-POPがおもしろい![ガールズ編](2014年12月)

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・東方神起・ユンホ入隊から見るK-POPと兵役(2015年4月)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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