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広島カープ18年ぶりの9連勝を振り返る──データで読み解くカープの強さ

松谷創一郎ジャーナリスト
カープファンで埋まるマツダスタジアム(2014年/筆者撮影)

18年ぶりの9連勝

広島カープが、阪神タイガースを3タテし9連勝を飾った。26日は、最終回2アウト満塁から會澤のタイムリーヒットで追いつき、続く松山の打球を阪神の外野がエラー。衝突した俊介が担架で運ばれていくなど、あまり後味の良い終わり方ではなかったが、終盤の粘り強さは健在だった。

9連勝は1998年以来、18年ぶりのこと。貯金も14となり、2位の巨人とは8ゲーム差。独走が依然止まらない。

今シーズンのカープは、昨年は湿りがちだった打線が好調な滑り出しを見せて当初から上位を維持できた。ただ、この9連勝はそうしたシーズン当初とは状況が異なっている。

5つのポイントからこの9連勝を振り返り、今後のシーズンを占ってみよう。

ホームの圧倒的な強さ

まず、この9連勝の特徴として挙げなければならないのは、そのすべてがマツダズームズームスタジアムでのホームゲームだということだ。移動がないためにそもそも有利だが、途中に交流戦後のインターバル4日間も挟んだので、選手にとっては非常にリフレッシュできる期間にもなったはずだ。

そもそも今年のカープは、ホームゲームで圧倒的な強さを見せている。ビジターの成績は、16勝20敗1分・勝率.444と負け越しているのに対し、ホームでは27勝9敗1分・勝率.750だ。マツダスタジアムでは2勝1敗ペースどころか、3勝1敗ペースという凄まじい強さだ。パ・リーグの首位をひた走るソフトバンクホークスですら、ホームでは24勝9敗2分・勝率.727。カープがいかに地元で強いかがわかるだろう。

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この次のヤクルト戦もホームゲームだ。28日は広島県の北の街・三次のきんさいスタジアムでの試合だが、29・30日はまたマツダスタジアムでの試合だ。そう、カープ選手は13日から30日まで2週間以上、地元の広島に滞在している。シーズン中にこれほど長く遠征がない日程も珍しく、9連勝の要因のひとつだと見ていいだろう。

次に、9試合の勝ち方に目を向けてみると、そこからもひとつの特徴が浮かび上がってくる。それは、サヨナラ勝ちを含め終盤の勝ち越しが非常に目立つことだ。

サヨナラ勝利は、14日の西武戦におけるコリジョンルール適用に始まり、17・18日のオリックス戦における鈴木誠也の2試合連続の劇的なサヨナラホームラン、そして26日の阪神戦での相手のエラーと、4試合もある。また、8回裏に勝ち越した試合も2つある。19日のオリックス戦における鈴木誠也の勝ち越しホームラン、そして続く24日の代打・新井の勝ち越し3塁打がそうだ。

このように9戦中6つの勝利は、終盤に粘った結果だった。先制は7試合と多いが、そのまま逃げ切ったのはわずかに3試合。その多くは追いつかれたり逆転されたりし、それから勝ち越したり再逆転をしている。しかも、決してビッグイニングがあったわけでもない。9連勝中の1イニング最多得点は、15日西武戦の4点。次が、18日オリックス戦の鈴木誠也のサヨナラスリーランの3点で、あとは2点止まりだ。リードされても堅実に点を返して終盤に追いついていったのだ。

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実際、終盤の得点力は高い。イニング別総得点・打率・出塁率を見ると、1~3回は8点・.223、4~6回は13点・.284、7~9回は19点.337と、後半になるにつれて増えていく。

つまり、この9試合は決して横綱相撲といった圧倒的な強さを見せつけていたわけではない。昨年とは異なり、リードされても諦めない粘りがこの結果を生んだできたのだ。

盤石な投手陣と堅実な攻撃陣

ここからはより具体的に見ていこう。まず攻撃陣だが、交流戦前半はじゃっかん冷えていた打線が、この9試合は復調気味だ。打率は.282とハイアベレージである。ただ、エルドレッドの離脱によりその内容は変化している。ホームランもあるが、それよりも繋いで少しずつ得点を稼いでいる。

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レギュラー陣もこぞって好調だ。そこで目立つのはやはり、オリックス戦でサヨナラ2試合を含む3試合連続の決勝ホームランを放った鈴木誠也だ。打率.361、4本塁打、9打点はいずれもこの期間のチームトップだ。

また今年完全に固定した1~3番も好調だ。とくに田中広輔と丸の活躍が光る。田中は、ヒットよりも多い10四死球を稼いでおり、.463と高い出塁率を維持している。シーズン成績でも現在.403とリーグ5位の成績だ。また、もともと出塁率の高い丸は、この期間は.500の結果を残している。バッターボックスに立つと、2回に1回はランナーに出るのである。

他にも新井やルナが安定した結果を見せているが、なかでも際立つのは先日初ホームランを放った下水流だろう。この期間の15打数9安打・打率.600は凄まじい成績だ。エルドレッドが抜けたレフトのポジションを、松山とともにしっかり埋めている。

また、代打でも十分な結果を見せている。この期間の代打成績は、21打数6安打・打率.286にとどまるが、19日オリックス戦の下水流の同点ホームラン、24日阪神戦での新井の勝ち越し2点タイムリーなど、要所要所で十分な結果を見せている。

次に、走塁と守備にも目を向けてみよう。走塁では、盗塁の成功率がとても高いことが特徴だ。16回中14回成功しており、成功率は.875にもなる。なかでも代走で登場する赤松は4盗塁と足で相手投手を揺さぶっている。また、この9試合のエラーも3つにとどまる。その間の相手チームが8失策であることを踏まえると、とても優秀だ。

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最後に投手陣に目を向けてみると、この9連勝が実はその踏ん張りによるものであることがハッキリする。9試合の防御率は2.17と、非常に安定している。なかでも、圧巻なのはリリーフ陣だ。シーズン当初は不安定だったものの、ヘーゲンズ、ジャクソン、中崎と繋ぐ勝利の方程式は、12球団でもトップクラスの安定度だ。この9試合でも、ジャクソンとヘーゲンズはまだ1失点もしていない。また、接戦やリード時に登板する九里と今村も現在は安定している。彼らの踏ん張りが終盤の逆転や勝ち越しを生んでいる。

先発陣は、野村、ジョンソン、黒田、岡田の4人に加え、現在は戸田と中村恭平の両左腕が加わっている。9試合のうちクオリティスタート(6回3失点以内=QS)は7試合あり、QS率77.8%という好成績だ。戸田と中村はまだ安定感がないが、19日オリックス戦や26日阪神戦では、不調と見るや緒方監督は3回ですっぱりと交代させた。この両試合とも、一時期は先発を担当していた九里がしっかり2回を抑えて相手の勢いを止めた。

この9試合の平均得点は4.67、平均失点は2.44。投手陣が3点以内に抑え、攻撃陣は小刻みに点を重ねていくという堅実な戦いが9連勝を成し遂げたのだ。鈴木誠也ばかりが目立っているが、実は地味に強い結果を見せている。

穴のないバランスの良さ

9連勝中のカープは、今シーズンの前半に “ビッグレッドマシンガン打線”として注目されたような状態ではない。エルドレッドが抜けた穴は大きかったが、その代わりにルナが入ることで繋がりを中心とした打線となり、終盤のチャンスに鈴木誠也が長打を放つという状況だ。そして、投手陣が先発もリリーフもしっかりと相手を抑えている。

結論を言えば、いまのカープは投打のバランスが非常に良い。投手陣は盤石で、攻撃陣の大量得点はないがそれなりに長打もある。さらに盗塁でかき回し、守備も安定している。選手層を考えても、先発投手や打者は2軍の層も厚く、他の5球団と比べてもこれといった穴が見つからない。唯一の懸念があるとすれば、夏場に疲れが出るリリーフ陣のバックアップだろう。

だが、球団もこの点に余念はなかった。25日、カープは7人目の外国人となるスティーブ・デラバー投手の獲得を発表した。中継ぎ投手なので、これはヘーゲンズとかジャクソンの離脱を想定したものだ。実際、ジャクソンとヘーゲンズはここ9試合中6試合で投げており、ちょっと登板過多の状態にある。今村の調子が良く、一岡も戻ってきたとはいえ、2軍の層もやや薄いここをフォローする必要があったのは間違いない。

あとは、この連勝がいつまで続くかだろう。いつかは必ず止まるが、そのときも選手やファンは悠然と構えたほうがいい。必要なのは、いまだに3連敗していない状況を続けることだろう。長いシーズンでは「強い」印象のチームよりも、「弱くない」チームが最後に勝利するからだ。粘り強く勝つことも大切だが、大量リードされたときは、いかにキッパリ負けることもこれからは必要となってくるはずだ。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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