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ジャクソン不調が響くカープの連敗。采配もちょっとチグハグ?──2016年日本シリーズ第4戦を振り返る

松谷創一郎ジャーナリスト
勝ち越しツーランを打った日本ハムのブランドン・レアード(写真・Rikigon)

新人王有資格者同士の投手戦に

広島カープが2勝1敗で迎えた日本シリーズ第4戦は、日本ハムファイターズが2本のホームランで逆転勝利を飾った。これで2勝2敗の五分となった。

この試合は、カープ・岡田明丈、ファイターズ・高梨裕稔の、新人王有資格者同士の先発で始まった。経験の浅い両投手だけに、荒れる展開となることも予想されたが、引き締まった投手戦となった。両チームともかなり打ちあぐねていた。

ストレートを中心とする高梨は、スピードこそ140キロ台だが、カープの選手は多くのフライを打ち上げてしまった。これは高梨の初速と終速の差があまりなく、球がホップして見えるからだろう。タイプとしては、全盛期の藤川球児(阪神)と似ているのかもしれない。

先制した4回表は、四球でふたりが出塁したものの、鈴木誠也がセンターフライ、エルドレッドもセンターに打ち上げた。ふたりとも悔しがっている素振りを見せたほどだ。エルドレッドのあたりはエラーとなり先制したが、高梨にはまったく歯が立たなかったという印象だ。

一方、岡田は序盤こそコントロールに苦しんだが、徐々に持ち直した。自己最高の153キロも出し、尻上がりに調子をあげていった。4・5回は完璧な内容だった。しかし6回表、初球を中田翔に同点ホームランされる。これは非常に不用意なボールだった。ここまで有効に機能にしていたスライダーが、甘く入ってしまったのだ。

続くジャクソンの不調

高梨は5回で、岡田は6回で降板し、それ以降は中継ぎの勝負となった。明暗を分けたのは、結果的にはセットアッパーの出来となった。ふたりとも上々のピッチングだ。

8回裏、レアードがジャクソンから2ランホームランを放ち、これが決勝点となった。昨日もお伝えしたように、このシリーズはジャクソンの調子があまり良くない。ここまで4連投のジャクソンが3人で切り抜けたのは第2戦のみ。第1戦ではランナーを二人出して、近藤にセンターへ大きな打球を放たれた(丸が好捕)。第3戦でも、先頭バッターを四球で歩かせて、中田の逆転タイムリーを打たれた。レアードに打たれたホームランも、甘いコースに入ったスライダーだ。

カープとしては、3・4戦をジャクソンで落としてしまったということになる。シーズンでは盤石の成績だっただけに、ここに来て調子を崩しているのだ。これまでの9失点中4失点がジャクソンというのは、かなりまずい状況だ。このままシーズン通りに行くしかないのだろうが、短期決戦なのでヘーゲンズとの配置転換を考えてもいいのかもしれない。

一方、カープは先発投手がいずれも1点以下にファイターズを抑えており、バッテリー間の問題はあまり見られない。第4戦では、これまで内角を攻めていた大谷翔平に対し、アウトローで勝負して封じ込めた。投手陣は、ジャクソン以外にほとんど欠点が見当たらない。

少々深刻なのが、打線だろうか。第3戦は6安打7四球と出塁していたものの、チャンスに一本が出なかった。4回表に鈴木誠也がノーアウトランナー1・2塁でセンターフライ、5回表には満塁で新井が初球を内野フライに打ち取られた。また、松山もヒットは第1戦で打った大谷からのホームランのみで、13打数1安打1四球と、かなり当たっていない。1~3番の“タナキクマル”がシーズン同様の働きをしているだけに、この中軸の活性化が今後のポイントとなってくるだろう。

早すぎた守備固め

この試合、カープにおいて攻撃でひとつポイントがあったとするならば、やはり采配だろうか。1点リードの6回表、カープは早くも守備固めに出た。レフトの松山に代えて野間を入れたのだ。前述したように松山の調子あがらないこともあったが、もう1回打席が回るなかでの交代だった。

この采配の背景には、前日の失敗がある。前日は守備固めをしないことによって8回裏に逆転打を放たれた。その反省もあって、早めに1点を守りきる戦略に出たのだろう。しかし、これが裏目に出た。6回裏、その野間の頭のうえを軽々と超えるホームランを中田が打った。

結果的に、この交代が8回表の攻撃に結びつく。先頭ランナーの新井が四球で出て、鈴木誠也とエルドレッドが凡退したあとに、野間に打順が回ったのだ。代走の赤松は、ここで勝負に出た。長打を期待できない野間の場合、得点圏にランナーを進めておくことが必要だからだ。結果、盗塁失敗に終わった。

この盗塁そのものは責められたものではないが、もし松山が打席に立っていれば、とやはり思わずにはいられない。長打が出れば、赤松が1塁から帰ってくることも十分に可能だ。

そして、この早い守備固めはさらに響くこととなる。

9回表、左腕の宮西が登板したこともあり、先頭バッターの野間には代打・下水流が送られ三振。次の安部にも代打・小窪が送られ、ライト岡のファインプレーによって2アウトとなる。次の石原には代打・會澤だったが四球を選んで出塁。そして、田中広輔と菊池もヒットで出た。2アウト満塁でバッターは丸だ。

このとき次のバッターは、ピッチャーのジャクソンだった。残る野手は左バッターの新人・西川と控え捕手の磯村のみ。そう、緒方監督はDH解除をして、エルドレッドにファーストを守らせていたのだ。これは失敗だ。

第4戦のカープ登録メンバーで、ファーストを守れるのは、先発の新井、DHのエルドレッド、そしてレフトに入っていた松山、そして控えの小窪だ。しかし、なぜか4番に小窪を入れずにDH解除をした。おそらく代打の控えとして小窪を待機させておきたかったのだろう。

だが、これによって宮西は丸を攻めやすくなった。選球眼の良い丸ではあるが、あそこは押し出しでも構わない攻めをされていた。三振となったラストボールは、アウトローに逃げるボール球だ。押し出し覚悟のボールである。丸もさすがに勝負してくるのだと思ったか、振ってしまった。バッテリーがこのような厳しい攻めをできたのは、次が西川か磯村だったからだ。

第3戦は守備固めが遅れたために負けたカープだったが、この第4戦は守りに入るのが早すぎた。しかも、DH解除もしてしまった。延長が15回まである日本シリーズにおいては、選手を使わざるをえない状況が多ければ戦い抜けない。シーズンで1試合落とすのなら仕方ないのだが、短期決戦でこれは采配としては失敗だ。

また、そもそもベンチ入りメンバーに外野の守備固めがふたりいる必要があるか、再考する必要もあるだろう。代えるとしてもレフトのみだ。長打力のある堂林や岩本は、内外野を守れる。堂林ならば代走要員にもなる。野間もバッティングは向上したが、長打にはあまり期待出来ない。ならば、もっと他の選択肢を考えてもいいはずだ。

第3戦は石橋を叩かず、第4戦は石橋を叩きすぎたうえでカープは負けてしまった。これは結果論ではなく、どちらも極端な采配だった。ベンチの采配が、どうもチグハグな印象を受ける。

中4日のジョンソンがカギ

札幌での最後の試合となる第5戦は、ジョンソンと加藤の両左腕の予告先発が発表された。ポイントは、前回123球でシーズンには一度もなかった中4日のジョンソンがどれほどのピッチングをするか、そして、カープにとっては初の先発左腕となる加藤にどのような対応をするかが注目だ。

ジョンソンは、ドーム球場が得意なほうなので、疲れはあるが試合を作るピッチングはするだろう。ただ、早い回に降板したあと、どのように継投するかがポイントとなる。もしかしたら、早めに福井やヘーゲンズにスイッチすることも考えられる。スタメンはレフトに下水流が入り、サードに小窪が入ることが有力だ(ただし、加藤は左打者の方が被打率が極端に高い)。あとは2戦以降は固定しているベンチ入りメンバーをどのように調整するかが注目だろう。

ファイターズは、カープの先発をまったく打てない状態が続いている。ただ、このシリーズで2度目となるジョンソンへの対策はさらに練ってくるだろう。また、長打は出ているもののそれほど打線は繋がっていない。西川と近藤が完全にブレーキとなっている。ポイントとなるとすれば、ここまで2本のホームランを放っているレアードだろう。第1戦では、レアードだけがジョンソンに合っていた。

また、当然のことながら、大谷の存在も重要だ。4戦目は完全に抑えられたが、それで終わるような選手ではないはずだ。カープバッテリーの対策に対し、大谷がどのように対処するか、見どころは尽きない。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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