暴力団ゴルフは詐欺罪か?

園田寿 | 甲南大学法科大学院教授、弁護士

画像は事件とは関係ありません。

■同じ最高裁小法廷で一見矛盾するような判断

最高裁には15名の裁判官がいて、憲法判断や判例変更がなされるような事件については、全員で構成される大法廷で審理が行われますが、通常は、それぞれが3つの小法廷に分かれて事件の審理に当たります。先日、同じ裁判官で構成される同じ小法廷が、同じ日に、同じような事件で一方は無罪、他方は有罪という、一見すると矛盾するような判断(決定)を行いました。事案は、身分を隠した暴力団関係者が、ゴルフ場で正規の料金を支払って普通にプレーすることが詐欺罪になるかどうかが争われたものです。

その2つの決定とは、次の決定です。

■最高裁の2つの決定

(1)無罪の決定

まず、無罪の決定における事案は、被告人Xが、宮崎県にあるAゴルフ場がクラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入り、プレーはお断りします」と記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していたにもかかわらず、暴力団関係者であることを隠してプレーしたというものでした(料金は精算済み)。

このような事実に対して、最高裁は、次のように判断しました。

確かに、本件Aゴルフ場は、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じてはおらず、Aゴルフ場と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人も同様の経験をしていた。つまり、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではなかった。このような事実関係を前提とすると、被告人が暴力団員であることを隠してプレーを申し込むことは、積極的に相手をだます意思までは認められず、詐欺罪における「人を欺(あざむ)く行為」であったとは言えない(つまり、詐欺行為そのものがなかった)。

(2)有罪の決定

これに対して有罪の決定は、次のような事案でした。

被告人Yは、長野県のBゴルフ場でプレーする際に、Bゴルフ場が利用者に対して厳格に暴力団員かどうかをチェックして、暴力団関係者である場合には利用を拒否していたにもかかわらず、同伴者が暴力団関係者であることを隠して利用を申し込んでプレーしたというものでした(料金は精算済み)。

これに対して最高裁は次のように判断しました。

Bゴルフ場は、日頃から厳格に利用者が暴力団関係者かどうかをチェックし、暴力団関係者の利用を未然に防いでいたところ、本件においても、被告人が暴力団員であることが分かれば、その施設利用に応じることはなかった。

このような事実関係からすれば、利用客が暴力団関係者かどうかは、Bゴルフ場の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、施設利用をした行為は詐欺罪を構成することは明らかである。

(3)2つの決定の違い

このように、2つの決定は、ともに同じような事案であるにもかかわらず、有罪と無罪とに結論が分かれたわけですが、それは無罪の決定が被告人の行為は詐欺行為ではないと判断したのに対して、有罪の決定は被告人の行為が詐欺行為であると判断したという、その事実認定の違いにあります。両事例を分けたものは、Aゴルフ場のある宮崎県では、暴力団排除活動がそれほど徹底して行われてはいなかったのに対して、Bゴルフ場のある長野県では、暴力団排除活動が徹底して行われていたのであって、そのような状況を知りながら暴力団関係者であることを告げずにプレーを申し込むことが詐欺行為であると判断されたのでした。したがって、2つの決定は矛盾する判断ではないということになります。

しかし、根本的に考えて、被告人XもYも、正規の料金を支払っていて、普通にプレーしたのですが、このような行為についてなぜ詐欺罪が問題となるのでしょうか。そして、有罪の決定のように、このようなケースに詐欺罪を認めることには問題はないのでしょうか。ここのところを考えてみたいと思います。

■詐欺罪の構造と財産的損害

たとえば、ニセ物を本物だとだまして被害者に買わせた場合のように、詐欺罪が成立するためには、(1)人を欺く行為→(2)被害者の錯誤→(3)錯誤による財産の処分→(4)財物あるいは不当な利益の取得といったプロセスをたどることが必要です(最高裁の2つの決定では、一番最初の〈人を欺く行為〉があったのかどうかが問題となりました)。そして、詐欺罪が財産犯である以上、詐欺罪が成立するためには、さらに被害者に財産的損害(被害)が生じたということが必要になります。ただし、ここで注意しなければならないことは、詐欺行為によって被害者に生じた財産的損害は、犯人が詐欺行為によって得た財産的利益と実質的にイコールの関係にあるということです。つまり、詐欺の特徴は、詐欺行為・錯誤・処分という一連の事象を媒介として、被害者が失った財産的利益・価値が犯人の側へと違法に移ったということなのです。

このように、〈だます行為〉を媒介として、被害者が失ったものと犯人が得たものとの間に財産的な同質性があることを前提にしないと、たとえば、被害者に病院の治療費を支払わせるという財産的損害を加えるために、腐った食品をだまして食べさせて食中毒をおこさせるといったようなケースも詐欺罪になりかねません。

さらに、たとえば、未成年者が成人の兄の身分証明書を見せてコンビニでビールを買ったとします。店は、その客が未成年と知っていたならば当然ビールを売らなかったでしょう。しかし、「だまされたから、ビールを売った」というだけでは店に財産的損害が生じたということにはなりません。未成年者にアルコールを売らないというのは、社会公共的な利益であって、個人の財産を保護する詐欺罪の観点からみれば、その店がビール代金をちゃんと受け取っているならば、商品としてのビールが持っている財産的価値以上の財産侵害は生じていないのです。そして、「成人だ」とだます行為は、個人の財産侵害に向けられたものではないので、「詐欺行為」ではないということになります。

以上のことは暴力団ゴルフの場合も同じです。「だまされたからプレーを許可した」というだけでは、ゴルフ場に財産的損害が生じたということにはなりません。確かに、暴力団関係者が身分を隠してプレーすることによって、場合によっては、そのゴルフ場に悪い評判が立ち、利用者が減ったりすることによる経済的な損失が生じることはあるかもしれません。しかし、そのような風評被害によってゴルフ場が失う財産的利益というものは、詐欺罪が守ろうとする財産的利益ではありません。ゴルフの機会を提供するというゴルフ場のサービスとそれに対して支払われた料金が釣り合っている以上、身分を隠してプレーした暴力団員といえども、ゴルフの機会を提供し、それに対する対価を受け取るというゴルフ場の財産的利益は侵害してはいないのです(風評被害によって生じたゴルフ場の経済的損失が、犯人の側に移ったということはありません)。これは、未成年者が成人と偽(いつわ)ってビールを買う場合と同じことなのです。

暴力団の排除・撲(ぼく)滅は、社会公共的・刑事政策的な利益であって、それが重要なことは分かりますが、その推進のために詐欺罪という個人の財産を保護するための規定を利用するというのはスジ違いの法適用だと思います。

園田寿

甲南大学法科大学院教授、弁護士

1952年生まれ。関西大学大学院修了後、関西大学法学部講師、助教授をへて、関西大学法学部教授。2004年からは、甲南大学法科大学院教授(2004年には大阪弁護士会に弁護士登録)。専門は、刑法および情報法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、青少年有害情報規制などが主な研究テーマである。現在、兵庫県公文書公開審査会委員や大阪府青少年健全育成審議会委員、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)諮問委員会委員、日本学術会議連携会員などをつとめる。著作に、『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『インターネットの法律問題-理論と実務-』(2013年新日本法規出版、共著)などがある。

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