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【甘利疑惑】「少しイロをつけてでも」や「顔を立ててくれ」は、違法な「あっせん」か?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
「甘利大臣に現金供与疑惑 建設業者が口利き依頼か」(写真:ロイター/アフロ)

■はじめに

1日、都市再生機構(UR)が、甘利事務所秘書との面談内容を公表しました。秘書らがURの職員に対して「少しイロをつけてでも」とか、「顔を立ててくれ」と迫る場面があったことが報告されました。このやりとりを見ていると、世間一般でいうところの、広い意味での「口利き」は確かにあったといえるでしょう。しかし、問題は、これがあっせん利得処罰法における「あっせん」といえるのかどうかです。

<甘利氏金銭授受>秘書らURに「少しイロをつけてでも」

URが甘利氏側の口利き否定、秘書との面談メモ公開

URが面談やりとり公表 秘書「少しイロを付けて」 口利きは否定

口利き疑惑 面談12回、甘利前大臣側が交渉の中心的役割担ったか

面談記録の具体的な内容については、次の報道が詳しい。

甘利氏秘書との面談記録、URが公表

■「権限に基づく影響力を行使して」とは

あっせん利得処罰法は、処罰の対象としてのあっせん行為について、「(国会議員などの政治家の)権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したとき」に成立するとしています(同法1条、2条)。つまり、政治家によるいわゆる〈口利き〉は日常的に行われている政治活動の一つですが、報酬を得たことを前提として、その中でも特に〈議員の権限に基づく影響力を行使したあっせん行為〉を取り上げて処罰しているのです。これは、本罪が、公職にある者がその権限をチラつかせて口利きを行う見返りとして金品を受け取ることを禁止して、クリーンな政治活動を保障しようとするところからの帰結です。

ここにいう〈権限〉とは、公職にある者が法令に基づいて認められる職務権限のことです。国会議員についていえば、議院における議案発議権、修正動議提出権、表決権、委員会における質疑権等がこれに当たります。このような職務権限から直接および間接に由来する影響力を行使することが、〈権限に基づく影響力を行使して〉という意味です。

法務省の解説書によると、たとえば、

(1) X省に対応するY委員会に属する衆議院議員甲が、特定の業者AからX省への物品納入契約の締結についてのあっせん方の依頼を受け、X省の物品調達担当者Bに対し、「今後X省提出法案に反対する(審議に協力しない)かもしれないがそれでいいか。」と言いながら、Aから物品を納入するよう働き掛ける場合や、

(2) X省に対応するY委員会に所属しない国会議員甲が、特定の業者AからX省への物品納入契約の締結についてのあっせん方の依頼を受け、X省の物品納入担当者Bに対し、Y委員会に属する国会議員乙に働き掛けてX省に不利な質問をY委員会でしてもらうと言いながら、Aから物品を納入するよう働き掛ける場合などが、

その典型的なケースと考えられます。

出典:勝丸充啓編著『わかりやすい あっせん利得処罰法Q&A』(2001年、大成出版)35頁

そこで、改めて今回公表された面談記録を見てみますと、「少しイロをつけてでも」とか、「顔を立ててくれ」とか言って、秘書が迫る場面もありますが、他方で、「本件はうちの事務所ではどうにもできないし、圧力をかけてカネが上がったなどあってはならないので、機構本社に一度話を聞いてもらう機会をつくったことをもって当事務所は本件から手を引きたい」とか、機構から秘書に対して、「これ以上は関与されない方が宜しいように思う」といわれ、秘書が「URには迷惑をかけてしまい申し訳ない」と謝罪している場面などもあります。

このようなやりとりを見ると、確かにいわゆる広い意味での〈口利き〉はあっただろうといえると思いますが、しかし、これが国会議員としての甘利氏の〈権限に基づく影響力を行使した〉口利きかと言えば、(もちろんそれが威嚇や恫喝である必要はないのですが)微妙なものがあるのではないかと思われます。

■問題は現金を受け取ったときの情況

ただし、上記のように、あっせん利得罪では、「あっせんをすること」について報酬を受け取った場合も処罰されます。これは、将来のあっせん行為を約束して、金品を受け取る場合です。つまり、この場合は、現実にあっせん行為がなされていなくとも、議員としての権限の影響力を行使することを前提にあっせんすることを約束し、その見返りとして金品を受け取った時点であっせん利得罪が成立します[1]。したがって、甘利氏および秘書が大臣室や事務所で複数回にわたって現金を受け取った際に、具体的にどのようなやり取りがあったのかが今後の重大な焦点になるのではないかと思われます。かりに甘利氏の国会議員としての権限をチラつかせてURに対して口利きを行うことを約束し、その見返りとして現金授受がなされたような事実があったならば、あっせん利得罪が成立する可能性も高くなってきます[2]。(了)

[1]刑法のあっせん収賄罪(刑法197条の4)における「あっせんをすること」の意味について、あっせん行為は将来のものであってもよく、その場合現実にあっせん行為がされなくても犯罪は成立する、とした最高裁判例があります(最決昭和40年9月17日刑集19巻6号702頁)。あっせん利得罪においても、これと同じように解釈されるでしょう。

[2]ただし、請託の内容には「権限に基づく影響力を行使すること」の依頼が含まれていることまでは必要ありません。

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甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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