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【遠藤疑惑】またもや現職大臣のスキャンダル、今回は何が問題となっているのか

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

■はじめに

甘利(前)大臣の汚職疑惑に続いて、またもや現職大臣の疑惑が持ち上がっています。今回はどのような点が問題になっているのでしょうか?

遠藤・五輪担当相 外国人派遣会社、予算化要請 創業者、955万円献金

遠藤・五輪担当相 厚労省と業者、事務所が仲介 ALT請負、通知前に

遠藤大臣も“口利き疑惑” 符号(ママ)する多額献金とのタイミング

遠藤大臣「献金は適切処理 口利きしていない」

■事実関係

英語の授業で日本人教師を補佐する外国語指導助手(ALT)を派遣する東京都内の民間会社の創業者(71)から、遠藤利明五輪担当相(66)=山形1区、当選7回=側が2010〜14年の5年間で計955万円の個人献金を受けていることが分かった。この間、遠藤氏は自民党教育再生実行本部長などとしてALT利用拡大の旗振り役を務め、文部科学省は民間のALT派遣事業に絡み国の予算を付ける方針を初めて決定。派遣会社は高値で転売され、創業者は多額の対価を得ていた。

出典:毎日新聞2016年2月4日 東京朝刊

報道によると、このような事実には、次のような背景があったのではないかといわれています。

英語の授業で日本人教師を補佐する外国語指導助手の雇用については、以前から労働者派遣法に抵触する部分があるのではないかとの問題があったのですが、これについて2014年8月に文科省が厚労省の見解を紹介する形で、ALTと教員による授業内容の確認や英会話実演はただちに違法ではないとする「通知」を出しています。この「通知」によってALT活用拡大の可能性が広がり、結果的に2016年度の予算化につながったとされています。この「通知」について、遠藤氏が深く関わっていたのではないかということです。

文部科学省が2014年にALTに関する通知を出す直前、通知に関わる厚生労働省の担当者と派遣会社の社員が、遠藤事務所の仲介で面会していたことが分かった。また、文科省の担当者は通知の内容を遠藤氏に報告していた。通知は派遣会社に有利な内容で、遠藤氏も通知の必要性を訴えていたという。

出典:毎日新聞2016年2月5日 東京朝刊

以上、報道を整理して事実を単純化しますと、次のような事実が問題となっているようです。

  1. まず、ALT派遣会社が遠藤氏に対してALT活用拡大に向けた予算化などを要望し、遠藤氏からパーティ券を購入、
  2. その後、遠藤氏は文科省に対してALT活用の拡大を求め、文科省が「通知」を出し、
  3. そして、ALT派遣会社の経済的な評価が高まり、その創業者がALT派遣会社から新しい株式の30%の割当てを受け、莫大な利益を手にし、創業者が遠藤氏に対して955万円(個人献金とパーティ券の購入)の政治献金を行った。
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■何が問題なのか

もちろん、以上の事実内容は、あくまでも現時点での報道内容を前提とした推測で、今後どのような事実が明らかとなるかは不明ですが、以下では、このような事実を前提として刑法上の論点を考えてみたいと思います。

―職務に関して―

まず、賄賂罪は、「(公務員の)職務に関して」問題となります。「職務」とは、公務員がその地位に伴って公務として取り扱う一切の執務という意味です。

今回の場合は、遠藤氏の国会議員としての職務が問題になっており、具体的には、議院における議案発議権、修正動議提出権、表決権、委員会における質疑権等が国会議員の職務だといえますが、判例や実務では、これらにとどまらず「職務と密接に関連する行為」もまた「職務行為」であると解されています。遠藤氏は、長く自民党教育再生実行本部長を努めALT利用の拡大政策に携わってきた方ですから、文科省に対してALT拡大について具体的に働きかけるという行為も、広い意味で遠藤氏の国会議員としての活動の中に含まれるかどうかが論点となるでしょう。

なお、今回の口利きが職務行為ではないとされる場合は、刑法上のあっせん収賄罪か、あるいはあっせん利得処罰法のあっせん利得罪が問題となります。前者は口利きを行って不正な行為をさせた場合であり、後者は、適正な行為をさせた場合であっても成立します。今回の場合は、文科省の「通知」が問題になりますが、これは不正とはいえないでしょう。したがって、この場合は、あっせん収賄ではなく、あっせん利得罪が問題になると思いますが、あっせん利得罪では「(国会)議員としての権限に基づく影響力を行使」したことが要件ですので、具体的にどのような態様での口利きであったのかが問題となってきます。

―賄賂かどうか―

賄賂だといえるためには、一定の職務に関しての金品であることが必要です。つまり、問題となった金品が、何らかの職務行為に対する見返りという性格を持っていることが必要です。「職務関連性」とか「対価性」と呼ばれています。よく問題となるのは、「受け取った金はあくまでも政治献金であって、賄賂ではない」という抗弁です。しかし、問題は、職務との対価性があるかどうかであって、政治献金であるかどうかが問題となるのではありません。その金が政治資金規正法で適切に処理されていたとしても、遠藤氏の国会議員としての職務と対価関係にあれば、本人がどう思おうとも、刑法的には賄賂だということになります。この対価関係が非常に重要な問題となるでしょう。

―職務行為じたいが違法でなくても賄賂罪は成立する―

なされた職務行為が違法でなくとも賄賂罪は成立します。正当な職務行為であっても、つまり、政治を曲げなくても、賄賂罪は成立します。これは、およそ公務に従事する者が、その職務に関して金品を受け取ることは、国民に対して公務の公正さに対する不信感を与えることになるというのがその理由です。

これについては、多数の判例がありますが、次の判例が有名です。事案は、愛知県県会議員が同僚議員に依頼され、県議会で、ある議案に賛成の意を表しその成立に尽力したところ、報酬を期待していなかったにもかかわらず、後から突然謝礼として200円を贈られたというものでした。弁護人は、この200円は後日突然贈ってきたもので事前に約束があったものではなく、したがって職務を不正に執行するおそれはなかったから、これを収賄罪で処罰するのは不当であると主張しました。これに対して、裁判所は、「公務員が事前事後を問わず、職務執行に関し直接間接に利益を獲得するかごときは、世人をしてその廉潔を疑わしめ、ひいては職務上の威厳を失墜するに至るのおそれあり」(大審院大正2年12月13日判決)として、職務は適正であっても事後に不当な金を得たことは公務の廉潔性を疑わせるとしています。なお、公務員が賄賂をもらって実際に不正を働いた場合は、加重収賄罪として重く処罰されるのは当然です。

―請託(せいたく)はあったのか―

請託とは、公務員がその職務に関して具体的な依頼を受けて承諾することです。不正な職務行為の依頼であっても、正当な職務行為の依頼であっても構いません。今回のことでいえば、具体的に遠藤氏に対して、「ALT活用拡大に向けた予算化の依頼」があったのかどうかが問題となります。このような依頼があったとすれば、本件は単なる収賄罪ではなく、受託収賄罪として重い犯罪が問題となってきます。

遠藤氏は、「献金は事実だが、法令に従って適切に処理し、報告している。違法献金はなく、口利きもしておらず、全部法令に従ってやっている」(NHK)と述べていますが、献金が法令にしたがって適正に処理され、報告されていたとしても、それが国会議員としての職務行為に対する対価の意味をもっていたのかどうかが犯罪の成否に関してもっとも重要となる点ですので、今後その点の解明がまたれます。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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