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【遠藤疑惑】安倍首相、それはとんでもない誤解です

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■はじめに

先日来、遠藤利明五輪担当相について、不正な献金があったのではないかという疑惑が報道されています。

毎日新聞(2016年2月4日付け)によると、2月4日の衆議院予算委員会で、山尾志桜里議員(民主党)の質問に対し、遠藤氏は、(小中高などの英語教育で日本人教員を補助する)外国語指導助手(ALT)派遣業者の創業者からの献金や派遣会社を含めてパーティー券を購入してもらったこと、政府の教育再生実行会議でALTの活用・拡大を求める発言をしたことなどを認めたということです。

遠藤氏は、「(報道は)事実誤認だ」とされていますが、ALT活用・拡大に関して遠藤氏から文科省への働きかけがあったのかどうか、またもしもそれがあったとしたならば、この働きかけと創業者からの献金が〈対価〉、つまり〈見返り〉という関係にあるのではないかということが問題になっています。

そして、上記の報道によると、この委員会で安倍首相は、「安倍政権はお金によって政策を曲げることはない」と強調されたということですが、実は、これはとんでもない誤解です。

■政策を曲げなくても、職務に関してお金をもらえば犯罪

刑法197条1項前段は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」と規定しています。単純収賄罪です。

この罪は、多種多様な賄賂罪の基本類型となるものであって、今の刑法典が制定された明治40年から100年以上にわたって、その要件に変更が加えられることなく、現在に至っています。

この罪の成立要件は単純であって、公務員がもらった金品などについて、その職務との間に対価関係があれば、つまり両者の間に結びつきが認められれば収賄罪となります。

そして、このような関係性が認められれば、たとえ賄賂を収受した公務員が贈賄者の意に沿うような処分を全く行わなかった場合であっても収賄罪は成立します。さらにいえば、その公務員がおよそ不正な処分をする余地が全くない場合であっても、収賄罪が成立するのです。これは、明治から現在まで、何も変わることのない大原則です。

このように厳格なルールが定められているのは、賄賂罪が刑罰という重い処分を科すことによって守ろうとしているものが、公務員たる者の職務の公正さ、および職務の公正さに対する国民の信頼であって、国が国民の信頼を失えば国家という組織じたいが崩壊しかねないからです。賄賂罪が〈亡国の犯罪〉と言われるゆえんです。

■公務員は職務に関し法令に規定する場合以外の報酬を受取ることはできない

賄賂を贈る者が公務員に対して不正な依頼(請託)をしたかどうか、公務員が便宜な取り計らいをするかどうかなどは犯罪の成否に影響がありません。正当な職務行為がなされ、これに対し後から賄賂が提供された場合にも犯罪は成立します。

それは、公務員たる者は、職務上の行為に関し法令に規定する場合以外の報酬を受取ることができないからです。

参考までに、代表的な判例を紹介します。なお、原文は読みにくいので、現代文になおしています。

―大審院明治44年5月19日判決―

收賄罪は、公務員がその職務に関して賄賂を收受することによって成立し、必ずしも収賄者がその職務上不正の行為を行い、または相当の行為をしないことの請託を受けることは必要ではない

―大審院大正5年6月13日判決―

收賄罪は、公務員が職務上の行為について報酬として他人より不法に利益を収受、要求、約束することで成立するものであって、その報酬が職務上の行為に関する以上は、その行為が正当かどうかは問題ではなく、ひとしく収賄罪を構成する。なぜなら、公務員は職務上の行為に関し法令に規定する場合以外の報酬を受取ることができないからである。刑法197条1項は広く「職務に関し」と規定しなんらの制限も加えていないし、公務員が行った職務行為に対して報酬が事後に提供されたからといって、これを受け取ることは職務が公平に行われたのかどうかについて疑いが生じるのである。これが収賄を処罰する根拠である。

―大審院昭和6年10月8日判決―

公務員の職務に対する報酬や謝礼として贈られた利益が賄賂性を有するためには、必ずしも公務員に対して何らかの不正を行うよう依頼(請託)することは必要ではなく、公務員の正当な職務の執行に対して謝意を表する場合であっても、その利益の供与と職務の執行との間に因果の関係が認られる以上、これを賄賂であると解することには問題はない。

―大審院昭和11年5月14日―

葉たばこ耕作者から収納する葉たばこの品質を鑑定する職務に従事する者(公務員)が、その等級の鑑定に手心を加える余地が実際にはなくても、この職務に関して金品を収受したときは収賄罪が成立する。

―名古屋高裁金沢支部昭和29年9月25日判決―

いやしくも公務員がその職務に関し、賄賂を収受するにおいては、当該公務員の措置に何ら不正不当の点がなくとも賄賂罪は成立する。したがって、最終的な決定権を持っていない公務員の職務についても賄賂罪は成立する。

■まとめ

このように、公務員が行った職務行為と受け取った利益について因果関係(対価関係)があれば収賄罪が成立し、それは明治以来変わっていません。

お金で政策を曲げることがなくても、その政策実行が公務員としての〈職務〉であり、受け取った利益との間に〈対価関係〉があれば犯罪の成立が問題となるのです。

それが、政治資金規正法によって適正に処理されている政治献金だということは、言い訳にはなりません。政治資金規制法に反する政治献金で、違法とされるものであっても、この〈対価関係〉が認められなければ〈賄賂〉ではありませんし、逆に、たとえ同法に基づいて所定の処理がなされていても、受け取った政治家(公務員)の〈職務行為〉との〈対価関係〉が疑われれば、それは〈賄賂〉の疑いも濃厚になってきます。この点は、中元や歳暮などの社交儀礼と同じことです。

なお、公務員が賄賂を受け取って不正を働いた場合は当然重く処罰されます。念のために。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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