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ストーカーとGPS

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:アフロ)

小金井刺傷事件で被害に遭われた女子大生の意識が戻り、危篤状態を脱したとのこと。本当に良かったと思います。今後は、身体の被害はもちろんのこと、精神的な被害回復と、退院後に平穏な日常を送れるように祈るばかりです。

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ストーカー問題については、すでに書いていますので(下記参照)、重複を避けたいと思いますが、もっとも重要な問題のひとつは、被害者の不安をいかに軽減するのかということだと思います。

この〈被害者の不安〉のほとんどは、犯人と被害者の間との〈情報量の決定的な差〉に由来しています。

  • 犯人は私のことをよく知っているのに、私は犯人のことをほとんど知らない。
  • 犯人が何を考えていて、何をしようとしているのか分からない。
  • 犯人は私の行動パターンを知っているが、私は犯人の行動パターンを知らない。
  • 犯人がいつ私の目の前に現れるのか、まったく予想がつかない。・・・・・

このようなことについて被害者は知るすべがなく、そのことが被害者を決定的な不安に陥れるのです。今流行りの言葉で言えば、ストーカーと被害者の間に〈情報の非対称性〉が生じているのです。

したがって、この〈情報の非対称性〉を可能な限り緩和させるような仕組みを創り、被害者の不安を軽減していく必要があります。そして、そのための手段として、GPSの利用ということを考えてもよいのではないかと思います。

2012年に神奈川県逗子市で起こった逗子ストーカー殺人事件の被害者、三好梨絵さんのお兄さんも「GPSによる監視」に言及されています。

ストーカー事件被害者兄が語る「GPS監視」方法も

ただ、この「GPSによる監視」については、人権上の問題も多く慎重な議論が必要ですが、私は、次のような制限的な利用の可能性は考えられるのではないかと思います。

  1. ストーカー規制法では、警察は通常、「警告」→「禁止命令」→「検挙」と、段階を踏んで対応しますが、少なくとも「禁止命令」の段階で、裁判所が専門家の意見を聴き、ストーカーに対して治療的措置への受診を義務付け、そしてさらにストーカー行為が続くようならば、その段階で、裁判所の許可を得て、ストーカーにGPSの装着を義務づける
  2. 警察がこのGPSをモニタリングするのではなく、裁判所の決めた物理的範囲内にストーカーが入れば被害者に対して(スマホや携帯電話などにより)直接「警報」などが鳴るようにする。必要とあれば、被害者がただちに警察に救助を要請できるようにする。

ストーカーと被害者の間の〈情報の非対称性〉を可能な限り緩和して、被害者の不安を軽減すること。このために、厳格な制限を付けて限定的にGPSを利用することも考えられてもよいのではないかと思います。(了)

次の拙稿も合わせてお読みいただければと思います。

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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