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強姦致傷罪という犯罪

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:アフロ)

有名女優の長男が強姦致傷の容疑で逮捕されました。現段階では主に警察からの情報が一般に流れていますので、事実関係はよく分かりませんが、強姦致傷罪という犯罪について、その要件や量刑などについて解説しました。

■犯罪の内容と成立要件、量刑

強姦行為は、「魂の殺人」と言われるほど、被害者に対して重大な被害を及ぼす犯罪行為であり、しかも手段として暴行(または脅迫)が用いられることから、傷害や最悪の場合は死の結果に至る可能性のある犯罪であり、凶悪性の高い犯罪だといえます。

刑法は、第177条で強姦罪を規定し、第181条で強制わいせつや強姦行為から死傷の結果が生じた場合の加重規定を置いています。

強姦

第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役[注:上限は20年]に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

強制わいせつ等致死傷

第181条 第176条[強制わいせつ]若しくは第178条第1項[準強制わいせつ]の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

2 第177条[強姦]若しくは第178条第2項[準強姦]の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は5年以上の懲役に処する。

3  第178条の2[集団強姦]の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。

強姦罪の要件

強姦罪は、暴行または脅迫を用いて、女性を姦淫する犯罪です。

暴行とは、殴ったり蹴ったりすること、脅迫とは、殺すぞとか裸の写真をばらまくぞとか脅すことです。これらは、被害者の反抗を完全に封じる程度である必要はなく、被害者の抵抗がかなり困難であるという状況をつくる程度であれば構いません。具体的には、犯行時刻や場所、犯人の年齢や体格などから実質的に判断されます。このような手段を用いて、被害者に対して無理に性交を行うことによって犯罪は既遂となります。

強姦罪は、被害者の真意に基づく同意があれば、当然犯罪にはなりません(被害者が13歳未満の場合は、同意能力がないとされています)。したがって、犯人が、被害者は同意してくれていると誤解した場合、その誤解になっとくできる理由があれば、強姦罪を犯す故意がなかったということになります。しかし、被害者の反抗を著しく困難にする暴行・脅迫を行った後で、被害者の真意に基づく同意があったと犯人が誤信したような場合は、普通はその誤信に理由があったといはいえないでしょう。

強姦致傷罪の要件

強姦罪は、上述のように手段として暴行を使う場合があるので、それが死傷の結果を引き起こす可能性があり、たいへん凶悪で危険な犯罪だといえます。そこで、刑法181条では、強姦や強制わいせつなどを犯して、その結果、人を死傷させた場合について重く処罰する規定を置いています。

強姦の意思で暴行・脅迫行為を開始した時点で強姦罪に着手したことになりますので、暴行から死傷の結果が発生すれば、その後姦淫行為に及んでいなくとも強姦致死傷罪が成立します。また、普通は(反省するなどして)「自分の意思で犯罪を中止した場合」には、一般の未遂罪に比べて軽く処理されますが(中止犯、刑法43条後段)、強姦致死傷罪の場合は、暴行・脅迫に着手し、自分の意思で姦淫行為を中止しても、死傷の結果が生じた以上は本罪が成立します。

死傷の結果は、暴行や脅迫行為、あるいはわいせつ行為や姦淫行為と因果関係があることが必要です。そして、実務では、この因果関係はかなり広く認められています。たとえば、被害者が逃走しようとしてケガをした場合や、逃走を阻止するために加えた暴行から死傷の結果が生じた場合などにおいても強姦致死傷罪が成立します。

傷害の程度については、軽い傷害の場合には本罪から除外されるべきだという見解もありますが、判例は、軽い傷害でも本罪に該当するとしています(全治10日の打撲症、全治3日の擦り傷、塗り薬を1回つけただけで自然と治るような傷、キスマークなど)。

強姦致傷罪の量刑

強姦致死傷罪の法定刑は、「無期又は5年以上の懲役」と規定されています。この範囲で、個々のケースの個別事情を考慮し、最終的に刑罰の種類と量が決められます。

これについては、最高裁が、主な事件についての量刑データ公表していますので、それを紹介します。

強姦致傷における量刑分布(最高裁)
強姦致傷における量刑分布(最高裁)

これを見ますと、強姦致傷では、懲役7年~9年の間にピークがあり、ほとんどが実刑となっていることが分かります。

■改正論議

性犯罪の罰則については、明治40年の現行刑法制定以来、ほとんど変わっていません。ただ、昭和33年の刑法改正によって、いわゆる輪姦形態による強姦罪などが非親告罪化され、また、平成16年の刑法等改正によって法定刑が若干引き上げられてはいますが、犯罪の要件などについては明治40年の制定当時のままで、現代の性犯罪に関する考え方に必ずしも合致しない点があるのではないかが問題となっています。特に、性犯罪を、女性に対するすべての暴力の根絶という観点から見直すべきであるとの意見が強くなり、平成26年秋から、法務省内に検討会が設けられ、多くの論点について議論がなされ、平成27年8月に「『性犯罪の罰則に関する検討会』取りまとめ報告書」がまとめられました。

現在は、この報告書を踏まえて、(1)強姦罪など非親告罪とすること、(2)強姦罪の主体等の拡大(行為者・被害者についての性差の解消)、(3)性交類似行為に関する条文の創設(肛門性交等を強姦罪と同等に処罰すること)、(4)地位・関係性を利用した性的行為に関する規定の創設、(5)性犯罪の法定刑の見直し(強姦罪等の法定刑の下限を引き上げること、強姦犯人が強盗を犯した場合も、強盗強姦罪と同じ法定刑で処罰する規定を設けること)等について、法制審議会で議論がなされています。

強姦致死傷に関しては、特に法定刑の下限を現行の懲役5年から懲役6年に引き上げることが検討されています。近々、このような方向で刑法の改正が実現されることと思います。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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