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心の断捨離もしたくなるモノがたり。公開と同時配信!

杉谷伸子映画ライター
『365日のシンプルライフ』c:Unikino2013

持ちモノすべてを倉庫に預け、必要なモノを1日1個だけ持ってくる。その生活を1年続け、その1年間は何も買わない。監督のペトリ・ルーッカイネン自身の“実験”生活を記録したフィンランド映画『365日のシンプルライフ』が好調だ。

日本では断捨離がブームを通り越して定着し、整理術のベストセラーも次々と生まれている。好きなモノに囲まれて暮らしていたいけれど、気がつけばたいして使いもしないのに捨てるに捨てられないものが溢れているという現実に悩んでいる人が多いということだろう。そんななか、ユニークな発想で、〈モノとの関係を見つめ直すことは自分自身を見つめ直すこと〉という真実を浮かびあがらせてくれるのがこの作品。自分だったら最初に何を持ってくるかとか、映画を観ながらかなり真剣に考えている自分に気づくはず。既に公開された各国では、“実験”フォロワーが続出したというのも納得だ。

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そして、この作品、公開のスタイルも面白い。劇場公開と同時にiTunes等でも配信をスタートしたのである。

配給のkinologueの森下さんによると、「初期の段階から〈劇場公開→DVD発売→配信・自主上映会〉という従来の配給の流れと異なる配給をしていこうと決めていた」という。

「1館でしか上映しない映画にとっては、話題になっているときにお客さんを取り逃がすだけ。これはイベント映画だから」と、劇場を説得して同時配信を実現。「観終わったあとに誰かと話したくなると思ったので、劇場公開中の自主上映会(8/30クリーニングデイ限定)も小規模から推奨しています」。DVDもそのための業務用の販売は検討しているが、今のところ個人向けのDVD発売は予定していない。

iTunesの配信はセルのみにもかかわらず、リリース週は売上チャート30位前後にランクインと好健闘。ドキュメンタリージャンルでは1位を獲得した。近くに公開劇場がない人にとっても、気になる話題作を思い立ったときに観られる同時配信はやはりありがたい。

劇場へ足を運ぶ楽しみもふんだん

劇場の客層は、北欧好きそうな女性からこざっぱりした男性、シニアの夫婦や中高生の子供を連れた家族連れなど、さまざま。平日には初老の男性の姿も見受けられるようになったのは、毎日新聞の政治コラムでとりあげられた効果ではないかという。

初日のオーディトリウム渋谷
初日のオーディトリウム渋谷

劇場でイベントやプレゼント・キャンペーンを頻繁に行っているのも特徴だ。公開2日目の8月17日にはレストランデイ(フィンランド発祥の“誰でもレストランが開ける”イベント)が開催され、8月30日にはクリーニングデイ(同じく“誰でもどこでもフリーマーケットが開ける”日)で劇場内フリーマーケットが行われる。公開2週目のSkypeによるルーッカイネン監督ほか、毎週末トークイベントも開催。映画好きはもちろん、女子心や北欧好きをくすぐるイベントが盛りだくさんなのだ。

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レストランデイには有名キャラにちなんだサンドイッチも。
レストランデイには有名キャラにちなんだサンドイッチも。

「劇場にわざわざ来てくれる人たちに楽しんでもらって、劇場に来ることを意味づけるためです」(森下さん)。最近は、面白い映画を観たらSNSに書き込みするのも映画鑑賞後の楽しみのひとつだが、そこに興味深いイベントが加われば、ますますSNSの書き込み効果も狙えるというものだろう。

ちなみに、低予算作品の『365日のシンプルライフ』の巨大広告が渋谷に陣取っているように見える面白写真を使用している同作のFacebookのカバー画像も傑作。これはルーッカイネンがピカデリーサーカスでもこうした写真を撮っているのを目撃した森下さんが、渋谷でも撮影してくれるように頼んで実現したもの。このセンス、作品同様に「面白い」とSNSに書き込みしたくなる。(記事中の写真はkinologue提供)

『365日のシンプルライフ』はオーディトリウム渋谷ほかで公開中。全国順次公開

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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