Yahoo!ニュース

ケヴィン・ベーコンの名前につられて正解!なにかと掘り出し物の『COP CAR/コップ・カー』

杉谷伸子映画ライター
(c) Cop Car LLC 2015

ケヴィン・ベーコンの名前がある作品は気になるという映画好きは多いだろう。しかも、監督はリブートされる新『スパイダーマン』(2017年公開予定)の監督に抜擢された新鋭ジョン・ワッツとくれば、なおのこと。ケヴィン・ベーコンが少年たちに盗まれたパトカーを追う邪悪な警官を演じる『COP CAR/コップ・カー』が放つ、イケてるB級サスペンスの匂いにはそそられずにいられない。

もちろん怪演!ケヴィン・ベーコン

主人公は、冒険気分でプチ家出の旅に出た二人の少年トラヴィス(ジェームズ・フリードソン=ジャクソン)とハリソン(ヘイズ・ウェルフォード)。コロラドの荒野を戯れながら歩く少年たちが、偶然見つけたパトカーを面白がって乗り回したことから、このパトカーに悪事を隠している保安官ミッチ・クレッツァー(ケヴィン・ベーコン)に追われることになるというもの。

スティーブン・スピルバーグの傑作『激突!』的な世界が見られそうな予想はいい具合に裏切りつつも、悪い奴に追われるはめになった少年たちというシンプルなストーリーながら、保安官ミッチ・クレッツァーを演じるベーコンのハマりっぷりを満喫させつつ、さらには少年たちの成長物語としての余韻にも浸らせてくれる かなりの掘り出し物だ。

(c) Cop Car LLC 2015
(c) Cop Car LLC 2015

言うまでもないが、保安官を演じるベーコンがとにかくうまい! 自分のパトカーが消えたことを知ったクレッツァーは、パトカーが今どこにあるのかを突き止めようとするのだが、その手口の見事な事。同僚に自分の悪事がばれないようにしつつ、着実に少年たちに迫っていく狡猾さには、悪役ながら惚れぼれせずにいられない。少年たち同様にクレッツァーについても背景は語られないのだが、そうしたやりとりを通して、彼がどういう男なのかが伝わってくるストーリーテリングのうまさもさることながら、それを表現するベーコンもまたお見事。サスペンスは悪役が魅力的であればあるほど面白いが、この作品の要の存在として、クレッツァーを一癖ある存在にしているのはベーコンならでは。

ちなみにパトカーを探すミッチと交信する通信指令部の声を演じているのは、ベーコンの妻であるキーラ・セジウィック。そもそもベーコンの出演が決まったのも、ワッツのガールフレンドがベーコンのマネージャーのオフィスで働いていた縁で脚本を渡されたから。出演の経緯からして低予算作品らしいアットホームな雰囲気。You Tubeに投稿した架空の映画の予告編がきっかけで、イーライ・ロス製作で映画化されたワッツのホラー映画『クラウン』はアメリカでは劇場未公開だが、ベーコンはこの作品を観て 気に入っていたそうで、『COP CAR/コップ・カー』では製作総指揮にも名前を連ねている。

今からチェックしておくべきかも

そのミッチの悪役ぶりもさることながら、実はこれは少年たちの成長物語でもある。悪役が手強ければ手強いほど、いつしかこちらも少年たちに感情移入しているわけで。

(c) Cop Car LLC 2015
(c) Cop Car LLC 2015

クレッツァーのクレバーな手口に感心させる一方で、「ここで来るよね!」というスリラーのツボも絶妙なタイミングで仕掛けて楽しませてくれるワッツのセンスも抜群なら、『激突!』をはじめ映画好きなら思わず嬉しくなる名作映画への目配せもあちこちに散りばめられている。そんななか、トラヴィスとハリソンの子供ならではハラハラさせる行動が、のちのち ちゃんと効いてくるという具合に、伏線もしっかり。なにより 絶体絶命の事態に追い込まれた トム・ソーヤーでもハックルベリー・フィンでもない 普通の少年たちが迎える結末も、なかなかリアルだ。それでいて、けっしてニヒルになりすぎない絶妙のさじ加減。先般、この作品についてベーコンにインタビューする機会を得たが、ワッツとも話し合ったと教えてくれた この秀逸なエンディングは、これまで同様に盟友クリストファー・フォードと共に脚本も手がけたワッツの才能や 思いがけない感動に出会った興奮を味わわせてくれるのだ。

(c) Cop Car LLC 2015
(c) Cop Car LLC 2015

少年時代を描く作品は、演じる子役の魅力も大きなウェイトを占めることになる。本作も、性格の違う二人の少年を演じたジェームズ・フリードソン=ジャクソンとヘイズ・ウェルフォードが魅力的。悪ガキ臭のあるトラヴィスと、慎重なハリソン。監督が撮影現場にやってきた二人のやりとりを見て決めたという配役は、ひとたびこの作品を観てしまうと、逆の配役は考えられないほどハマっているが、オフスクリーンの様子を見ると、二人とも今回の役とは印象が違うあたり どちらも既にかなりの演技派といったところか。実際、フリードソン=ジャクソンはTVシリーズ『ジェシカ・ジョーンズ』に出演し、ウェルフォードは今夏の話題作『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』に出演している。『インポッシブル』ナオミ・ワッツを支える健気な長男を演じたトム・ホランドが、新『スパイダーマン』の主演をつとめるように、注目子役が大作で主演をつとめるようになるのもあっという間。ジョン・ワッツが新『スパイダーマン』をどう料理するかとともに、フリードソン=ジャクソンとウェルフォードの今後も期待せずにいられなくなる。

『COP CAR コップ・カー』は4月9日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

杉谷伸子の最近の記事