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カナダの新鋭がゴロフキンの対戦相手候補に浮上 〜NABFミドル級タイトルマッチ、レミュー対ロサド

杉浦大介スポーツライター

12月6日

NABFミドル級タイトルマッチ12回戦

ブルックリン/バークレイズセンター

デビッド・レミュー(カナダ/33勝(31KO)2敗)

10ラウンド1分45秒TKO

ガブリエル・ロサド(アメリカ/21勝(13KO)9敗)

レミューが”追試”をパス

モントリオール出身の25歳、レミューが、3年振りに訪れた2度目のテストを見事にクリアしてみせた。

経験豊富なロサドと対戦した一戦で、レミューは第3ラウンドに左フックで先制のダウンを奪う。続く第4ラウンドには、2人合わせて47発のパワーパンチを交換し合う激しい打ち合いを展開。そのラウンド中のピンチを凌ぐと、以降は馬力と回転力にものを言わせて試合を優位に進めていった。

ロサドがカットした左目が激しく腫れたこともあって、第10ラウンドについにリングサイドのドクターが試合をストップ。ディフェンスの甘さに課題は残ったものの、過去にゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ピーター・クイリン(アメリカ)などとも対戦経験がある難敵を明白な形で下し、真価を証明してみせた。そして何より、HBO初登場でファンを喜ばせたことの意味は大きい。

「ロサドが後半勝負に持ち込みたがっていたのは分かっていた。ただ、フルラウンドを戦い、爆発力を保つだけの準備はできていたよ」

試合後にそう語ったレミューが、1度目のテストを受けたのは2011年のことだった。このときは百戦錬磨のマルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ)に7ラウンドでストップ負けを喫し、スタミナ、耐久力に疑問を呈された。直後には元WBA世界ウェルター級王者のヨアキム・アルシン(ハイチ)にも判定負けし、完全に壁にぶつかったかと思われた。

しかし、この手痛い2連敗の後に8連勝7KOで再浮上。ここ2戦はフェルナンド・ゲレーロ(アメリカ)、ロサドと名のある選手をストップし、スピード豊かな左フックを主武器とするエキサイティングなスタイルの魅力を印象づけた。カナダではすでに人気選手でもあるだけに、このパンチャーには間もなくビッグファイトの機会が訪れることだろう。

ミドル級はゴロフキンを中心に動く

米国内では決してビッグネームとは言えない選手同士がブルックリンのメインイベントに登場した背景には、昨今はHBOがミドル級に巨額投資しているという事情がある。

現在のミドル級の目玉はもちろんカザフスタンの怪物パンチャー、ゴロフキン。12連続KO防衛を続ける脅威のパワーは現役でありながらほとんど神格化され、対戦相手を見つけるのは徐々に難しくなりつつある。

そんな中で行なわれたレミューとロサドのサバイバル戦は、いわばゴロフキンの挑戦権を賭けたエリミネーションバウト。ここでパンチ力、カリスマ性、カナダ国内でのファンベースを備えたレミューが印象的な形で勝ち上がったことは、HBOにとってはまさに理想的な結果だった。

「世界王者になりたい。ゴロフキン、(ミゲール・)コット、クイリンでも、誰でも準備はできている。最高の相手と戦いたいんだ」

そう威勢良く語ったレミューが、全階級を通じても最も危険な選手と呼ばれるようになったゴロフキンと本当に戦いたいと思っているかは分からない。実現すれば、圧倒的不利の予想が出されることも確実だ。ただ、HBOが大金をつぎ込むことも間違いなく、だとすれば対戦へのレールが順調に敷かれることになるのではないか。

ゴロフキン対レミューは来夏か

2015年のゴロフキンは、まず2月21日にモンテカルロでマーティン・マレー(イギリス)と対戦予定。その後、4〜5月にアメリカ国内で一戦を挟み、レミュー戦は夏頃になると目される。熱狂的なファイトタウンとして知られるようになったモントリオールで開催されれば、イベント規模としては莫大なものになるに違いない。  

結局はゴロフキンのストップ勝ちが濃厚でも、エキサイティングな内容、戦慄的な結末が約束されている。エンターテイメント性に溢れたマッチアップは、アメリカ国内でも話題を呼ぶはずだ。

そんな一戦を可能にするべく、魅力的なカナダの役者が失望から這い上がり、ブルックリンでのテストをパスしてくれたことを、まずは1人のボクシングファンとして素直に喜びたいところである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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