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ボストン決戦で英国人の新王者が誕生 〜IBF世界スーパーミドル級タイトル戦 ディレル対デゲール

杉浦大介スポーツライター

Photo By Suzanne Teresa/PBC

5月23日 ボストン

ボストン大学アガニスアリーナ

IBFスーパーミドル級王座決定戦・12回戦

ジェームス・デゲール(イギリス/21勝(14KO)1敗)

3−0判定(114-112 x 2、117-109)

アンドレ・ディレル(アメリカ/24勝(16KO)2敗)

デゲールが歴史的勝利

戦前に多くの関係者が予想した通り、技巧派サウスポー同士の際どいポイントの奪い合いとなった一戦ーーー。

2ラウンドに奪った2度のダウンが響いた形となり、デゲールが接戦の判定勝ちでタイトルを手中に収めた。ロンドン出身の29歳は、これで五輪の金メダル(2008年の北京五輪ミドル級で優勝)、プロでの世界王座の両方を勝ち取った英国史上初の選手となったことになる。

「言葉もないよ。キャリアを通じて世界王座を目指して来て、ついにそれを成し遂げた。世界王者だ。世界王者になったんだ。英国の五輪金メダリストとしては初めてプロでもタイトルを奪い、歴史を作ったんだ」

試合後にそう語ったデゲールは、目を引くようなスピード、パワー、スキルがあるわけではない。しかし、すべてが平均以上の総合力の高い選手ではある。少々ユニークなサウスポースタンスからのクラウンチングスタイルの効果もあり、負けにくい王者となっていくかもしれない。

グローブス再戦?ウォードとの頂上決戦?

今後を考えていくと、幾つかのオプションが見えて来る。

このまま引退か、ゲンナディ・ゴロフキンとの対戦に踏み切るかを迷っていると伝えられる前王者カール・フロッチとの新旧対決は望み薄。しかし、2011年に際どい判定負けを喫した宿敵ジョージ・グローブスとのリマッチは十分に考えられる。また、まだ時期尚早だが、しばらく実績を積み重ねれば、来月20日に復帰戦を迎えるアンドレ・ウォードとの統一戦も話題になってくるはずだ。

勝ちはしたものの、アメリカで人気選手になるにはディレル戦はややアピール不足だったのも事実。特に中盤に消極的になり、前半に稼いだポイントの貯金を吐き出しかけた。

ただ、その才能は明らかだけに、王座奪取で自信を付けて、さらに一皮むけても不思議はない。同じ英国出身のケル・ブルック同様、フロッチに次ぐイギリスの新たなエース候補であることは間違いないだろう。

Photo By Suzanne Teresa/Premier Boxing Champions
Photo By Suzanne Teresa/Premier Boxing Champions

ボストンのボクシング

地上波NBCで放送された今回の試合は、珍しくマサチューセッツ州のボストンで開催されたことでも話題を呼んだ。

通称“ビーンタウン”での大興行は、2006年5月のリッキー・ハットン対ルイス・コラーゾ戦以来。血気盛んなアイリッシュが多いこの街ではスポーツが盛んだが、近年はなぜかボクシングとは縁遠かった。そして、地元に馴染みの薄い選手同士の対戦とあって、デゲール対ディレル戦の会場は空席が目立った(公式観客数は発表されず)。

かつて、1919〜56年にはレッドソックスの本拠地であるフェンウェイパークでは29もの興行が行なわれたものだった。マサチューセッツ州からはジョン・L・サリバン、ロッキー・マルシアノ、ジョージ・ディクソン(国籍はカナダ)のような殿堂入り選手も生まれている。また、近年ではローウェル出身の激闘王、ミッキー・ウォードの闘志は多くのスポーツファンの胸を打った。

そんなマサチューセッツ州において、ボクシングの灯はほぼ消えてしまって久しい。しかし、アル・ヘイモンのプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)は全米各地で興行を打ち続ける模様だけに、ボストンで催されるカードは今後も少なからずあるはずだ。4大スポーツの試合時の素晴らしい雰囲気を考えるまでもなく、アメリカ有数の世界都市であるボストンはボクシングにとっても重要なマーケットに成り得る。この街が再びファイトタウンに戻ることは可能なのか?

現実的に、そのためにはミッキー・ウォードよりも一段上の実力を持つ地元の看板ボクサーが必要だろう。ただ、興行数を重ねれば、ボクシングへの関心が徐々に高まっていっても不思議はないだけに、今後の展開に期待したいところではある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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