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カーンのメイウェザーへの”片想い”は終わるか 〜アミア・カーン対クリス・アルジェリ戦より

杉浦大介スポーツライター

Photo By Lucas Noonen/PBC

5月29日 ブルックリン 

バークレイズセンター

ウェルター級12回戦

アミア・カーン(イギリス/31勝(19KO)3敗)

3−0判定(115-113, 117-111, 117-111)

クリス・アルジェリ(アメリカ/20勝(8KO)2敗)

意外な苦戦も

ベストコンディションを作って来たアルジェリのサイズと積極戦法の前に、戦前は有利と目されたカーンは予想以上の苦戦を味わった。

第1ラウンドに右ストレートでぐらつかされたのを始め、クリーンヒットを許すシーンもしばしば。7372人の観衆の印象に残ったのは、カーンがときに繰り出す効果的な強打より、精力的に計703発(カーンは609発)のパンチを放ったアルジェリの健闘だったかもしれない。

もっとも、ポイント的にほぼ互角で迎えた中盤以降、より正確なパンチで主導権を握ったのはカーンの方。アルジェリの闘志を認めた上でも、イギリスの雄の勝利自体は文句のないものだった。

試合ごとに好不調の波の激しさが指摘されるカーンが今戦で手こずった理由は、自身の不調か、アルジェリの意外なアグレッシブ・スタイルか、噛み合わせの悪さか。答えはどうあれ、思い通りにならない展開の中で、それでも中盤以降にアジャストメントを施して明白な勝利に繋げる機転は示した。

そういった意味で、支配的な強さは見せられずとも、ギリギリながら及第点を付けても良い内容ではあったのではないか。

メイウェザー戦を熱望

「アミア・カーンがフロイド・メイウェザーと戦いたがっていることは誰もが知っているはずだ。メイウェザーこそがチャンピオン。実現させようじゃないか」

アルジェリ戦後のリング上で、カーンはそう語った。

そんな本人の言葉にあるように、28歳のイギリス人が現役最強王者との対戦希望を口にしたのはこれが初めてではない。「僕はフロイドに勝てるスタイルを持っている」と明言するカーンは、Spike TVによって全米生中継されたアルジェリ戦を終えて、ついに“恋人”とのランデブーの機会を得られるのかどうか。

5月2日のマニー・パッキャオ戦後、メイウェザーは9月12日に次の試合を行ないたいと語って来た。デヴュー以来48連勝を続けて来た“マネー”にとって、これがShowtime/CBSとの6戦契約の最後の一戦。しかし、その記念すべきファイトに向けて、対戦相手候補に乏しいのも事実である。

キース・サーマンは7月11日にルイス・コラーゾとの対戦が決まり、ダニー・ガルシアも8月1日にPBC興行登場との噂がある(まだ正式決定ではない)。6月20日に直接対決するエイドリアン・ブローナー対ショーン・ポーターの勝者は候補になるが、9月までに準備が間に合うかは微妙なところ。30日にイギリスで保持するIBF世界ウェルター級タイトルの防衛戦を行なうケル・ブルックは、実は最も手強い相手かもしれないが、アメリカ国内での知名度に絶対的に欠ける。

そんな状況下で最有力視されたカーンも、アルジェリ戦でアピールするまでには至らなかった。だとすれば、パッキャオ戦で実に2億ドル以上の報酬を受け取ったと目されるメイウェザーが、もともと準備期間に乏しい9月の試合をスキップしても驚くべきではないのだろう。

”恋人”への一方的な想いは届くのか

ただ、それでも、カーンが最新のダンスパートナーに選ばれる可能性が完全に見過ごされるべきではないとは思う。

イギリスでは人気者であり、アメリカでも知名度はサーマン、ブルックよりも高いカーンは、パッキャオ、サウル・アルバレス以外では最も多くのカネを生み出す選択肢の1つではある(ゲンナディ・ゴロフキンのような非現実的な候補は除く)。そして、アルジェリ戦で印象的な試合ができなかったことが、リスク回避に熱心なメイウェザーにむしろ“好印象”を与えてしまいかねないのがボクシングビジネスの世界でもある。

9月に試合を行なおうと思えばそろそろ動く必要がある。それだけに、近いうちにメイウェザーは何らかのコメントを残すはずだ。

熱烈な“片想い”を続けるカーンに、ここでどんな言葉が贈られるか。それ次第で、カーンの今後だけではなく、秋に予定されるアルバレス対ミゲール・コット戦など、ボクシング界の様々な日程がドミノ倒しのように決まり始めるはずである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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