Yahoo!ニュース

夢の中南米ライバル対決、コット対カネロ戦が実現へ ~WBC世界ミドル級タイトル戦 コット対ギールより

杉浦大介スポーツライター

Photo By Tom Hogan- Hoganphotos/Roc Nation Sports/Miguel Cotto Promotions

6月6日 ブルックリン

バークレイズセンター

WBC世界ミドル級タイトル戦

王者

ミゲール・コット(プエルトリコ/39勝(32KO)4敗)

4ラウンド1分28秒TKO

挑戦者

ダニエル・ギール(オーストラリア/31勝(16KO)3敗)

痛烈KOでコットが圧勝

試合前、ギール戦でのコットの苦戦の可能性を指摘するメディア、関係者は少なくなかった。その中には、他ならぬ筆者も含まれる。

コットのミドル級での実績は1年前のセルヒオ・マルチネス戦の1戦のみで、その試合のマルチネスは膝のケガですでに戦える状態ではなかったと囁かれた。一方、今回対戦するギールは、2度の世界タイトル奪取を含み、2007年以降は絶えずミドル級で戦い続けて来た選手である。

ギールは昨年7月にゲンナディ・ゴロフキンに2ラウンドKO負けを喫して評価を落としたとはいえ、ナチュラルな体格で上回る。経験豊富なミドル級の“先輩”相手に、34歳となったコットも苦戦するのではないか・・・・・・?

しかし、”プエルトリコの雄”の支持者たちの懸念は、コットが4ラウンドに放った完璧なカウンターの左フック一撃で吹き飛ばされる。この強烈な一発でギールは弾けるようにダウンし、同時に勝負あり。その後に連打でコットが2度目のダウンを追加すると、ここでギールがあっさりと試合を諦めた。

詳しくは後述するが、試合前はコット側が要求した157パウンドの契約ウェイトがメインの話題となった。ミドル級リミットを3パウンド下回るウェイトの問題が、ギールの動きの悪さに繋がった感は否めない。ただ、それを考慮した上でも、この日はコットの動きの良さが目立った。

「フレディは僕をすべての面でベターにしてくれた」

そんな言葉通り、コットとフレディ・ローチ・トレーナーとの相性は良いのだろう。

マニー・パッキャオとのコンビで有名になったローチと組んで以降、2013年10月のデルビン・ロドリゲス戦で3ラウンドTKO、昨年のマルチネス戦で10ラウンドTKO、そして今回と3連続KO勝利となった。ただ勝つだけでなく、この3戦は内容的にもほぼ完璧。フロイド・メイウェザー、オースティン・トラウトへの連敗で一時は落ちかかった商品価値を、コットはここで完全に取り戻すことに成功したと言って良い。

Hoganphotos/RNS/Miguel Cotto Promotions
Hoganphotos/RNS/Miguel Cotto Promotions

カネロとの対決

「(カネロ戦を)みんなが望んでいるなら、やろうじゃないか」

試合後のリング上でサウル・“カネロ”・アルバレスとの対戦について訊かれ、コットはそう答えた。実際にこのメキシコ対プエルトリコのライバル対決はすでに内定しており、コットがギールに勝った場合、今秋にその一戦を挙行することがHBOがコット対ギール戦を中継する条件だったという。

カネロとゴールデンボーイ・プロモーションズはメキシコ独立記念日ウィークの9月12日にコット戦を希望しているが、その日はメイウェザーの次戦予定日。だとすれば、実現は10、11月か。いずれにしても、タイプ的に噛み合いそうな両者の対戦は目の離せないファイトになることは必至だ。

コットはギール戦でブルックリンに12157人、カネロはジェームズ・カークランド戦でヒューストンのミニッツメイド・パークに31000戦人以上の観衆を集めた人気者同士でもある。メイウェザー対パッキャオ戦以外では、この2人の激突こそが興行的な意味では最大のファイトの1つ。ラティーノを中心に爆発的な話題を呼び、コット対カネロ戦は今年度下半期のハイライトと呼べるビッグイベントになるはずだ。

Hoganphotos/RNS/Miguel Cotto Promotions
Hoganphotos/RNS/Miguel Cotto Promotions

契約ウェイトの問題

バークレイズセンターが素晴らしい雰囲気に包まれたコット対ギール戦の中で、1つだけ残念なことがあったとすれば、試合前の話題が157パウンドの契約ウェイトに集中してしまったことだ。ミドル級リミットからマイナス3パウンドの体重を、サイズに劣るコット陣営が強硬に主張したと言われる。

160パウンドでも減量苦が伝えられる中、契約通りに157パウンドの体重を作ったギールのプロ意識は讃えられたが、実際の試合での動きは近年では最悪だった。報道によると、34歳と若くはないギールの体重は試合当日は182パウンドに膨れ上がっていたという。

「言い訳はしたくない。100%の体調ではなかったけど、ミゲール・コットは偉大な選手だし、最高のチャンピオンだ」

実直なギールはそう語ったが、ゲイリー・ショウ・プロモーターは試合後も収まりがつかない様子だった。

「個人的には世界タイトル戦で契約ウェイトを採用することには反対だ」

もちろんその体重でファイトをしたくないなら、事前に交渉するか、あるいはそもそも試合を受けるべきではなかった。プロモーターの発言は責任転嫁に聴こえないこともない。トレーナーの力量同様、陣営の交渉力までも含めてボクサーのチーム力だと言われればそれまででもある。

ただ・・・・・・ビッグファイトの機会を熱望し、外国人でもあるギール側には選択の余地がなかったのも事実。ノンタイトル戦ならともかく、タイトルマッチで自身に有利な体重を設定するのは、スター選手の横暴にも感じられてしまう。そういった意味で、今回の痛烈なKO劇にも、一点の曇りがあるように感じたのは筆者だけではなかったはずだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事