ブルックリンの名優が引退へ 〜ウェルター級12回戦、ダニー・ガルシア対ポーリー・マリナージ戦より
Photo By Ed Diller/DBE
8月1日 ブルックリン
バークレイズセンター
ウェルター級12回戦
ダニー・ガルシア(アメリカ/31勝(18KO))
9ラウンド2分22秒TKO
ポーリー・マリナージ(アメリカ/33勝(7KO)7敗)
ガルシアが再びビッグファイト路線へ
“本拠地”と呼べるバークレイズセンターに7237人を集めて行われたマリナージ戦で、ガルシアはまずは安定感のあるボクシングを披露した。
思い切った左右のフックを随所に決め、序盤からペースを掌握。もちろん現時点ではリスクの少ないマリナージ相手なら予定通りではあるが、147パウンドのウェルター級に本格転向の試運転としては悪くはなかったのではないか。
最近のガルシアはマウリシオ・エレーラ、ラモン・ピーターソンに大苦戦。アミア・カーン、エリック・モラレス、ザブ・ジュダー、ルーカス・マティセを連破し、スターダムに躍り出た頃の勢いは消え上せてしまった。
しかし、その停滞の一因がスーパーライト級での減量苦にあったとすれば、一階級上でみずみずしさが戻ることも考えられる。
「アル・ヘイモンが望む相手とは誰とでも戦う。これまでのキャリアを通じてそうだったし、それは変わらない。ウェルター級なら誰でも良いよ」
試合後の本人の言葉通り、“プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)”の主力選手であるガルシアのマッチメークはヘイモンの一存次第だ。
フロイド・メイウェザーを始め、キース・サーマン、ショーン・ポーター、アミア・カーン、エイドリアン・ブローナー、マルコス・マイダナ、エロール・スペンス・・・・・・とヘイモン傘下のウェルター級の強豪は枚挙にいとまがない。これらの誰と組み合わせても興味深いマッチメークになるだけに、ガルシアはやはり重要なタレントではある。
「キース・サーマンとショーン・ポーターはどちらもこの階級に属する凄いファイターで、アル・ヘイモン傘下だ。彼らが望むのだとすれば対戦したいね」
2015年終盤、さらには来年にかけて、ガルシアは本人が言及するようなハイレベルのカードの主役となるのかどうか。ファンの関心と名声を取り戻す最善の方法は、今も昔も変わらない。好カードを実現させ、良い試合をした上で勝つことだけである。
マリナージの最後
「(ガルシアは)少しずつ僕を崩していっていたから、(レフェリーに)ストップされたことに不満はない。もうこれ以上は戦わないと思う。僕のキャリアは14年前にブルックリンで始った。それが今夜にブルックリンで終わるのだとすれば、少なくとも、地元で、世界最高のファンの前で幕を引けたことになるんだ」
完敗を喫したマリナージは、リング上でほとんどさっぱりしたような表情でそう語った。
2006年にリッキー・ハットンに初のTKO負けを喫した際には、子供のようにレフェリーの判断を責めていた姿が忘れがたい。しかし、そんなスピードスターも34歳。通算4度目のストップ負けにも納得したような表情を見ても、今度ばかりは引き際を悟っているように思えた。
「パンチ力に恵まれているわけではないのに、2度もタイトルを獲って、これだけ長く戦い続けた。その事実こそが彼がどんなファイターであるかを物語っていると言える」
同じブルックリン出身のダニー・ジェイコブスのそんな言葉は、マリナージのキャリアをわかりやすく語っているのではないか。
ブルックリンのサバイバー
パワー不足をスピードとスキルで補い、2度も世界タイトルを獲得。特に2012年4月にはウクライナに乗り込み、当時無敗だったWBA世界ウェルター級王者ビチャスラフ・センチェンコを8ラウンドでストップした金星には多くのファンが胸を震わせた。
台頭期の本人の言葉に反し、殿堂入りするようなレベルの選手ではなかった。ファイト自体は大抵は退屈で、不必要で行き過ぎの発言も多く、地元ニューヨークでも誰からも愛された選手ではなかった。それでも、知力、体力、時の運をすべて駆使し、生き残る術を見つけ続けたキャリアはスリリングで思い出深いものではあった。
ポール・マリナージはサバイバー。ブルックリンのエスケイプ・アーティスト。
エリートボクサーではなくとも、独特の存在感を醸し出した現代の名優の一人だった。テレビ解説者としてはすでに確固たる評価を勝ち得ているだけに、マリナージはこれからも、いつまでも、この業界内で軽やかにサバイブしていくのだろう。