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ピルロ、ビジャ、ランパードを擁するNYC FCとレッドブルズの間にライバル関係は生まれるか

杉浦大介スポーツライター

Photo By Hiroaki Yamaguchi

5月21日 ヤンキースタジアム

ニューヨーク・レッドブルズ

7−0

ニューヨークシティFC

前評判は高かった地元対決だが・・・・・・

今季初の“ニューヨーク・ダービー”は、MLS(メジャーリーグサッカー)において、新たなライバル関係が本格的にスタートするゲームになるかと思われた。

創設1年目の昨季は苦戦を味わったNYC FCだったが、この日の試合開始前の時点でイースタン・カンファレンス首位。5月に入ってDCユナイテッド、ポートランド・ティンバーズといった強豪をそれぞれ敵地で撃破するなど、2年目のシーズンを好調に滑り出しているように思えた。

「大きな仕事が待ち構えているのはわかっているよ。徐々に勢いがつき始め、素晴らしいライバル関係になっていくはずだ」

MLSでの実績では大きく上回るレッドブルズのGKルイス・ロブレスも、事前にはこのゲームを楽しみにするようなコメントを残していた。

“ニューヨークは青色(New York is Blue)”ーーー。NYC FCの公式ツイッターはレッドブルズのスローガンである「ニューヨークは赤色(New York is Red)」をもじったそんなつぶやきを残すなど、両チームのスタッフも盛大に煽った。

その甲斐あって、ダービー当日のヤンキースタジアムは37858人の大観衆で満員。開始直前に両軍のサポーター間で小競り合いが催され、2人が逮捕されるなど、周辺には紛れもなくビッグゲームの空気が漂っていた。

創設21年目、レッドブルズの底力

しかし・・・・・・残念ながら、良い雰囲気だったのは試合開始時点まで。開始3分でダックス・マッカーティがコーナーから頭で合わせてレッドブルズが先制点を上げると、以降、肝心のゲームは完全にワンサイドマッチとなってしまう。

マッカーティ、ブラッドリー・ライト=フィリップスが2点ずつ、さらに控え選手たちが3得点とレッドブルズの得点力が爆発し、なんと7−0という圧勝劇。特に前半終了間際のライト=フィリップスのオーバーヘッドからのゴールは先週のリーグ全体のハイライトとなった。

7点差は1998年のLAギャラクシー対ダラス・バーン(8−1)、2001年7月のカンザスシティ・ウィザーズ対シカゴ・ファイヤー(7−0)と並び、MLS史上の最多得点差タイ記録である。

「この試合で支配的な姿が見せられたのは特別なことだ。ニューヨークは赤色だと証明できた。本当に素晴らしい雰囲気だったからね」

ロブレスはそう勝ち誇ったが、実際にチームプレーの質、サポーターの統率の両面で“ニューヨークの先輩チーム”の完成度が遥かに上だった。今季最初の7戦で6敗と出遅れたとはいえ、過去3年間で2度もサポーターズ・シールド(シーズン最高勝率)を勝ち取った強豪の貫禄を存分に見せたと言って良い。

これでレッドブルズは昨季からNYC FCとの直接対決に4連勝で、合計得点は14−2。ハイレベルで競り合った経験のない2チームの間に因縁は生まれない。

同市内に本拠を置いているとはいえ、両者を“ライバル”と呼ぶのはまだ早すぎるのだろう。

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対照的なチームカラー

ただ、それでも過去2年の両チームを見ていて、レッドブルズとNYC FCは将来的にMLSを代表するライバル関係を築いていく可能性が十分にあるように思う。

NYC FCはフランク・ランパード(年俸600万ドル)、アンドレア・ピルロ(同590万ドル)、ダビド・ビジャ(同560万ドル)の3人に合計1750万ドルを支払い、チームの軸と話題性を作ってきた。

一方、レッドブルズはブラッドリー・ライト=フィリップスの年俸71万ドルが最高額で、給料総額は500万ドルやや上回る程度。あまりにも対照的な形で構成されたチーム同士が、今後にどんな軌跡を描いていくかは実に興味深い。

また、スポーツの盛んなニューヨークがホームとあって、両チームともに熱いファンベースを擁しているのも大きい。

「20年遅れで誕生し、まだスタジアムもないチーム(20 years late and a stadium short)」「ニューヨークの高齢者ホーム」

昨年のレッドブル・アリーナでのダービーマッチは2戦ともソールドアウトになり、場内にそんな横断幕も掲げられていた。

先日の軽い乱闘事件を見ても、MLSでの実績にはまだ差があっても、ファン同士はすでに意識し合っている様子。バイオレンスを肯定するつもりは毛頭ないが、両軍ファンの敵対心は今後の盛り上がりへの重要な要素である。

こうして外堀は順調に埋まっている中で、正真正銘のライバル関係誕生のために必要な要素は何か?言うまでもなく、NYC FCの戦力向上、リーグ内での立場確立に違いない。

鍵はNYC FCの成長

「感情的な部分をコントロールできなかった。気持ちが入りすぎて、ナーバスになっていた。おかげで良いプレーができなかったんだ」

パトリック・ビエラ監督がそう振り返った通り、今季初のダービーではNYC FCの意気込みが空回りした感もあった。

直前(18日)のトロントFC戦でピルロ、ビジャ(残り約15分で登場)を温存するなど、地元でのビッグゲームに比重を置きすぎたことが裏目に出た部分もあったかもしれない。レッドブルズ戦ではすべてが悪い方向にいったが、この日の点差が示すほどに両軍に力の差があったわけではあるまい。

ダービーマッチのあとでも、4勝4敗5分のNYC FC(17ポイント)は5勝7敗1分のレッドブルズ(16ポイント)よりも上の順位を保っている。過去6戦では4勝1敗1分、地力でも上位のレッドブルズが今後は走りそうだが、前記通り、NYC FCも決して悪いチーム状態だったわけではない。

故障が原因で欠場が続いていたランパードも、レッドブルズ戦の終盤にようやく今季初出場を果たした。浮沈の鍵を握る“ビッグ3”の足並みがついに揃いつつある。先週の記録的大敗の悪夢を乗り越え、レッドブルズに少しでも迫るべく、ビッグアップルのスター軍団は今後に再び上昇気流に乗っていけるかどうか。

“ニューヨーク・ダービー”は今季残りあと2戦ーーー。次は7月3日にレッドブル・アリーナで開催される。

NYC FCが好成績を保っていれば、次戦も確実に盛り上がるに違いない。そして、両者が歴史を積み重ねていけば、MLSの確実な人気向上と相まって、2チームの間に真の意味で熱いライバル関係が生まれても不思議はないはずなのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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