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ベガスのリングに2度目の登場 村田諒太が示さなければならないもの

杉浦大介スポーツライター

Photo By Mikey Williams, Top Rank

7月23日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

ミドル級10回戦

村田諒太(帝拳/30歳/10戦10勝(7KO))

ジョージ・タドーニッパー(アメリカ/37歳/34勝(24KO)2敗3分2NC)

現地での話題性はもうひとつ

昨年11月に続き、村田が2度目のベガス登場ーーー。日本が誇る元金メダリストが殿堂MGMのリングに初めて立つことになるが、少なくともアメリカ国内において、今回の試合は大きな注目を集めているわけではない。

テレンス・クロフォード(アメリカ)対ビクトル・ポストル(ウクライナ)のスーパーライト級統一戦という好カードの前座に組み込まれたが、村田のファイトはPPV中継の枠外。午後6時前という早い時間にリングに立つだけに、観客もまだほとんどいないだろう。

セミファイナルに登場予定だったスーパーミドル級王者ヒルベルト・ラミレス(メキシコ)の初防衛戦がラミレスの負傷で流れた時には、村田の試合がPPV1戦目に組み込まれるのではないかと予想する米メディアも存在した。

しかし、トップランク社は大器の呼び声高いライトヘビー級のトッププロスペクト、オレクサンドル・グズディク(ウクライナ)の起用を選択。グズディクの7月16日の試合をキャンセルさせ、新たに対戦相手にあてがわれたトミー・カーペンチー(アメリカ)とのお披露目ファイトがPPV放送されることになった。

こんな事前の流れは、現状での村田のアメリカでの立ち位置を物語っている。去年のベガス初戦では頑強なガナー・ジャクソン(ニュージーランド)をやや持て余し、強烈な印象を残せなかったことも影響しているはずだ。

米リングで認められるために

「彼はまずはリスペクトを勝ち取らなければならない(He has to earn respect)」

あるHBOの関係者とのメッセージのやり取りの中で、そんな一文があった。

アメリカのボクシング界で“尊敬”を得るために、必要なのは印象的な勝ち星。その点で、一時は話題に上った元アマ世界王者、プロでもタイトル挑戦経験のあるマット・コロボフ(ロシア)との一戦は実に面白いマッチメークに思えた。

コロボフ戦は勝ちさえすれば評価される種類のファイト。しかし、このテストマッチが実現しなかった後で、代わりに組まれたタドーニッパー戦では、やはり内容が問われることになる。

立派な戦績を持つ先住民族コマンチュ族の血を引く37歳だが、プロスペクトとみなされているわけではない。

勝利の大半は無名相手に挙げたもの。デルビン・ロドリゲス(アメリカ)、パトリック・ニールセン(デンマーク)に喫した2敗はいずれもストップ負け。IBF、WBOでは3位にランクされる村田にとって、力の差を見せつけた上で勝たなければいけない相手である。

何か売り物が必要

現状での興行価値に関してやや手厳しい指摘をしたが、筆者も村田のボクサーとしての底力を疑っているわけではない。ミドル級での五輪金メダルは文字どおり金字塔と呼べるとてつもない快挙であり、そんな選手に地力がないはずがない。

いわば勝ち方を知った実戦派ファイター。プロでも今すぐに王者クラスとぶつけても、興味深いファイトをしてくれるのではないかと考えている。

無骨なパワーボクシングだけに、鮮烈なアピールは得意ではないのかもしれない。それでも勝ち続けている限り、いずれ何らかの形で道は開ける。ただ・・・・・・今後、アメリカでの売り出しも考えるなら、やはりリング上の戦いぶりでインパクトを残す必要があるのも事実ではある。

ターゲットはイギリス人のWBO王者ビリー・ジョー・サンダースと聴くが、ミドル級のトップ戦線参入を目論むなら、米リングは避けては通れない。磨きをかけた右、ひたすら前に出続ける馬力、無尽蔵のスタミナ・・・・・・何でも良い。ここでやっていこうと思うなら、目の肥えたアメリカの関係者、ファンを唸らせ、売り物、代名詞となるだけの武器が必ず必要になってくる。

何か一つでもできることがあれば、それだけをやることを許してくれる。アメリカとはそういう国だし、特にボクシング界とはそんな世界である。そんな場所で、今後、村田はいったい何を売り物にしていくのか。

昨年11月の米初戦では総合力をアピールしようと意識しすぎた感もあったが、アジア開催の以降の2戦では吹っ切れたような思いきりも感じられた。迎えるベガス第2戦での戦いぶりが楽しみだ。

ここで未来への方向性がより明確に見えれば、ハンサムな日本産パワーファイターのアメリカでの注目度も自然と高まっていくはずである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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