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依然として実態の見えないPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)とアル・ヘイモンはどうなるのか

杉浦大介スポーツライター

Photo By Amanda Westcott/SHOWTIME

ボクシングファンには寂しかった1年も大詰め

ビッグファイトがほとんど実現せず、アメリカのボクシングファンを落胆させ続けた2016年がもうすぐ終わろうとしている。

今週末にはHBO、Showtimeがそれぞれ興味深いカードを放送するが、今年度全体の不振を埋め合わせるには到底至らない。ただ、それでも2017年がより楽しみな年になると期待させるニュースが増えてきているのも事実だ。

中心となっているのは、今夏以降はボクシングを放送していなかったプレミアチャンネルのShowtime。来年1月14日には、Showtimeがバークレイズセンターで行われるバドゥ・ジャック(スウェーデン)対ジェームス・デゲール(アメリカ)の世界スーパーミドル級統一戦を生中継することがすでに発表された。

実は現在のニューヨークは保険料金の高騰で興行が打てない状態になっており、このカードの発表、チケット発売も見切り発車の感は否めない。結局は開催地が変更になる可能性も指摘されているのだが、それはまた別の話。

場所がどこであれ、スーパーミドル級では最高級のカードが新年早々に行われることの意味は大きい。セミのIBF世界スーパーフェザー級王者ホゼ・ペドラサ(プエルトリコ)対ゲルボンタ・デイビス(アメリカ)戦も好カードだけに、当日は楽しみなダブルヘッダーになる。

Showtimeが好カードを連発

Showtimeが来年度上半期に予定しているのはこの一戦だけではない。10月下旬に、今年12月〜2017年序盤までのスケジュールを一気に発表して話題を呼んだ。

12月10日 ロスアンジェルス

WBA世界フェザー級王者ヘスス・ケジャル(アルゼンチン)対元3階級制覇王者アブネル・マレス(アメリカ)、IBF世界スーパーウェルター級タイトルマッチ、ジャモール・チャーロ(アメリカ)対ジュリアン・ウィリアムス(アメリカ)

1月28日 ラスベガス

WBA、WBC世界フェザー級王者カール・フランプトン(イギリス)対レオ・サンタクルス(アメリカ)、WBC世界ライト級王者デジャン・ズラティカニン(モンテネグロ)対元2階級制覇王者マイキー・ガルシア(アメリカ)

2月11日 開催地未定

4階級制覇王者エイドリアン・ブローナー(アメリカ)対エイドリアン・グラナドス(アメリカ) ノンタイトル戦

3月4日 開催地未定

WBA世界ウェルター級王者キース・サーマン(アメリカ)対WBC同級王者ダニー・ガルシア(アメリカ)

前述通り、今年後半はボクシング中継から遠ざかっていたShowtime。新年に向けて一気に放送カードをリリースすることで大きなインパクトを生み出そうと試みたのだろう。

その他、同局が独占放送契約を結ぶIBF世界ヘビー級王者アンソニー・ジョシュア(イギリス)には、来春に元統一王者ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)、その後にWBA同級暫定王者ルイス・オルティス(キューバ)と対戦するプランもある。これらがすべて実現すれば、Showtimeは来年度中にも、2016年に経費削減を余儀なくされた宿敵HBOの牙城を再び脅かす可能性もある。

このようにShowtimeのボクシング中継の前途は洋々に見えるが、ただ、1つ留意しておきたいことがある。

今後に行われるShowtimeの興行に登場する選手のほとんどはアル・ヘイモン傘下であり、カード自体がプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)と提携という形になっている。そのため、一部では“しばらく不安論が囁かれてきたPBCはまだ安泰“という風に伝えられた。これに関しては、実は必ずしもそうとは言い切れないのだ。

Showtimeのボクシング中継はPBCではない

結論を先に言うと、ヘイモン傘下のいわゆる”PBCファイター”が出ていようと、Showtimeで放送されるボクシング番組は正式にはPBCではない。Showtimeの番組では同局が従来通りにプロモーターに放映権料を払い、“Showtime Championship Boxing”の枠内で放送する。ヘイモンが自前のマネーで興行を打ち、多くのチャンネルで放送される“タイムバイ”のPBCシリーズ、そのコンセプトとは別物なのだ。

最近ではヘイモン傘下の多くの選手がPBCシリーズで調整試合に近いファイトを行い、より予算の大きなShowtimeでビッグファイトを行う流れが生まれつつある。

これはこれで悪いことではないようにも思える。PBC開始直後から、Showtimeの幹部は同局にこのような恩恵(=他局で知名度を上げた選手たちが自身のところに戻ってくる)がもたらされることを半ば予言していた。

その一方で、地上波を含む多くのチャンネルで日常的に最高レベルのボクシングを流し、ファン層の裾野を広げるというヘイモンとPBCの当初の目的は果たされているとは言えない。

コストがかかる多くのカードは、結局は視聴者が別料金を支払わなければいけないプレミアチャンネル(=Showtime、HBOなど。1番組に課金されるPPVはまた別物)で放送されている。2013年3月から始まったPBCの新体制が機能する代わりに、ビジネス形態がほとんど元に戻ってしまったとも受け取れる。

”業界の謎”の近未来は?

Showtimeが一連の日程をリリースした直後の10月29日、PBCも2017年の興行予定を発表した。今後もFOX、NBC、CBS、ESPN、スパイクTVなど多くのチャンネルでシリーズは放送されていくという。資金難から早期打ち切りの噂も流れた中で、シリーズの継続は一部のファンを安堵させた。

しかし、2016年も大々的にスケジュールを発表しながら、多くの日程を消化できなかったことを忘れるべきではない。今回も日程発表はされたが、具体的な対戦カードは1つも正式リリースされなかった。

新年早々1月13日に開催されるスパイクTVのメインイベントは、エリスランディ・ララ(キューバ)対ユーリ・フォアマン(ベラルーシ)というお世辞にも魅力的と言えない組み合わせになると報道されている。

こんなカードを繰り返していたら、特に地上波チャンネルが放送を長期的に継続するとはやはり思えない。そして、一度打ち切られてしまったら、多くの放送局はしばらくボクシングに戻ってはこないだろう。

ヘイモンとPBCは多くの有力選手、プロスペクトを抱えており、思うようなペースで試合をこなせないことへの不満は一部の選手からちらほら飛び出している。そして、もしも遠くない将来にシリーズ終了などという事態になったら・・・・・・?

それでもヘイモンは主力選手のアドバイザー(=事実上のマネージャー)を続けるだろうが、すべての傘下選手を満足させるだけのテレビ枠が足りなくなることは確実。そんな背景から、2017年にPBCとヘイモン、そしてShowtimeがどんな方向に進んでいくかは改めて気になるところではある。

ジリ貧が危惧されながらも、今後もPBCブランドではやや格の落ちる(=低予算)カードを続けていくのか。

12月10日にジョン・モリナ(アメリカ)をトップランクのHBO興行(対テレンス・クロフォード(アメリカ))に貸し出すように、より柔軟な姿勢を打ち出していくか。

それとも少なくともNBC、FOX、CBS といった地上波のカードくらいには当初のように大きな予算を注ぎ込むか。

PBCを中継する地上波チャンネルの中で、FOXは2月25日に2017年の第1回を放送すると伝えられている。前述通り、この日程が守られるかは定かではないが、スケジュール通りならば対戦カードもそろそろ発表されるだろう。ここでのマッチメークから、PBCの方向性もうっすらと見えてくるかもしれない。

依然としてヘイモンの意向とシリーズの実態がはっきりとは見えないから、余計に興味は注がれる。その行方はボクシングビジネスの今後を少なからず変えかねない。それだけに、業界最大のミステリーからもうしばらく目が離せないのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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