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注目の一戦で昨季王者に大敗、そして内紛の不安も?ニューヨーク・ニックスの今後を占う

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

12月7日 マディソン・スクウェア・ガーデン

クリーブランド・キャバリアーズ(15勝5敗) 

126-94 

ニューヨーク・ニックス(12勝10敗)

大試合ムードはあっさり霧散

盛り上がるのは試合開始までーーー。どんなスポーツでもあることだが、この日の試合はまさに“期待外れのビッグゲーム”となってしまった。

12月6日まで4連勝で、直近の12戦中9勝。過去4シーズンでは自己最高の勝率をマークし、特に今季は地元では9勝3敗と強いニックスは、リーグ全体でも徐々に話題のチームとなりつつあった。

このままいけば、ハイレベルとは言えないイースタン・カンファレンスの台風の目になるかもしれない。その上昇チームが昨季王者と対戦した7日のゲームは、ESPNで全米生中継、殿堂MSGで開催とあって、多くの有名ライターが取材に訪れるビッグイベントの空気に包まれたのだった。

しかし・・・・・・残念ながら、ファンも楽しみにしていたはずのゲームはワンサイドになってしまう。第1クォーターからキャブズが20-4のランで、この12分終了時点で34-17と大量リード。続く第2クォーター残り4分でニックスも8点差まで追い上げたが、以降の約3分間でレブロン・ジェームスが6得点を挙げ、リードをあっさりと15点に戻してみせる。ここで勝負はほぼ決まり、後半はほとんどまともなゲームにならなかった。

「(前戦の)トロントでの試合と今日は走り回りながらコミュニケーションを取ることができた。プレーメイキングをしながら、互いをカバーすることもできていた」

試合後、満足そうにそう語ったレブロン(25得点、7アシスト、6リバウンド)は最終クォーターはプレーする必要すらなかった。

カイリー・アービングも28得点、ケビン・ラブも21得点で援護。キャブズ自慢の“ビッグ3” がすべて20得点以上をマークしたのは今季6度目のことだった。

「全米中継のゲームで大敗するのは恥ずかしいよ。どんな状況でも、その前に何連勝していても同じこと。誰だって恥はかきたくない」

良いところがなかった一戦を終え、ブランドン・ジェニングスはロッカールームで憮然とした表情だった。

エースのカーメロ・アンソニー(24分間で8得点のみ)はペリミターでレブロンに抑え込まれ、クリスタプス・ポルジンギスもディフェンスに苦しんだ上でのファウルトラブルと、ショット不調を継続。チームとしての総合力でも、原型コアで3年目を迎えたキャブズと今のニックスでは雲泥の差があった。

日程的に不利で同情の余地はある

もっとも、そうは言っても、ニックスはこの日の惨敗を深刻に捉えすぎるべきではない。今回は悪い条件が重なりすぎたがゆえ、昨季王者相手に、厳しいゲームになることは事前から予想できていた。

ニックスにとって4日間で3戦目。しかも6日はマイアミでヒート戦をプレーし、深夜のフライトでニューヨークに戻った。ポルジンギスが自宅に帰ったのはAM3時を過ぎた頃だったという。そんな話を聞けば、ヒート戦で36分をプレーし、35得点を挙げて勝利の立役者となった32歳のカーメロが、キャブズ戦では息切れを感じさせたのは理解できる。

一方、5日にトロントでのラプターズ戦を終えたキャブズは、火曜日にはニューヨーク入り。その日は休養に当て、余裕を持ってニックス戦に臨んできた。

日程の厳しいアメリカンスポーツでは、レギュラーシーズンのプレー内容、結果は少なからずスケジュールに左右されがち。もともと実力上位のキャブズを相手に、最近のニックスの躍進を可能にしたハッスルプレーが影を潜めてしまえば、勝負にはならない。この日はキャブズはファーストブレイクで23得点、ニックスは8得点という数字は象徴的にも思えた。

また、直近の5試合で平均19得点、FG成功率50.7%と好調だったデリック・ローズが腰痛で欠場したのも痛恨だった。相手の注意を惹きつけてくれるローズの存在は、カーメロ、ポルジンギスに好影響をもたらす。そのプレーメーカーがいなくなり、ジェニングスをスタメン登用することで、ベンチの層まで薄くなった。

「引きずってはいけない。遠征で良い結果を出す機会がある。この試合のことは忘れるべきだよ」

カーメロのそんな言葉は強がりではなかったろう。もともとイースタンでは頭一つ抜きん出たキャブズ相手の大敗は仕方ない。それよりも、今のニックスの真価は、12月9日から始まる西海岸での5連戦(対キングス、レイカーズ、サンズ、ウォリアーズ、ナゲッツ)の中で測られるに違いない。

不必要な内紛の火種が・・・・・・

この大事な遠征を前に、キャブズ戦の結果、軽症と目されるローズの状態以上に気になるのは、このチームにとってはお家芸の厄介な内紛の兆候が見えることだ。火種となったのは、フィル・ジャクソン球団社長が6日にCBSスポーツ局に出演した際に残した余計なコメントである。

「ボールをパスせずに2秒以上持つと相手ディフェンスを助けてしまう。私たちはルールを決めているが、カーメロはより長い時間ボールを保持しがちだ。3、4、5秒と持って、みんなが動きを止めてしまう傾向にある」

そんなコメントが真実だとしても、チーム内で解決するのではなく、あえて公に自軍のスーパースターを批判する意味はどこにあるのか。

“禅マスター”が得意とするマインドゲームか。あるいはレブロンの仲間を“Posses(取り巻き/差別的な意味もある)”と呼び、後に誤りを認めた先月の一件同様、不必要な軽率発言だったのか。

「(ジャクソンが)何を言ったのかすら知らない。だから話したくないよ。僕はチームメートと勝つことに集中する。フィルがなんと言おうと、どうでもいい」

キャブズ戦後、ジャクソンの言葉について訊かれ、普段は温厚なカーメロは顔色を変えて質問を打ち切ろうとした。そんな態度、発言を見れば、カーメロがジャクソンの批判を知っていること、気に入らないことは明らかだった。

昨季王者には歯が立たなかった後でも、今のニックスが良い方向に進んでいることは間違いない。ディフェンス面で課題はあれど、ポルジンギスの多才さは紛れもなく本物。ローズはニューヨークを気に入り、カーメロはリーダーシップを発揮している。ジェニングスが控えに入った際には、ベンチメンバーも意外なケミストリーを奏でている。そんなチームに、余計な不協和音は必要ない。

開幕戦でも29点差で敗れたキャブズに、地元でも再び惨敗。その後のロッカールームは様々な意味で重苦しいムードだった。ここで躓きを経験した後、ニックスがどんな方向に進んでいくかに興味は注がれる。西海岸での5戦を終えてニューヨークに戻る頃には、今のチームの立ち位置、今後の展望が、かなりはっきりと見えてきていることだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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