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三浦隆司、内山高志が戦うSフェザー級に新スター誕生か メイウェザー傘下のデービスがKOでIBF王者に

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

1月14日 ブルックリン バークレイズ・センター

IBF世界スーパーライト級タイトルマッチ

挑戦者

ゲルボンタ・デービス(アメリカ/22歳/17勝(16KO))

7ラウンドTKO(2:36)

王者

ホゼ・ペドラザ(プエルトリコ/27歳/22勝(12KO)1敗)

10128人の観衆を騒然とさせたノックアウト劇

スター誕生を予感させるパフォーマンスーーー。22歳の新鋭のKO劇をブルックリンで目撃したファンは、誰もがその明るい近未来に想いを馳せたことだろう。

アマ通算206勝15敗、全米ゴールデングローブのフェザー級を制覇し、プロでもデヴュー以来16連勝。そんな戦績を振り返るまでもなく、戦いぶりを一目でも見ればデービスが稀有な才能に恵まれていることは明白だ。

懸念されたのは強豪との対戦機会に乏しかったこと。目立つのは2015年10月に峠を遥かに超えた元IBF世界王者クリストバル・クルス(メキシコ)を3ラウンドTKOで下した星くらい。キャリアのこの時点では、派手さはなくとも底力を備えたペドラサへの挑戦はリスキーだと見る関係者は少なくなかった。

しかし、経験不足への不安はまったくの杞憂に終わる。序盤からスピードとパワーを誇示したデービスは、サウスポースタイルからの強打で最初の3ラウンドを連取。第4、5ラウンドには手数を増やしたペドラサのパンチを被弾したが、その後にあっさり主導権を取り戻した姿は逞しさを感じさせた。最後は7ラウンド、強烈な右フックで3度目の防衛を狙ったプエルトリカンをなぎ倒して見せた。

「最初のベルトを勝ち取れて素晴らしい気分だ。ハードワークのおかげ。凄いパフォーマンス、上手いボクシングができたことに大きな意味がある。世界最高のボクサーであるフロイド・メイウェザーの後押しが受けられたことにも感謝している」

試合後にそう語ったデービスに対し、リングサイドで見守ったプロモーターのメイウェザーも“次のスターは彼だ”と太鼓判を押した。

豆タンク型の体型からか、ニックネームは“タンク”。筋肉質の体形ながら動きは非常に滑らかで、ジャブ、左右アッパー、フックをスムーズに繰り出して行く。スーパーフェザー級ではパワーも並外れており、この階級にとどまる限り、今後もトップレベル相手でも破壊的なKOを生み出せるだろう。

謙虚さを保ったまま前に進めるか

心配なのは、少なくとも現時点では精神的にやや未成熟さを感じさせるところだ。もちろんまだ22歳なら配慮が足りないのは当然ではあるが、試合前のビッグマウスに眉をひそめていたメディアも存在した。ペドラサ戦の前には、師匠的な存在のはずのメイウェザーとも必ずしも一枚岩ではないという噂も聴こえてきた。

ペドラサ戦後、デービスとブローナーが交歓するする姿も見られた。
ペドラサ戦後、デービスとブローナーが交歓するする姿も見られた。

メリーランド州ボルチモアの物騒な地域で生まれ、ドラッグ漬けの両親の元で育ったというデービスのハードな生い立ちはすでに語られてきた。

今回の鮮烈なタイトル奪取で、今後は露出が一気に増えるのは必然。早くから“メイウェザーの後継者”と注目されながら、リング内外で徐々に輝きを失っていったエイドリアン・ブローナー(アメリカ)のようになりはしないかという小さな懸念も頭を過る。

一方で、希望が持てるのは、デービスはしっかりしたチームに支えられているようにも見えたことだ。マネージメントを担当するスタッフの一人は、“同じく貧困の中にいる子供たちを助けたい”というデービスの希望を明かしてくれた。チーム・デービスは、いずれ日本にも行って、少年たちのためのボクシングイベントを開催したいといったプランも温めているのだという。

群雄割拠の階級の新たな目玉

もともと稀有な才能を持つサウスポーが、陣営に助けられ、謙虚な姿勢を保ち続ければ将来は間違いなく有望だ。

WBO王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、WBC王者フランシスコ・バルガス(メキシコ)、WBAスーパー王者ジェスレル・コラレス(パナマ)、WBA正規王者ジェイソン・ソーサ(アメリカ)といった実力派のタイトルホルダーが揃う階級に、また新たな役者が台頭した。デービスを他の王者たち、あるいはオルランド・サリド(メキシコ)、テビン・ファーマー(アメリカ)、三浦隆司、内山高志といったコンテンダーの誰にぶつけても面白いカードになる。

「焦るつもりはないよ。ロマチェンコ戦は考えていない。ロマチェンコはトップランク所属だし、彼は彼のことをやれば良い。(デービスは)自身の仕事をやるべき。僕も彼のために必要なことをやり、能力を最大限に発揮させるつもりだ」

メイウェザーはそう語り、スター性抜群の新王者にじっくりとキャリアを積ませる意向を語っていた。

メイウェザー・プロモーションズは意外に献身的であり、トッププロスペクトではなかったバドゥ・ジャック(スウェーデン)を辛抱強くスーパーミドル級の頂点近くに押し上げた実績もある。マネージメント・チーム、メイウェザー、アドバイザーのアル・ヘイモンが手に手をとって、この楽しみな新星をスターダムに導けるか。そして、デービス本人は今後どんなボクサーに育っていくのか。

総合的に見て、クロスオーバーのスターになるポテンシャルは十分。1月14日の鮮烈なノックアウトは、デービスの輝かしいキャリアの最初のハイライトとして記憶されていく可能性も十分にありそうである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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