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当落線上にいる選手選考が一番の関心事では、W杯は期待できない

杉山茂樹スポーツライター

W杯を2か月後に控えたいま、当落線上にいる選手だけを集めて合宿をすることに、どれほど意味があるのか。それは、代表チームのいまに求められている最善の強化方法なのか。

ザックジャパンは4月7日から9日まで3日間、国内で強化合宿を行った。とはいえ、その中に海外組と、監督の構想の中にすでに入っているとおぼしき従来メンバーは含まれていなかった。それはB代表同然の集団で行われた合宿だった。

残された枠、4、5人を決めるために開かれた合宿とも言い表せるが、サッカーは個人競技ではないのだ。マラソンの選手選考とは違う。だが、代表レース争いは、訴求力のある言葉だ。誰が入って誰が落ちるかは、何事にも通じる関心事だ。つい目を奪われやすい話題だが、サッカーのW杯はA代表のチーム力を競う大会だ。本番を2か月に控えたこの時期、当落線上にいる選手の選考が一番の関心事になる姿は、サッカーのコンセプト、W杯に臨む代表チームのあるべき姿から逸脱している。そうした報道に振り回されると、サッカーの本質を見失う恐れがある。

最終局面にもかかわらず、試合が組めないザックジャパンの悲しい現実を踏まえれば、暢気そのものと言いたくなる。

国内で行われる試合は残りわずか1。弱小キプロスとの試合(5月27日・埼玉)のみだ。ブラジルに向かう途中、アメリカのタンパで、コスタリカ、ザンビアと練習試合を行うことになったが、そのスパーリングマッチを含めても、ラスト半年の試合数はわずか4。これは8〜10試合戦ってきた過去4大会に比べると、半分以下の量にしかならない。

今回の合宿がA代表の強化と言うなら、ザッケローニは、国内にいる従来メンバー(今野、遠藤、西川、森重、伊野波、山口、柿谷など)も招集すべきだったのだ。そして、それなりの相手と、観客を入れた中で試合を行うべきだった。できる限り一つのチームとして行動し、連携に磨きを掛ける。これがいまのザックジャパンに求められている姿だ。「生き残りを懸けた争い」は、その中に含まれる、あくまでも副題でなければならない。

今回招集した人数は23人。すなわち、落選者はその中から少なくとも20人近く出る。8割が落選する合宿は「生き残りを懸けたサバイバル合宿」というより「新人を発掘するための合宿」と言った方が正しい。

しかし、いまはその時期では全くない。

関心を引くための話題作り。試合はないけれど、強化には怠りがないことをアピールする、いわばアリバイ作りにしか見えないのだ。

ザッケローニは今回の狙いについてこう述べた。

「情報量が少ない選手を、手元に置いて見てみたかった」

ザッケローニが日本に来て4年近く経過するが、にもかかわらず、情報量の少ない選手がいる。この事実に、僕は何より驚かされる。だとすれば、その間、Jリーグをキチンと視察していなかったという話になる。

代表監督にとって情報量の少ない選手など、存在してはならないのだ。それは自らのフックワークが重いことを公言したようなものだ。

「手元に置いて見てみたかった」も問題ありだ。これは、これまで彼が、再三口にしてきたお決まりの台詞でもあるが、過密な世界のサッカーカレンダーに照らせば、禁句だ。少なくとも欧州で、代表監督がこの台詞を吐けば、選手の所属クラブから「見てみたいだけで選ぶな」「使う気がなければ選ぶな」と、反発を浴びることは必至。

「手元に置かずに見る」。これこそが現代の代表監督に求められているスタイルであり能力だ。手元に置いて見るのはクラブの監督の仕事。代表監督に求められているのは、セレクターとしてのセンスと能力に他ならない。

試合を視察し、お眼鏡にかなった選手がいれば、代表チームのどのポジションで起用すればフィットするか、想像力を働かせ、瞬時に判断する。その結果、イメージが鮮明になれば招集する。鮮明にならなければ招集しない。現代の代表監督には、こうした瞬時の判断力が求められている。

ザッケローニに、セレクターとしてのセンスと能力があれば、メンバー固定化の弊害が叫ばれることはなかったと言える。Jリーグをもっとよく視察し、新戦力に目を凝らしていれば、いまさら「手元に置いて見てみたい選手」は存在していないはずなのだ。

ザッケローニは、代表監督のオーソリティでは全くない。代表監督を務めた経験の乏しさを、ここに来て露わにしている。少なくとも、選手のレベルより、断然高いレベルにある監督には見えない。

そもそも彼は、23人のメンバーを上手に使い切ることが不得手だ。GKを除くフィールドプレイヤー20人を、試合の流れや、対戦相手に応じてフレキシブルに起用する姿は想像できない。弱者に不可欠な、強者をアッといわせるようなドラスティックな選手交代も期待できない。

固定化したスタメンを重視する従来のやり方では3試合が限界だ。まさに強者との対戦になる4試合目、5試合目に息切れする可能性は高い。今回の合宿に参加した当落線上にいる選手たちが、本当の意味で戦力にならないと、番狂わせは起こせない。それこそが今回の合宿が残念に思える一番の理由だ。

従来の国内組メンバーをなぜ呼ばなかったのか。彼らと一緒にプレイをさせ、連携を確かめようとしなかったのか。もっといえば、手元に置いて見るべきは、闘莉王、大久保、中村憲、前田など、ベテランの実力派ではなかったのか。

ザックジャパン最後の国内合宿は、疑問だらけ。僕には本当に上を狙おうとする気持ちが、残念ながら伝わってこなかったのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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