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惨敗にもかかわらず、協会の要職に昇格した原博実元技術委員長の不思議

杉山茂樹スポーツライター

宮本恒靖技術委員長。この記事が出るタイミングには恐れ入った。日本がコロンビアに大敗し、グループリーグ最下位が決まった直後も直後。まさに頃合いを見計らったかのようなタイミングだ。

原博実氏から宮本恒靖氏へ。この記事が正しいとすれば、この交代はなぜこのタイミングなのか。ザッケローニを招聘したのは原博実氏。4年前、新監督探しは彼を中心に行われた。ザックジャパンを誕生させた人物として、彼はそのグループリーグ最下位という結果に、真っ先に追及されるべき身の上にある。しかし、原博実氏はその頃合いを見計らうように、タイミングよく技術委員長の座から消えた。

とはいえ、サッカー協会内部にはしっかり残っている。中枢として、だ。

専務理事。これは会長、副会長に次ぐ要職。高いポストだ。就任は昨年の12月。以来、原さんは技術委員長と2つの役を兼務していた。こうした状況に備え、上手い逃げ道を作っておいた。いまとなっては、そう言われても仕方がない。

原さんには誠実でクリーンなイメージがあった。親しみやすい性格であると同時に、おかしなことにはおかしいと言い切る「普通」の感覚も持ち合わせていた。

好感度の高い人物として知られていた原さんと、技術委員長の座からタイミングよく消え、一方で専務理事の座にしっかり納まる原さんとは、別人のようである。この巧みな配置換えを裏で操っている人物がいることは間違いないが、原さんのクリーンなイメージがすっかり失われてしまったことは事実だ。

その昔、僕は原さんに「原さんみたいな人が、サッカー協会の会長になれば、日本のサッカーは変わると思います」と、述べたことがあるが、いまそれを撤回しなくてはならない。こういうことをやっている限り、日本のサッカーは強くならない。

新技術委員長に就任すると言われる宮本恒靖氏も、また好感度の高い人物だ。原さんのような庶民性はないが、原さん同様クリーンで、原さん以上に知的なイメージがある。メディアの追及をかわすにはうってつけの人物。協会のイメージアップに貢献しそうな人物だと言える。

だが、彼は、アギーレ氏が濃厚だと言われる新監督探しには携わっていない。携わったのは、前任者の原さんだ。4年後、今回のように結果が残せなくても、宮本氏は安泰。少なくとも彼に、任命責任はない。責任の所在は曖昧になる。原さんに至っては、そうこうしている間に、協会のさらなる上のポストに就いている可能性さえ考えられる。

なぜ、宮本氏が技術委員長なのか。かなり唐突だ。鹿島アントラーズで長年強化部長を務めてきた鈴木満氏に打診したものの、断られたから。ネットのニュースには、そう書かれていたが、宮本恒靖氏は鈴木氏と同等の人物、あるいは対比できる人物ではない。裏方の経験もなければ、現場で指導に携わった経験もない。

オーストリアのザルツブルグでおよそ2年プレイした経験はある。FIFA大学(マスター)に入学し、無事卒業したキャリアもある。だが、まだ37歳だ。「37歳の手腕に日本代表を託す」というニュース記事を見ると、思わず、明るい未来が待っていそうな気になるが、今回の結果で思い知ったように、世界は果てしなく広いのだ。その中で、日本のあるべき道を探るには、技術委員長のポストには、それ相当の世界観を持った人物が就く必要がある。

宮本氏は、今回のW杯ではFIFAの仕事に携わっていると聞くが、世界のサッカーについて本当に詳しいとは思えない。その点に関しては、自分の足で稼いで回った前任者、原さんの方が上だと思われる。

強化委員長の職に、選手時代、有名だったかどうかは全く関係ない。むしろ、現役時代、活躍が派手でなかった人の方が適しているとは僕の感想だが、代表監督と同じくらい重要なこのポストを、何の議論もないまま、説明もないまま、密室で決めてしまうことは、あまりにも愚かだ。

そして、なぜ、いまそんなニュースが流れるのか。そんなに焦るのか。急ぐのか。追及されたくないから。一番の理由はそれだろう。4年間、よかれと思ってやってきたことが、本番で全否定されたわけだ。10回同じ組み合わせでグループリーグを戦っても、日本が2位以内に入る確率は、おそらく2割程度しかない。よほど運に恵まれない限り、グループリーグ落ち。こうした現実を突きつけられたにもかかわらず、自らの保身を図ろうとする原さん、それを陰で支えているとおぼしき大仁会長。

少なくとも僕は、両名は辞任せよ! と迫っているわけではない。とにかくまず、反省、検証をしっかりしてくださいと言いたいのだ。なぜこのような結果になってしまったのか。どこに原因があったのか。サッカー協会は、協会に登録するあらゆるジャンル(女子サッカーからフットサルまで)の選手全員から登録料を徴収している。それを財源に活動する他にはない特別な団体であることを踏まえると、登録料という税金のようなものを支払っている人たちに、その幹部たちは逐一、詳らかに事情を説明する義務がある。

それを協会は、毎度避けようとしている。今回使おうとしている手は、かなり狡いはずなのに、メディアもまた食い下がろうとしない。「アギーレ」という協会側が、待ち構えるように差し出した餌に、いても立ってもいられない様子で、「ごちそうさま」と、食いついてしまう。いま「アギーレ」「アギーレ」と騒いでいるメディアは、原さんや、大仁会長に、籠絡されてしまった人たちと見なしていい。

こういう話をすると、日本人の中には決まってこのような人が現れる。「終わったことをいつまでもぐちぐちと言っていても仕方ない」。だが、その考え方は、他のものにはあてはまっても、サッカーにはあてはまらない。

だいいち、W杯はまだ終わっていないのだ。これからようやく、準々決勝を迎えようとしている段階だ。そこで行われている試合の中身をまずじっくり見る。世界のトップはどんなサッカーをしているのか、とくと目を凝らす。それなしに、再建はあり得ない。

日本サッカー協会の正式なスタッフで、本大会をいましっかりカバーしている人はれほどいるだろうか。適切なレポートを、協会の内部に送っている人は、どれほどいるだろうか。

無に等しいといっても言い過ぎではない。日本サッカー協会の問題はそこにある。外国のサッカーを、どん欲に学ぼうとする姿勢が低いのだ。

これでは、アギーレならアギーレに、口を挟むことも、意見をすることもままならなくなる。サッカーの話が対等にできなくなる。ザッケローニにそうしたように、4年間、強化を丸投げすることになる。技術委員長も、脇で傍観しているお飾りになり兼ねない。

ちょっと考えれば、おかしな話が平気でまかり取ろうとしている。好ましくない4年間が始まろうとしている。いまここで「ちょっと待った!」と立ち止まり、チェックを入れないと、いくら優秀な監督を招いてもダメ。

惨敗の根本的な問題は日本側にあり。僕はそう確信している。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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