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貧弱なセンターバックこそ日本代表の根本的問題である

杉山茂樹スポーツライター

強いチーム、良いサッカーをするチームは、チームの頭脳、司令の発信源が低い位置にある。ポジションで言えば、CBと守備的MF。このあたりの選手が、試合運びのイニシアチブを握っている。

試合運びのリズムを決める決定機関と言ってもいい。間髪入れずにいくか、一呼吸置くか。右にいくか、左にいくか。長いボールを入れるか、繋いでいくか。「後ろの声は神の声」とは、GKの指示の重要性を示すサッカーの格言だが、ピッチ全体の眺めは、後ろにいる選手の方が見えやすい状況にある。そうした優位性を持つ後方の選手が、リーダーとして機能しているチームは、成熟した大人びたチームに見える。安心感、安定感を抱かせる。

彼らのちょっとしたボール操作で、状況は一変する。チームはグッと落ち着く。日本でも2002年から2006年にかけては、森岡隆三、宮本恒靖などがそうした役割を果たしていた。2010年には闘莉王がいた。かつての井原正巳、柱谷哲二も、少なくとも存在感だけは備えていた。

ザックジャパンには、こうした選手がいなかった。

ブラジルW杯第1戦の対コートジボワール戦には、CBとして吉田麻也と森重真人が先発した。吉田が長くスタメンを飾っていたのに対し、森重は大会直前になって急浮上した。それまでのスタメンで出ていた今野泰幸が調子を落としていたからだと言われるが、身長の問題もあったと思う。今野の身長は178センチ(公称)ということだが、実際にはもう少し小さく見える。対する森重は183センチ。ザッケローニはその高さを買ったという見方もできる。

今野には、全体のリズムを整えるちょっとしたボール操作能力がある。今野の本職は守備的MF。ベテランで経験もある。彼を最終ラインで起用したザッケローニのアイデアは、悪くないものに見えた。だが最後に来て、今野はそのポジションを森重に譲った。少なくとも、中心選手ではなくなっていた。

しかし、吉田、森重のコンビは、コートジボワール戦1試合だけで終了した。フィード力を期待して起用されたと言われているが、この両者は言ってみれば専守防衛型の選手だ。悪く言えば守るだけ。全体の流れを見て、リズムを決定していくような抑揚のあるプレイができる選手ではない。

そしてそれは、日本の大型CBほぼすべてに共通する傾向だ。ゲームメーカー的なセンスを持った選手はあまりいない。栗原勇蔵、岩政大樹。ザッケローニに呼ばれたことがあるこの2人も、昔風に言うところのストッパーそのものだった。リベロ風な、少しばかり洒落の利いたボール操作はできなかった。

ギリシャ戦では、森重に代わり、今野がスタメンに復帰した。だが、今野がそこで、彼らしさ、ベテランらしさを発揮したというわけではなかった。中心選手の風格は感じられなくなっていた。

それは、1、2戦に守備的MFとして先発を飾った山口蛍にもあてはまった。そつなくこなすことはある程度できていたが、チームの核にはなれていなかった。操縦桿を握るという意味を持つボランチ本来の存在感は出せなかった。ボールが彼を経由しても、流れが変わる、あるいは整うということはなかった。

その役をこなしていたのは本田圭佑だった。1トップ下の位置からピッチの中央付近まで下がり、ボールさばきの起点になっていた。

したがって、ボールはなかなか前に進まなかった。「後ろの声は神の声」に従えば、本田より後方で構える選手のほうが、全体図は見えていたはず。だが、見えているはずの選手に、試合の流れを操作する力は与えられていなかった。後方に人がだぶつき、前方には人数不足を招くことにもなった。

後方の選手がイニシアチブを取れないサッカー。ザックジャパンは、こうした傾向が強いチームだった。良いサッカーができなかった理由と大きな関係がある。

そうなってしまった理由は、ザッケローニの指導力も大きく関係するが、日本人のストッパータイプの大型選手に、ゲームを仕切るリベロ的なセンスが概して欠けていることも大きな原因だ。

闘莉王的な選手が見あたらないのだ。ザッケローニは、にもかかわらず、闘莉王を代表チームに招集しなかった。「良い選手だとは認識している」と、言うに留まった。

デカいのに気が利いている選手。乱暴に言えばそうなるが、気が利いているかいないかという問題以前に、大きくてしっかり守れる選手が少ないのだ。日本人のディフェンダーは、180センチを超えてくると、フットワークに難が目立つようになる。身長が高い選手ほど、ドタドタとした巧緻性の低い動きになる。それはどの国の選手でも言えることだが、外国の選手と比較すると日本人は、5センチ、いや10センチ近く、低い身長で鈍化する。

CF不足、GK不足に陥っている原因とも、それは大きな関係があるが、相手に攻め込まれる回数が多いW杯本大会のような場に出ると、センターバック系の選手の貧弱さは、とりわけ浮き彫りになる。

近い将来には解決不可能な、日本が抱える根本的な問題だ。これとどう向き合うか。

身長のハンディに目を瞑(つむ)る。身長の高い選手を無理に使わずに、フットワーク、ボールの操作能力、フィード能力、リーダーシップ、戦術眼等、その他の要素を重視することもひとつの手だ。今野をCBで起用したザッケローニのアイデアも、それと同じ価値観に基づくものだと思う。

昨年、U−17W杯に、日本チームを率いて臨んだ吉武博文監督は、前の試合に右ウイングで出場した選手をCBで起用するという大胆な方法をとった。守備的MFでプレイした選手をCBで起用することもあった。

「守備の不安はあるかもしれないが、この試合ではフィード能力を重視した。もちろん、試合に勝つために考えた選択です」とは吉武監督の弁だが、このような割り切りは、日本の現状にマッチしていると思う。

かつてバルサのコーチをしていたバケーロに「バルサはなんでセンターバックを補強しないのか?」と尋ねれば、彼はこう答えた。「中盤の選手を下げれば良いだけの話。センターバックらしいセンターバックは、ウチのサッカーには向いていないんだ」と。

ザックジャパンの平均身長は、ブラジルW杯に出場した32か国中30番目だった。日本は低身長国。だったらどうする――という考え方は不可欠になる。

ちなみに最下位はチリ。そして31番目はメキシコだった。日本同様の悩みを抱えてきたメキシコ人監督、アギーレがこの問題とどう向き合うか。見どころのひとつだと僕は考えている。

(集英社・Sportiva Web 8月26日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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