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ベスト11、MVP。Jリーグアウォーズで表彰された各賞について抱いた違和感

杉山茂樹スポーツライター

先のJリーグアウォーズで発表された今季のベスト11。その投票権を持っているのは実際にプレイしている選手だ。選手が選手を選ぶ。選手による互選というスタイルは、Jリーグ発足当時から行われてきた慣例だ。イングランドのやり方に目を付けた当時の川淵チェアマンが、Jリーグに導入したわけだが、僕はかねがね、それをメディアが大きく報じる姿に違和感を覚えてきた。一人のライターとして。

選手の互選によるベスト11。それはそれで面白いアイディアだと思う。戦いを通しての実感なので、公平性も保たれている。だが、それはあくまでもピッチレベルの目線だ。今季の年間ベスト11と言われるものは、それのみしか存在しない。監督にも投票権が与えられていて、最終的には、選考委員会の承認を得て決まるというチェック機能もあるとはいえ、スタンド目線は不在だ。まず僕はそこに不満を覚える。それが、数あるベスト11の中のひとつとして存在するなら何も問題ない。

さらに言えば、これはJリーグという興行主が自ら発表する、いわゆる主催者発表だ。なぜメディアは、それを鵜呑みにしようとするのか。己の目を信じ、自らベスト11を選定しようとしないのか。

選手の互選と、記者投票と、重みがあるのは本来どちらかと言えば、後者だと思う。記者投票も、発表の仕方次第では、世間からそれなりの関心を集めることができるはずだ。

Jリーグアウォーズは、受賞者にタキシードを着せ、プレゼンターに有名人を招き、適当な数のファンを招き、それなりの舞台で、盛大なイベントとして開催される。その華やかな空間で発表されるベスト11は、その演出効果によって、ステイタスを高めている。

それをメディアは指をくわえて傍観している。プロ野球の各賞のように、取材者である自らの見解を反映させようとしないのか。選定に加われず、排除された状態にあるにもかかわらず、そこに問題意識を持てず、主催者発表をそのまま報じている。情けない。評論精神に欠ける体質を、表したものと言っていい。付け加えれば、外国では慣例になっている試合後の「採点」を、日本の大手のメディアが避けている理由もそれに通底する。

プロ野球には様々な数値化されたデータがある。評価の絶対的なバックボーンとして存在する。それがサッカーにはない。選手の善し悪しは一人ひとりの主観に委ねられる。ベスト11は十人十色。11人中8人は同じでも、3人は違う。そんな感じだと思う。

プロ野球のベスト9やゴールデングラブ賞より、遙かに多角的な視点が求められている。にもかかわらず、日本のサッカー界は、ピッチレベルの目という限られた視点に委ねている。

新聞社協会選定のベスト11があってもいい。雑誌協会選定のベスト11、Jリーグ登録ライター選定ベスト11、さらには、英国のワールドサッカー誌選定のベスト11のように、メディア単体が選定したベスト11があってもいい。

サッカーは映画に似ている。善し悪しが主観に委ねられるという意味において一致している。そして映画には、様々な賞がある。日本でいえば、日本アカデミー賞のステイタスが、最も高いと言われるが、ブルーリボン賞、キネマ旬報ベスト10、日刊スポーツ映画大賞等々、各賞はその他にも、優に10以上存在する。監督賞、主演男優賞等の各賞が、その全てにおいて一致していることはない。

俳優の演技の善し悪しを比較することは、出演した映画も違うので簡単にはいかない。サッカーも同様、試合毎で状況は異なる。繰り返しになるが、野球のようなデータもない。決めにくいものをあえて決めようとしているわけだ。

そこに面白みがある。僕はそう思う。その結果、巷にはいろんな意見が飛び交うことになる。喧々囂々の議論の源になっている。それによってサッカー人気は支えられている。少なくとも世界のサッカーは。

日本は議論を避け、長いものに巻かれようとする。ベスト11の顔ぶれを見れば一目瞭然。日本代表選手がずらりと並ぶ。例外は宇佐美ぐらいだろう。これは今年に限った話ではない。選手も選手で、時の代表監督の意見に従おうとしている。メディアが選んでも似たような結果になるだろう。だからこそ、複数のベスト11が欲しいのだ。今回、遠藤に決まったMVPの場合は、特にそれが言える。

バロンドール(世界年間最優秀選手賞)は、FIFA加盟国すべての代表監督と主将に加え、投票権を持つ記者の投票によって決まる。重みがある理由はそこにある。

かつてバロンドールは、欧州年間最優秀選手賞を意味していたが、それは、フランスのサッカー専門誌「フランスフットボール」の主催で行われていた。投票権を持つ人物も、欧州の記者に限られていた。もともとは、ジャーナリスティックな視点で始まった賞なのだ。Jリーグアウォーズで発表されるMVPには、その視点が欠落している。そこのところは、十分に知っておく必要がある。一介のライターとして訴えておくべき点になる。

一人のサッカーファンとして、それ以上に知りたいのは今季のベストマッチ(Most Impression Match)だ。娯楽性、試合のレベルが高かった最も印象に残る試合。僕がチェアマンなら、その試合に関わった両チームを表彰したい。映画で言うところの最優秀映画賞だ。

良いサッカーを見せる。良い試合をする。ともすると欠落しがちなこの精神を忘れているチームはいま多く目立つ。それぞれのチームの人気は、成績に比例するが、いわゆる「Jリーグ人気」はそうではない。良質な試合をどれほど披露できたかで決まる。綺麗事ではあるが、その追求を怠ると対戦チーム以外のファンは関心を抱けない。総合的な人気は上がらない。プロスポーツとしての基本を再確認させる意味でもベストマッチ賞は設けたい(試合の映像を、映画と同じように後々、販売しても面白い)。

ちなみに、僕が選ぶ今季のベストマッチは「鹿島対ガンバ大阪」(2対3・10月5日@鹿島)。終了直前、ガンバ大阪がリンスのゴールで逆転勝ちした、台風迫る中で行われた激戦だ。今季のJリーグは、この試合なしには語れない。カギを握る試合だった。僕はそう思うのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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