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シリア戦でも目についた、ハリルジャパン「4つの欠陥」

杉山茂樹スポーツライター

「危機管理は協会として常にできている」。

1年ほど前、原博実サッカー協会専務理事に話を聞いた時、彼はそう言って胸を張った。代表監督の采配が怪しくなった時。代表チームの強化が思わしく進まない時。「危機」がそうした意味だとすれば、「管理」は監督交代を意味することになる。

そこで問われるのが、危機かどうかを判断する目だ。それを誤ればこの言葉は何の意味も持たない。実質を伴わない、お題目そのものになる。

現代表チームに答えが出るのは2018年6月。ロシアW杯で決勝トーナメント進出が目標なら、危機か否かの判断は、その可能性をどれほど感じるかになる。

危ない。可能性は低い。シリアに3−0で勝利を収めても、その思いに変化はない。むしろ、確信に近づいている。僕が原さんなら、今ごろ新監督探しに躍起になっているだろう。

シリア戦。試合のレベルは恐ろしく低かった。W杯アジア2次予選に相応しい試合。日本はそこに埋没するような戦いをした。そう言いたくなる理由、ハリルジャパンの病状について述べてみたい。

1 両サイドバックの基本ポジションの低さ

現代サッカーでは、サイドバックが活躍した方が試合を優位に進めることができると言われる。そのためには、彼らがどれほど高い位置を維持することができるかがポイントになるが、長友佑都(左)、酒井高徳(右)の基本ポジションはかなり低かった。攻撃参加の回数も何度かに一度。しかも、それぞれの前で構える原口元気(左)、本田圭佑(右)と絡む機会がほとんどない単調な単独攻撃ばかり。古さを感じずにはいられなかった。

駒野友一(左)、加地亮(右)時代に逆戻りしたかのような印象だ。非進歩的なサッカーの象徴と言っていい。相手がウイングに好選手を配した強豪ならやむを得ない気もするが、シリア相手にあの低さでは、先が思いやられる。

2 両センターバックの間隔の狭さ

サイドバックのポジションとともに大きな違和感を抱く点は、マイボール時における両センターバックの狭い間隔だ。槙野智章と吉田麻也の間隔は、たとえば欧州のそれなりのレベルに達したクラブのセンターバックのそれと比較して、半分程度に過ぎない。ではなぜセンターバックは時代とともに間隔を広げるようになったのか。

一つは両サイドバックを押し上げるためだ。両センターバックの間隔が離れれば離れるほど、必然的に両サイドバックの位置は高くなる。これも、サイドバックが活躍した方が試合を優位に進めることができる、との考えに基づいている。

アギーレジャパン時代は、それができていた。両センターバックが間隔を広く保ち、守備的MF(アジアカップで言えば長谷部誠)が、その間まで下がることで、両者間を3バックのようなスタイルで埋めていた。その結果、両サイドバックは高い位置を維持することができた。

守備的MFの1人が下がり、両サイドバックが高い位置を維持する4バック。これこそが、世界の一般的な姿になるが、ハリルジャパンの姿はそれとは程遠い。選手が監督の指示に耳を傾けず、勝手に動いているからというわけではない。シリア戦に限った話ではない。これまでの試合すべてそうだ。監督から指示が出ていないのだ。

長谷部が下がれば、最終ラインでのパス交換は楽になる。さらにその3人と、もう1人の守備的MF(山口蛍)と両サイドバックとの間に、複数の三角形(パスコース)が描けるので、ボールの回りはいっそう円滑になる。

PKで先制した後半10分まで、日本は最終ラインからビルドアップが全くできていなかった。両センターバックが、相手の2トップにプレッシャーを浴びやすい状況になっていた。

それが苦戦の大きな要因になっていたが、パスが得意なはずの日本が、格下相手にパスをつなげず苦戦するという姿は、ハリルジャパンのもはや定番になっている。

3 サイドチェンジがない

ボールが大きく散らないことも、サッカーの見映えが悪い原因だ。前戦、アフガニスタン戦では珍しくボールはよく散っていた。これまでとは異なる姿を見せた。シリア戦はどうなのか。注目点の一つだったが、すっかり元の姿に戻っていた。

散らし役になるとすれば長谷部、山口だが、彼らからピッチの逆サイドに向けた対角線キックは、全く披露されなかった。ボールは相手のいないところではなく、相手のいるところばかりに送られていた。すなわち非効率的なサッカーに陥っていた。

4 幅の狭いサッカー

もっとも、サイドチェンジを行ないたくても、受け手がいなければどうにもならない。4−2−3−1の3の両サイドが真ん中に入ってしまえば、送り手にそのつもりがあってもサイドチェンジは不可能。

本田圭佑と原口元気。真ん中に入る傾向が圧倒的に高かったのは本田だ。その本田は試合後、こう述べたそうだ。

「ハーフタイムに監督から、真ん中に入ってプレーしろと言われた」と。

もしそれが本当だとすれば、それこそが「危機」だと思う。

本田が真ん中に入る頻度が増すと、日本の右サイドは酒井高徳ただ1人になった。そこは相手のシリアにとって狙い目になっていた。事なきを得たのは、シリアの攻撃にそこを突くだけの力がなかったから。W杯アジア2次予選でしか通じない作戦だ。W杯本大会では絶対に通じない考え方であることは、ブラジルW杯のコートジボワール戦で得た教訓ではなかったのか。左の香川が真ん中に入ってしまったためにできたスペースを、相手の右サイドバックに突かれたことで、日本は同点弾、逆転弾を許したのだ。こんな重大なことをわずか1年で忘れるとは、おめでたいにも程がある。

本田はこうもコメントしたという。

「外に張っても、僕みたいな選手は何もできないで終わることがある」と。

本田はいま、ブラジルW杯時の香川になろうとしている。危ない。

サッカーにはマイボール時と相手ボール時の2つの局面がある。相手ボール時に、本田が真ん中にいれば、あるレベルに達したチームは確実に、日本の右サイドを狙ってくる。左サイドバックに活躍を許すことになるわけだ。

サイドバックが活躍した方が試合を優位に進めることができるーーという常識に照らせば、本田のポジショニングは致命的エラーになる可能性が高い。

本大会でベスト16を狙う日本が考えるべきは、相手ボール時の対応だ。弱者が強者を倒すアイデアだ。ハリルホジッチは知っているのだと思う。これが本大会では通じない作戦であることを。

つまり、この場をなんとか誤魔化そうとしている。原さんの目にも、そのあたりのことは見えているはずなのだが。見て見ぬふりをしていると、予選を辛くも通過しても、本番で酷い目に遭う。

ハリルジャパンが今のままなら、先行きは相当に暗い。僕は「危機」だと読んでいる。

(集英社・Web Sportiva 10月10日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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