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CB、GK、本田圭佑…。UAE戦の日本は「ピッチ上の問題」が噴出

杉山茂樹スポーツライター

浅野拓磨のシュートが入ったか入らなかったか。入っていれば2-2。しかし、真っ先に目を向けるべき点はそこではない。内容の悪さだ。予選は始まったばかり。残りは9試合もある。挽回できるチャンスはいくらでもあるが、内容に目をこらせば、今後に向けた不安材料が溢れんばかりに存在する。

来年3月に行なわれるアウェー戦の勝利、引き分け、負けを予想せよと言われれば、負け。よくても引き分けが妥当。大苦戦必至を思わせる内容だった。

といっても、新たな問題点が浮き彫りになったわけではない。これまでにも見られた傾向ばかりだ。浅野のシュートが認められていればと言うが、1-2になってからも、UAEには惜しいシーンが目立った。ボールを奪ってからの速い攻めだ。日本の守備隊形がすっかり崩れた中を、UAEは巧みな個人技を生かしながら幾度となく前進。日本を大いに慌てさせた。最後は、決まればオッケー的な楽観的なプレーに走ってくれたので事なきを得たが、同点の状況ならば、より果敢かつ貪欲に攻め立てただろう。

相手がもうワンランク上のチームなら、ボコボコにされていたに違いない。2014年ブラジルW杯、対コロンビア戦のように。日本が引きずる傾向は、監督が変わってもまるで同じ。奪われ方。奪われる場所とそのタイミングに日本は大きな問題を抱えている。

癖。サッカーに対する誤解と言ってもいい。日本代表監督にその点を正す人が就かない限り日本のサッカーはよくならないとは、何年にもわたり指摘している点だが、現時点でハリルホジッチに、そこのところを改善しようとする姿勢はない。

とはいえ、選手も選手だ。自分たちのおかしさに、いい加減気づけないものか。サッカーの本場、欧州でプレーしているベテランはとりわけ、だ。4-2-3-1の3の右である本田圭佑は、どういう理由で、あれほど内に入ってしまうのか。内に入るほど攻撃の幅は狭くなる。右サイドバック(酒井宏樹)と絡む機会も減る。本田と香川真司(1トップ下)、岡崎慎司(1トップ)が、真ん中の狭いエリアで、同じ線上に重なり合うシーンも頻繁だった。

後半、大島僚太が右サイドに展開しようと長めのキックを蹴ろうとした瞬間があった。流れから見て、それは至極、真っ当な選択だったが、右の高い場所にいるべき選手は、その時、ド真ん中に構えていた。新人の大島は、そこで向きを変え、真ん中を選択したのだが、その2つほど先で攻撃はストップ。相手にボールを奪われることになった。

パスコースがろくになく、相手も守りを固める真ん中を繰り返し進む姿は、あまりにも強引。非頭脳的プレーと言わざるを得ない。

真ん中は、奪われる場所として最悪なのだ。奪われた瞬間、逆モーションになる。裏を突かれる恰好になるので、気がついた時には、相手に数メーター置いていかれる状態になる。同じ位置で奪われるなら、サイドの方が距離にして20~30mほど安全だ。

繰り返すが、例のコロンビア戦はその連続だった。だがその試合後、主将の長谷部誠はこう言って胸を張った。

「我々が目指していた攻撃的なサッカーは、最後までできたと思う」

攻撃的サッカーに対する解釈の誤りは、2年経った今なお、代表チーム内に生き続けている。

本田と酒井宏が、右サイドをコンビネーションで突破するシーンはほとんどなし。右からの攻撃はほぼ酒井宏のクロスボールのみ。単純。工夫がないにもほどがある。

凋落の一途を辿る名門クラブ、ミランでいい扱いを受けていない本田。その焦りというか、日本のファンにいいところを見せたい欲も絡んでいるのだろうが、30歳を超えた選手のすることではない。

ハリルホジッチは試合後、パス回しの遅さを嘆いた。ピッチを広く使わなければ、展開はきかなくなる。パスは素早く回らない。少なくとも、相手に速く回っているようには映らないのだ。

逆転を許したPKのシーンで足を出してしまったのは、この日が代表デビュー戦の大島。「ゴール前30mでは絶対にファウルをするな」と、試合前、ハリルホジッチは口酸っぱく注意したそうだが、新人は相手の頭脳的なプレーにまんまと誘われてしまった。

だが、逆転シーンに至る過程の中でそれ以上に見逃せないプレーは、この日代表キャップ100を数えた長谷部のミスパスだった。難しい局面でのミスなら話は別だが、この時は、違った。予想し得ないお粗末な失態だった。

「なぜこの選手を選んでしまったのか。自分自身を疑問に思うことがあった。でも、それ以上の選手がいないんだ」と、ハリルホジッチは試合後、述べている。この長谷部のミスなどは、監督を自虐的にさせた一番のシーンに違いない。つい同情したくなるが、「選手がいない」というコメントには、さすがにひと言いいたくなる。テストする機会は散々あったはず。なぜ、PKを献上した大島の代表デビュー戦を、この重大な一戦に充てたのか。理解に苦しむ。

そのPKシーン。大島以外の選手もUAEの11番、アハメド・ハリルの術中にはまっていた。PK狙いのキープに入った彼に対し、ディフェンダーがカッとなったように3人も行ってしまったのだ。冷静さゼロ。相手の罠にはまり、パニックに陥る姿は、無様そのものだった。

最終ラインの2人(吉田麻也、森重真人)は、とりわけ欺されやすいタイプに見える。その不安定さは、ビルドアップの歯切れの悪いモサッとした球出しにも、端的に反映されていた。だが、彼らを超える選手は、日本にそう多くいない。

ポジション的にはここが日本の一番の弱点になる。フィールドプレーヤーに関しては。

しかし、日本最大の弱点はやはりGKだ。前半20分の同点シーン。右上隅に飛んだアハメド・ハリルのシュートは、確かに切れ味鋭い鮮やかなキックだった。しかし、ユーロ2016で20数試合を取材してきたこちらの目には、その瞬間、GKがセーブし、弾き出す絵がオーバーラップした。欧州のトップレベルのGKなら、おそらく止めることができていた。西川周作の指先を抜けていく弾道を見ながら、そう思わざるを得なかった。

GKの活躍に救われる試合の割合が低い国。高身長国出身のハリルホジッチには、この低身長国の現実が、さぞ歯がゆく映っているに違いない。

様々な問題を噴出させた日本。試合後、田嶋幸三サッカー協会会長自ら、判定について抗議を辞さない構えであることを強調した。だが絶対に覆らない問題にエネルギーを注ぐあまり、改善可能なピッチ上の問題に目を背けると、この1敗は2敗目への呼び水になるような気がして仕方がない。

まだまだ足もとをすくわれそうな気配の日本。危うい気がする。

(初出 集英社Web Sportiva 9月2日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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