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長谷部誠と本田圭佑。タイ戦で ハッキリ見えた日本の「修正ポイント」

杉山茂樹スポーツライター

1-0で迎えた後半26分、タイの10番、ティーラシル・ダンダのシュートをGK西川周作がファインセーブで止めていなければ、まさかの大事件に発展していたかもしれない。ひと言でいえば、西川に救われた試合。よいか悪いかを問えば、悪い試合だったにもかかわらず、監督の機嫌は悪くなかった。

タイでの試合後の記者会見では、若手に機会を与えたいとか、競争させたいとか、チーム内に競争原理が働いていることも力説したハリルホジッチ。

だが、こちらにはそれが説得力のある言葉に聞こえてこなかった。

競争原理が働いている場所は限られている。長谷部誠とコンビを組むもう1人の守備的MFと、4-2-3-1の3の左。この日のタイ戦ではCFも岡崎慎司ではなく浅野拓磨が起用されたが、せいぜいその程度だ。

何より、競争原理を発生させる場所がズレている。そっちより先にこっちだと言いたくなる場所がある。ここにきてそれは鮮明になった。守備的MFなら競わせるべき対象は大島僚太と山口蛍ではなく、その隣で構える不動のスタメンでキャプテンの長谷部誠のほうだ。

清武弘嗣、宇佐美貴史、原口元気が競い合う恰好になっている4-2-3-1の3の左も然り。見直すべきはそこではない。それ以上に、4-2-3-1の3の真ん中と右のほうが問題に見える。不動のスタメンである香川真司と本田圭佑こそ、メスを入れるべき箇所になる。

UAE戦後の原稿でも触れたが、とりわけ本田は困った状態にある。ポジションをフリーに移動し、王様のように振る舞う姿こそが、攻撃を滞らせる一番の原因だ。マイボールに転じるや、真ん中に入り込むと攻撃のルートはグッと狭まる。そして展開を経ずに、真ん中周辺にボールが流れていくと、その瞬間、期待値は半減。そこのところは相手もガッチリ守りを固めているので、崩し切ることはほぼ不可能だ。ほぼ行き止まりの状態にあるので、得点の可能性は限りなく低下する。

弊害はまだまだあるが、それはともかく、惜しいシーンは作れる。この日のタイのように、相手のレベルが落ちれば、シュートにも何とか持っていくことができる。だが、ゴリ押しなのでゴールの枠を正確に捉えることは難しい。決定力の問題ではない。ゴールが決まらない原因は、何より攻めるルートのまずさにある。

タイ戦の前日の記者会見で、UAE戦の戦いに触れたハリルホジッチは、「25本シュートを放ち、13回惜しいシーンを作った。16m以内のシュートも17本放っている。統計上、どの国にも劣らないビッグチャンスを作り出していた」と胸を張った。だが、タイ戦後の記者会見では一転、決定的機会を再三逃した理由について問われるや「集中力の欠如」を口にした。

拙攻の理由を自覚している様子ではない。野球で言うところの、チャンスで1本が出ず残塁の山を築く理由、非効率的サッカーに陥る理由が、見えていないのだ。

そこに本田のポジショニングが深く関与していることは明白。加えて見逃せないのが、彼の体力的な衰えだ。強引なプレーに及んでも、かつてならなんとか解決する力があった。身体の力、一瞬の切れ、そしてパンチの効いたシュート力で、相手をねじ伏せることができた。

それを遂行する力はもはやない。かつてと同様なプレーを試みるも、途中でやり遂げられずに終わる姿に、全盛期との違いが端的に見て取れる。90分を戦う持久力にも衰えが目立つ。後半なかばを過ぎると、動きは途端に鈍くなる。

現在30歳、ロシアW杯本大会時には32歳になっているベテランだ。有能なベテランならば、それを頭脳的なプレーで解消しようとするものだが、本田の場合、目立つのはその真逆のプレーだ。

競わせるべきもう1人の対象者である長谷部は、技術的に苦しくなっている。その昔、長谷部を中盤で起用する理由について質問を受けた時の代表監督、岡田サンはこう言ったものだ。「候補選手の中で、狭い局面でのボール扱いが一番巧いから」だ、と。それから10年は経っていないと思われるが、いま岡田サンが監督なら、同じ長谷部評を述べるだろうか。

タイ戦でも前戦UAE戦に続き、何本かミスパスをしている。それが、PKによる逆転ゴールに繋がったUAE戦のような最悪な事態には陥らなかったが、日本の流れにブレーキを踏んだことは確かだった。

長谷部は32歳。ロシアW杯本大会時には34歳になっている。高齢によるパフォーマンスの低下を補ってあまりある何かがあるのなら、存在する理由は生まれるが、キャプテンシーという抽象的な能力しか魅力が見つからないのであれば、交代の時期にきていると見る。スタメンを張り続けるキャプテンにミスが多ければ、チームに真のまとまりは生まれない。これが繰り返されれば、チームのムードはどんどん悪くなる。

長谷部と本田。2人は日本代表の象徴として活躍してきた大物だ。メディア的にも何かを言い出しにくい相手になる。大島僚太を簡単に戦犯扱いすることはできる。鹿島の監督とのトラブルで代表から外されることになったとされる金崎夢生も然り。こう言っては何だが、小物はわりと簡単に叩くことができる。叩く側のリスクは低い。

リスクが大きいのは大物だ。本田と長谷部とメディアの関係に、権力者を叩けない政治関係の世界を垣間見る気もするが、そのあたりにしがらみのないはずの代表監督まで、彼らを特別扱いするならば、代表を取り巻く社会は不健全な方向に進む。

本田もミランの元監督シニシャ・ミハイロビッチに楯を突いたことがあったはずだが、その本田はオッケーで金崎はノーとするのは、いかがなものだろうか。

長谷部と本田が、アンタッチャブルな特別な存在になっているとすれば、この長い予選、危うさはいっそう膨らむ。いびつなヒエラルキーが構築されたアンフェアな空気は膨らむばかりだと思う。

苦戦続きのハリルジャパン。危うい箇所、手直しするべきポイントは、思いのほか明確に見えている。まず、競争原理を働かせるべきは、この2人なのである。

(初出 集英社 Web Sportiva 9月7日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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