Yahoo!ニュース

注目はサウジ戦「本田圭佑の処遇」。 大迫勇也だけで悪い流れは断てない

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

オマーン戦の前半、2ゴールを奪った大迫勇也は、後半16分、交代の一番手としてピッチを退いた。1年半ぶりに招集された選手が一転、4日後に迫ったサウジアラビア戦に向け、最も温存しておきたい選手に昇格したことが判明した瞬間だった。

ブンデスリーガの開幕戦、ダルムシュタット戦こそ交代出場だったが、以降の9試合ではすべてスタメン。所属の1FCケルンも現在、首位バイエルンに6ポイント差のリーグ6位と、大迫は好調なチームの中で欠かせぬ存在として活躍中だ。欧州組の中で、コンスタントに出場している数少ない選手でもある。オマーン戦ではその勢いがストレートに発揮された。

頭で奪った1点目(前半32分)もさることながら、その真髄が見て取れたのは、トラップから切り返し、ゴール左に流し込んだ2点目(前半42分)だ。他のライバル(岡崎慎司、浅野拓磨)にはない冷静でスキルフルなゴール。戦力としての貴重さが明るみに出たプレーだった。

とはいえ特段、驚くべきゴールではなかった。本来の力と、スタメンを確保している所属チームでの姿、そしてもちろんオマーンが相手であることを勘案すれば、予想された結果と言えた。

少なくとも、だ。もう1カ月早く(イラク戦、オーストラリア戦の前に)呼んでおくべき選手だった。しかし、ハリルホジッチが語った当時の大迫評は「我々のグループに入って来つつあるレベル」。ハリルホジッチは、出場機会を得られない従来の欧州組の現状を嘆きながらも、彼らをスタメンで起用し続けた。

画像

選手の精神的なノリ。サッカーにおいてその高低は、とりわけ重要な問題になる。精神的なノリが高ければ100の力が100以上発揮される可能性があるが、低ければ100は出ない。せいぜい70、80止まり。試合に出ているか否かは、そうした意味で重要になる。試合勘のない選手が中心を占めるチームに、大きな期待は寄せられない。サッカーはそういうスポーツだ。

「本田に勝る選手はいるだろうか」と、言い続けてきたハリルホジッチ。本田圭佑が従来通りの力を100発揮しているなら、その理屈には納得せざるを得ないが、70、80程度にとどまるならとうてい承服できない。

せいぜい70、80という状態が、何試合も続く本田。例えば、2010年、2011年当時とは100の値そのものも変化している。当時の100は現在の70、80。そうした中での70%、80%なので、全盛期に比較すれば50、60になる。地力も試合勘も低下してしまったかに見える選手を、中心選手だと言って重用し続ければ、チームは沈滞ムードに陥る。プラスアルファの力は見込めなくなる。日本代表に勢いが生まれない最大の原因と言える。

ハリルホジッチはこのオマーン戦にも本田を先発で起用した。12試合を消化したセリエAで、その出場時間はわずか81分。精神的なノリ、試合勘に思い切り欠ける選手の惨状は、この試合でも浮き彫りになってしまった。

自信がない自分自身を安心させたいのか、本田はチームにとって必要なプレイより、自分が好むプレーばかりに走った。100の力がそのまま発揮されれば、その王様的な振る舞いはギリギリ許されるが、70、80、いや50、60では、大きなお荷物になる。FW的な魅力はほぼゼロ。4-2-3-1の3の右に求められる、右サイドでの決定的なプレーはほぼゼロに近かった。

真ん中に入り込み、時には逆(左)サイドにまで出ていって小ワザに走ろうとするが、かつてのキレ、粘り、そして試合勘がないので、攻撃は混乱するばかり。リズム、テンポそして左右のバランスを大きく乱すことにもつながった。

結局、日本の右からの有効な攻撃もほぼゼロに終わった。右サイドをシンプルに縦に抜ける選手がいれば、日本の攻撃はどれほど活性化するか。想像するのはたやすかった。

ハリルホジッチはその本田を後半16分、ベンチに引っ込めた。試合後の会見ではこう述べている。「中に、試合のリズムについていけない選手がいた」と試合を総括した後、本田の件に触れて、「試合勘、プレーにリズムがなかった。経験のある選手だが、サウジ戦に向けて、いま一番よいパフォーマンスにあるのは誰なのか、探っていかなければならない」と、つい1カ月前とは大きく異なるニュアンスの答えを返してきた。

大迫への評価ともども、遅すぎる反応と言える。それでもサウジ戦でなお、本田を起用したとなれば、大迫が発揮しそうなプラスアルファの力を相殺する恐れは高い。結果にかかわらず、流れは好転しない。そう見るべきだろう。

清武弘嗣もセビージャでここのところ出場が滞っている選手だ。そうした状況下でこの日2アシスト、(PKながら)1ゴールをマークしたが、僕の目には最低限の活躍にしか見えなかった。「信頼していい選手だということが分かった」と、ハリルホジッチは試合後、まずまずの評価を下した。だが、彼は別の問いかけに対して試合をコントロールできなかったことについて不満を漏らしている。

相手のオマーンは、5バックの態勢で引いて構えてきた。前に人数が少ないために、日本は緩いプレス環境の中でプレーすることができていた。にもかかわらず、ゲームをコントロールできなかった。4得点こそ奪ったが、上手に試合を運ぶことができなかった。守備的MFで出場した山口蛍、永木亮太の力量とも関係する問題だが、清武の流れに応じた展開能力の乏しさにも原因の一端があると見る。瞬間的には輝くが、トータル的にはいまひとつ。セビージャで清武から先発の座を奪ったナスリとの差を見た気もする。

清武とポジションを争う香川真司にも似た傾向がある。遠藤保仁の後を継ぐ、視野の広い展開力に優れたMFが見当たらないことも、パスがうまく回らなくなってしまった大きな理由だ。

ならば、特定の誰かに頼るのではなく、チームとしてその力を磨くべきだ。監督が指導力を発揮すべきポイントになるが、ハリルホジッチにはそのあたりの方法論がない様子。具体的な言葉を聞いたためしがない。バックラインの背後に可能性の低いパスを安易に蹴り込むシーンは、この試合でも幾度となく露見。娯楽度という点でも日本代表は急降下中だ。この日のカシマスタジアムに空席が目立った理由だと思う。

この悪い流れは、大迫の出現だけでは変わらない。サウジ戦の結果いかんにかかわらず、日本代表には大きな手術が不可欠。日本につける薬として、ハリルホジッチが適当な監督だとは思えないのである。

(初出:集英社Web Sportiva11月12日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事