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模範的サッカー。川崎を下した鹿島に好印象を抱いた理由

杉山茂樹スポーツライター

チャンピオンシップ準決勝で、川崎フロンターレを1−0で下し、決勝進出を決めた鹿島アントラーズ。それは好印象を抱かせた上での価値ある勝利だった。

何と言っても見た目が奇麗だった。

パスワーク自慢の川崎の方が、奇麗さという点で勝るような印象を受ける。一般的な評価は、ともすると逆だ。しかし川崎のサッカーは、これまでも述べてきたが、進むべき方向性に難がある。いるべき場所、使った方がいい場所や方向に人がいない。局面の戦いにこだわるあまり、展開の鮮やかさという点に物足りなさが残るのだ。フォーメーションは大抵、崩れた状態にある。したがって、そのパスワークにはどこか無理を感じる。円滑に進まない。バランスよく整っていないのだ。

鹿島は整っていた。スタンドから俯瞰すれば一目瞭然。パスコースは鹿島の方が多くあるように見える。いるべき場所、使った方がいい場所や方向に人がいる。崩れがちな川崎の4−2−3−1より、鹿島の中盤フラット型4−4−2の方が、全体としてバランスよく整っていた。ともすると地味ながら、骨組みがしっかりしているように見えるので、安定感を抱かせるのだ。

日本ではあまりお目に掛かれないサッカーだ。ハリルジャパンのサッカーも川崎と似た傾向にある。言い方を変えれば、鹿島のサッカーは欧州的。集団的だ。鹿島と言えば、ブラジルとの交流を伝統的に大切にしてきたチーム。ある時期まで、布陣も欧州ではまず見かけないブラジル伝統の4−2−2−2を採用していた。

だが、石井正忠監督のサッカーに、もはやかつての匂いはない。悪い意味での臭みがない。それは川崎の方にむしろ垣間見られたが、ゲームの運び方は別。伝統の力が息づいていた。1−0リードで迎えた後半30分手前ぐらいだったと思うが、パスを受けた小笠原満男は、前に進まず、あえて斜め後ろにさりげなくボールを返した。

ベテランらしい時間を考えたプレーと言えばそれまでだが、この真似ができる日本人選手はあまりいない。ベテランでも、例えば川崎の中村憲剛には拝みにくい。彼は正直に真っ直ぐ前へ進みがちだ。

想起するのは、川崎が勝てば年間優勝が決まるJリーグの最終戦。川崎がガンバ大阪相手に2−0でリードしながら、2−3で逆転負けした一戦だが、そこで川崎は2−0でリードしてもなお、同じような調子で正直に攻め立てた。展開に余裕がない、局面にこだわった無理を感じさせるパスサッカーで。

川崎対鹿島の準決勝は、小笠原の貴重さを改めて痛感させられた試合だった。全体が整っているか、整っていないかという問題も大きなウエイトを占める上に、川崎には視野の広い大島僚太が怪我で離脱中という特殊事情も加わるので、中村憲剛と小笠原を単純に比較するわけにはいかない。しかしいま、世の中から持ち上げられることが多いのは中村憲剛であり、ハリルジャパンの50数人と言われる構想メンバーの中にも彼の名前は入っていると聞く。判官贔屓を承知であえていえば、いま日本のサッカーに必要なのは小笠原。中盤で方向性に狂いのない、安定したボール捌きができる冷静なMFだ。

鹿島のサッカーもしかり。日本に欠けている要素は鹿島の方に多く含まれる。とりわけ1点リードで終盤を迎えると途端に危なっかしくなるハリルジャパンのサッカーをこうも毎度、拝ませられ続けると、この日の鹿島がいっそう眩しく映るのだった。

前に行かず斜め後ろにパスをした例の小笠原のプレイ。鹿島の逃げ切り勝ちが確実になった瞬間と言えた。クレバーなのだ。相手にとって嫌らしい行為でもある。これが海外のスタジアムなら、「オーレ、オーレ」の雄叫びが、スタンドの観衆から湧くタイミングになる。ブラジル代表級を揃えた鹿島の全盛時がそうだった。鹿島に限らず当時、外国人枠を優秀な選手で埋めたチームは、そうした芸当を普通に披露していた。

優秀な外国人はJリーグから、年々減少。いまや、外国人枠を満たしているチームは数えるほど。だが、その一方で、日本人選手の力は右肩上がりを示した。代表のサッカーも気がつけば、パスが回る一見、洒落たサッカーに変化した。

横ばい、あるいは右肩下がりに向かいつつある現在だが、バックラインの背後ばかり狙うパスが繋がらないサッカーを見せられると、ファンはかなりイラッとする。

パスサッカーを自負している。が、その一方で、その代名詞と言うべき「オーレ、オーレ」の雄叫びが、スタンドに轟くことはない。ピッチを広く使ったパス回しを、相手をリードする状況でも、展開できなくなっている。

日本代表はもとより、Jリーグの試合が終盤になると必ずもつれ、ドタバタしながら終わる原因に他ならない。守備的な5バック気味のサッカーが数を増やしているというのに、だ。

そのお手本となるようなサッカーを鹿島はした。スーパーではないが、日本に足りないモノが凝縮された、一見に値する好チーム。決勝戦、対浦和戦が楽しみだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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