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スペインを決勝へ導いた120分間のマネジメント

杉山孝フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

「3度目の正直」も、実現させはしなかった。昨年のEURO2012での2度の対戦に続く、1年間で3度目となる公式戦での激突。スペインはまたもイタリアを退けた。世界中から寄せられる欧州王者への期待のままに、コンフェデレーションズカップ決勝進出をもぎ取った。

PK戦までもつれ込んだことからも分かるように、昨年の欧州選手権決勝の再現は接戦となった。120分間を終えた時点では、“スコアレスドロー”に終わっているのである。だが、7本目まで「延長」となったPK戦を制しながらの準決勝突破は、スペインのゲームマネジメントの結果でもあったはずだ。

前半から、スペインはイタリアの堅固な守備、そしてシンプルかつ鋭い攻撃に冷や汗をかかされた。ゴール前でスイッチを入れるアンドレス・イニエスタは、前方のチームメイト2人と一直線に並んだ瞬間にパスかドリブルで仕掛けるのだが、イタリアにそのラインを寸断された。逆に、ボールを失った瞬間に速い攻撃でサイドに展開されると、ボールと人のダイアゴナルな動きにゴールを脅かされる。ネットを揺らされていてもおかしくない場面が、3度はあった。

後半に入って試合は落ち着き始めるが、それでもスペインが盛り返したとは言いがたい。だが、ビセンテ・デル・ボスケ監督の打つ手が、少しずつ効力を発揮する。

イタリアが築いたバイタルエリアの壁を前に、変わらずショートパスを続けていたスペイン代表に、まずはヘスス・ナバスという槍が加わった。右サイドのドリブルは、投入早々にイタリアの3バックの脇をえぐっている。79分には、フアン・マタを投入。出し手かつ、受け手にもなれる選手が中距離のパスも引き出すようになる。スペイン代表のベクトルは少しずつ変わっていった。

最後の一手が、延長開始早々のハビ・マルティネスだった。90分間終了後に相当な疲労の様子を見せていたフェルナンド・トーレスに代え、0.5トップとでも言うような態勢で反撃に移る。中央を働き場所とするトーレスとは違い、マルティネスはサイドに流れ、ゴール前に幅をもたらした。

延長後半に入ってからのスペインのチャンスは、これら交代選手が絡んでのものだった。ゴール正面でマタがクリーンヒットしそこねた109分の左クロスだが、ファーサイドにはマルティネスが控えていた。その6分後、シャビがボックス手前ににじり寄ると、マタとマルティネスが左右に開いて相手の注意を引き付ける。ゴール前がぱっくり口を開くと、シャビシュートが強烈にクロスバーを叩いた。

延長終了間際の120分、イニエスタのヒールパスを受けたマルティネスが、左サイドからドリブルでピッチを横断。右サイドを駆け上がったナバスを走らせ、惜しいクロスにつなげている。さまざまなベクトルが絡み合い、最後までイタリアゴールを向いていた。スタンドからどちらのチームへともなく降り注ぐ、怒号のような絶叫の中、120分終了の笛は吹かれた。

選手を投じても攻撃の変化が乏しかったイタリアに対し、スペインは試合終了までのマネジメントをうまくこなした。さすがにPK戦勝利までの道のりをはじき出すのは難しいが、確かに流れはスペインにあった。ゼロトップも使うとはいえ、いきなりのマルティネスの前線投入には、世界王者の余裕とデル・ボスケ監督の勝負師の横顔がのぞく。だが、指揮官は「セットプレーも考えたから」と、PK戦の最中とは違うとぼけた表情で起用の意図を口にするだけだった。

おそらく多くのファンが期待したであろう、現在世界最高と言われる代表チームと、「王国」による決勝が実現する。デル・ボスケ監督にとっては赤道近くでの120分間の激闘終了直後から、相手より中1日少ない中での決戦へ向けて、新たな勝利への逆算のマネジメントが始まっている。

フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

1975年生まれ。新聞社で少年サッカーから高校ラグビー、決勝含む日韓W杯、中村俊輔の国外挑戦までと、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を約3年務め、同サイトの日本での人気確立・発展に尽力。現在はライター・編集者・翻訳家としてサッカーとスポーツ、その周辺を追い続ける。

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