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福島ユナイテッドが「J2昇格圏内」を目指す理由 栗原圭介監督インタビュー

杉山孝フリーランス・ライター/編集者/翻訳家
福島ユナイテッドは、栗原監督指揮の下、夢を追い続ける

福島ユナイテッドがJ3を戦うようになってから、指揮を執り続けている。栗原圭介監督は福島で3年目となる今季、「J2昇格圏内に入る」との目標を掲げた。

昇格のために必要なJ2ライセンスを、クラブは有していない。それでも、指揮官は高い目標を掲げた。

そこには、どのような「想い」があったのか。福島ユナイテッドのご厚意により、クラブ発行の「FUFC PRESS」での今季開幕前のインタビューを、ここにあらためて掲載する。

「トップ5に入っても…」を乗り越えるために

――まずは昨季をどうとらえているか教えてください。

「トップ5という目標を達成できなかったことは、非常に悔しいですね。達成できると考えたからこそ掲げたし、現に手が届きそうでした。だからこそ、余計に悔しさが募りましたね。一昨年は下位をさまよい続けた末の7位でしたが、去年は中位グループから最後に5位になれそうな7位でした。確実に成長しているし、力はついていることが見て取れました。良い試合内容も増えて手応えはあったのですが、届かなかったのには理由があると思います」

――どういった理由でしょうか。

「一つは、掲げたベスト5に到達しても、実際に何が起こるのか、ということです。残念ながら我々にはJ2ライセンスがありません。要件を満たす結果を残しても、J2に上がれないわけです。本当はいけないのですが、選手の中には『ベスト5になっても…』という考えが少なからずあったはずです。言い訳をしたくないので話すか迷いましたが、それが事実で、本当にベスト5に入るんだという気持ちでやっていたかは第一のポイントです。“懸ける思い”の有無や思いの強さの問題が、最後の最後にベスト5へ手が届かなかった理由の一つでしょう」

――実際のプレーの面ではいかがですか。

「もちろんプレーの質の問題もあります。自陣でボールを奪われて、そのまま失点する場面があれだけ多ければ、勝てるゲームもものにできません。『ダメだ』と思った時間帯に立て続けに失点してしまうこともありました。そこで我慢する勝負強さが、上位に比べて足りなかったと感じています。昨年は4-2-3-1や3-4-3と複数のシステムを使いましたが、併用により生じたズレが原因となり大量失点した試合もありました。リスクも理解しつつ私自身が決断したので後悔はありませんが、反省点にはなりました。そういう失敗を経験として積み重ねたことで、その後はシステムの使い分け方も確立されていったと思います」

昨季からのベースアップを

――3年目となる指揮を決めた理由は何ですか。

「2年連続7位でしたがクラブが高く評価してくれて、すぐにオファーをくれたとことが第一です。また、私の仕事を見て評価してくれた人たちを前に、このまま終わりたくないという想いがありました。結果を出して、一緒に仕事をしたいと言ってくれた人たちと喜びを分かち合いたいという想いが強くありました」

――メンバーは、J2クラブへの移籍や引退した選手を除く全員が残りました。全選手の成長を認めた表れでしょうか。

「まず移籍した選手について話しましょう。もちろん若手にはずっとうちでプレーしてほしいという気持ちはありますが、クラブ自体がJ2へ上がれない現状では個々が活躍してステップアップするのは素晴らしいことです。移籍した2人は迷っていましたが、上のカテゴリーからの誘いだし、チャレンジしたいならするべきだと、こちらで背中を押した部分もあります。福島に来たら成長できるし、引き抜かれる選手にもなれる、という評判はクラブの売りにもなります。そうすれば、また新たに良い選手も集まってくるでしょう」

――残った選手についてはいかがでしょうか。

「私がチームを預かってから3年目に入り、チームとしてやろうとしていることへの理解が深まり、質も高まっています。継続性を大事にしようと、クラブと話し合いました」

――そこに今年は変化を加えるのか、またはスケールアップしていくのか、どのようなプランをお持ちですか。

「その点を、オフの間ずっと考えていました。やることは基本的に変わらず、今までやってきたことをベースアップしていくことが第一です。実は、システムなどの形云々には、もうこだわっていません。少しシンプルにやっていこうかなと思っています」

期待する新たな台頭

――昨年のチーム内最多得点者で、裏への飛び出しがチームの型の一つにもなっていた齋藤恵太選手が移籍し、変更を求められる点もあるのではないでしょうか。

「去年もチームづくりを進める過程で恵太が頭角を現し、背後を狙うプレーが増えていったというのが実情です。だから、そのプレー自体にあまりこだわりはなく、選手個々の良さが出ればいいと考えています。恵太の移籍でメリットも生まれます。選手にとっては、1枠空いてチャンスが増えたわけです。タイプは違っても、誰かが得点を取ってくれるでしょうし、彼を上回る活躍をしてくれるかもしれない。誰が出てくるのか、楽しみにしています」

――去年も、ある意味「想定外」の成長をチームが見せていたということですか。

「最初は恵太も技術が低く、チームのやり方をあまり理解していませんでしたが、伝えることをすごく吸収していきました。パスを受ける前の準備、走り方を教えると非常に素直に聞いて、すごくボールの受け方がうまくなりました。だからこそスタメンで起用したし、ミスも多かったけれども成長していきました。単にスピードがあるだけでは起用しなかったし、J2から話が来た時にも『まだやめておけ』と言っていたでしょう」

――他の選手はいかがでしたか。

「こちらの考えを理解して成長している選手には、チャンスをあげたいですね。伝えたことを把握しながらプレーできたからこそ使われる、ということが分かるかどうかで、やはり差が出てきます。成長している選手は、確実にいます」

悩み、覚悟を固めたシーズン前

――監督としてのご自身の変化を感じる部分はありますか。

「1年目より2年目、2年目より今の方が、いろいろな失敗を含めて経験を積んでいます。試合でも練習でも、『こうなったら次はこうすればいい』と分かるし、経験が力になるというのは揺るがない事実だと感じています。開幕前の準備から自分の中に明確なアイディアがあり、本当に肝を据えつつしっかり進めている実感があります。オフ期間にヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島の練習を見に行きもしました。何かを真似するということではなく、外からの刺激というか、他の監督の練習を見て、自分自身を見つめ直したんです。何が良くて何が足りなかったか、整理することができたオフでした」

――監督にもシーズン中、実は不安があったのでしょうか。

「ブレずにやっていましたが、勝てなければ勝たせてあげたいし、ならば『勝てるサッカー』に変えた方がいいのかなど、いろいろ考えました。監督なら、誰もがそう考えると思いますよ。J1優勝監督の(広島の)森保(一)さんでさえ、1試合負けただけでどうしようかと考えると言っていましたし。カテゴリーも経験も関係なく毎試合が勝負だからこそ、監督は誰でも揺らぎそうになります。そこでどれだけ良い状態で仕事ができるか、が勝負です。だから覚悟を持って臨んでいきます」

――選手たちも準備はできていると感じますか。

「私が来た最初の年は、それまでと違うサッカーに必死に取り組んでくれました。去年は私のやり方を分かっているけれど、新しい選手も来て融合に時間がかかりました。選手が変わる影響の大きさを経験しましたね。今年は新加入が5人で、他の選手は全員このチームのやり方が分かっています。練習でも話したことに対してパン、と反応が返ってきます。いろいろなことがすごくスムーズに進んでいて、継続性が力になっていることを日々感じています。私と選手の考えるものが一致してきていて、ギャップが小さくなりました。非常にやりやすい環境ですね」

目指さなければ、物事は動かない

――だからこそ、再びベスト5へ、さらにJ2昇格圏内への挑戦となるのですね。

「J2昇格圏内というさらに高い目標を掲げたのは、昨年目標のベスト5に届かなかった要因が『思い』や『覚悟』だと思うからです。手に届くというか、一番分かりやすい目標は、去年達成していないベスト5でしょう。でも、もう1つ高く設定するのは、皆にそこを目指してほしいし、意識しなければJ2昇格という夢は叶わないと思うからです。J2ライセンスがないからと諦めるのではなく、やっている自分たちが意識し、目指さないと、物事は動きません。思わなかったら、あるいは思いがあっても行動しなければ実現することはありません。私自身、行動することでいろいろな夢を叶えてきて、人生が変わってきました。そして今、こうして監督をしています。まずは自信を持つことです。高い目標を掲げて笑われようが、関係ありません。人にどう思われようが、自分がなりたい姿を思い浮かべて、実現のために小さなことでいいから何かをする。先日、中学生への講演でも、この話をしました。そういう思いで動けば周りの人が感じてくれて、応援してやろうという雰囲気になるだろうし、結果を出せばさらに後押ししてくれるかもしれない。そう信じるからこそ、今年は選手にもそういう視点から話をして、より厳しい要求をしていきます」

――ファンもJ2ライセンス取得につながるスタジアム建設へ、署名集めなどに動いてきました。

「スタジアムができたら選手もファンの皆さんも楽しいはずです。体感してくれれば、本当に面白さを分かってもらえるし、できて良かったと感じてもらえるはずです。クラブ首脳陣の方々も、それぞれ他の仕事がありながら、ボランティアでクラブに携わってくれています。自分の利益ではなく、本当に福島など自分以外の誰かのためにと思って頑張ってくれています。だからこそ、そういう人たちのために何とかしたいと、頑張っています」

――だからこそ、勝利への意欲がさらに高まりますね。

「勝つことは必要だな、と感じます。さらに盛り上がり、皆さんが楽しい時間を過ごせるはずですから。そう信じてやっていきますし、J2昇格圏内を目指していきます」

フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

1975年生まれ。新聞社で少年サッカーから高校ラグビー、決勝含む日韓W杯、中村俊輔の国外挑戦までと、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を約3年務め、同サイトの日本での人気確立・発展に尽力。現在はライター・編集者・翻訳家としてサッカーとスポーツ、その周辺を追い続ける。

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