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「エイジョ」から学ぶ、日本企業の可能性

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
女性の自信と笑顔が働き方や企業を変える!(写真:アフロ)

今を時めく異業種女性営業活躍推進プロジェクトである「新世代エイジョカレッジ(略称エイジョ)」の2015年(第2期)の成果発表会を見せていただいた(注)。

このエイジョカレッジは、ダイバーシティや女性の活躍の推進が進んでいるといわれる、リクルートホールディングス、日産自動車、日本アイ・ビー・エム、キリン、三井住友銀行、KDDI、サントリーホールディングスの7社の営業部門で働くマネージャ2歩手前の女性、各社3~5名、計30名程度を対象に行う研修で、今年はその2期目に当たる。

営業本部・支社の企画部長や営業組織の長が各社1~2名程度アドバイザーになり、研修を行い、最終的には各社1名づつで計5名~7名構成される各グループが営業職の女性が活躍するための提言を各社の部長や執行役員レベルの審査員にプレゼンして終了するというものである。さらにその発表会後には、各社内での社内発表会も行われることになっている。

そして、参加各社は、発表された課題を検討し、翌年の施策に活かしていくというものである。昨年の最終発表会で優勝したチームの提案である「どこでもオフィス」は、「7社共同サテライトオフィスの活用により、移動時間を短縮させ、業務効率化、ひいては、顧客満足度向上を目指す」というものであったが、今夏その実証実験が実施されてきている。

筆者は、PHP総研の「新しい働き方」に関する研究プロジェクトに関わっている一環で、エイジョの1期生の何人かにヒアリングさせていただいた。そのような関係もあり、エイジョの活動自体にも直接接してみたいと考えていたところ、知り合いの縁で、今回の最終発表会に立ち会わせていただくことが実現したのだ。

今回の発表は、「Bridge Girls」(プレゼンタイトル:新時代の働き方をつくる!―英ママ活躍への挑戦―)、「HALA&ハーフ」(同上:営業職で女性が更に活躍するために)、「UU」(同上:営業女子が考える営業女性活躍―現場の視点から―)、「エイジョ白書」(同上:営業で管理職を目指す女性が増え、彼女たちが当たり前に活躍できる世界)、「E-girls」(同上:エイジョ的労働生産性向上プロジェクト)の5チームによって行われた。どのチームによるプレゼンも、営業の最前線で活躍する女性によるもので、元気と自信に溢れ、わかりやすく明快なものであった。これに対して、審査員からも、微に入り細に入りの鋭く、忌憚のないコメントや質問が飛んだ。もちろん、参加者はそんなことに怯むことなく、堂々と説明、反論をしていた。

その中で、優勝したのは、「E-girls」チーム。「エイママ(子育てママをしながら営業職である方)」と「エイジョ(営業女子)」を比較し、その仕事時間の長さや使い方がエイジョの働き方の問題の本質であることを指摘。その問題解決のために、時間意識をサポートするモバイルアプリケーションである「エイジョタイマー」の導入とエイジョの活動をコアにして拡大させ日本の営業職の学び成長する場となる「All Japan Sales Club」を提案。審査員からもサポーティブなコメントがほとんどで、筆者も、プレゼンを聞いて、キャッチーでしかも実現可能性が高いので、このチームが優勝と確信していたので、予想通りの結果だった。

優勝チーム「E-girls」
優勝チーム「E-girls」

今回の参加チームからの提案はいずれも、現状を示す豊富なデータや分析に基づいて、実効性の高いものが多く、いくつかの共通するようなアイデアもあった。その中で、筆者が特にまず感じたのは、次のようにいくつかの点だ。

まず従来の男中心のダラダラした働き方や画一的なやり方に合わせる働き方では、企業も人も成長や豊かさを得ることはできないということだ。そして、働く者も個々人が「キャリアプラン」および「ライフプラン」を常に考えより明確にしていく必要があると共に、上司・同僚や組織、家族などにもそれらを見える化し、それらを前提にしながら会社側はマネジメントし、組織の運営をしていかなければならないということだ。しかも、今回の提案は女性の方々からのものであるが、それは女性の問題であるだけではなく、男女を問わず、全社員の問題でもあるということである。

さらに、エイジョの一期生をヒアリングさせていただいた時にも常に聞かれたことであるが、今回の多くのプレゼンでも聞かれたのは、エイジョに参加することで異なった業種の会社のメンバーと意見を交わし、共同作業ができたことが非常に良かったという意見だ。そして、今回の彼女たちの多くが、「エイジョで、他社の方々を知り、意見を交わすことで、自分の仕事や生き方により前向き、かつ積極的になれるようになった」と、自信を持って、笑顔で主張されていたのが印象的だった。その意味では、エイジョの活動は、活動の成果以上にその活動への参加自体とプロセスに意味があるのだと感じる。

エイジョ参加者全員で
エイジョ参加者全員で

このエイジョの活動は、そのことはメインではないので語られることはなかったが、参加する女性だけではなく、アドバーザーや審査員として参加する管理職や幹部が、所属組織を越えて、異業種の方々とお互いに学び、交流する場にもなっていて、そのことがジャブのように参加企業を変えていくことにも貢献しているのではないかと思う。先に申し上げたPHP総研の研究において、企業が変わっていくには、トップマネージメントや中間管理職層の変化やサポートがキーであることが分かったが、エイジョの活動はその意味でも、重要な役割を果たせていると感じる。

グローバル経済が進展・深化する一方で日本経済が低迷する中、近年は日本の企業の元気のなさが目立つ。それは、各社自身が社内的に頑張ってもなかなかブレークスルーができないからであろう。その意味では、正にこのエイジョの試みは、フルセット指向で、社内的取組や社内改善を中心にする日本企業(特に大企業)にとっての、正に「ブレークスルー」というか、コペルニクス的発想であり、他の多くの企業にとっても、学ぶことが多いといえる。

エイジョの最終発表会を見させていただいて、この活動はこれからも是非とも継続していただきたいと強く思った。そしてさらに思ったのは、日本における働き方、そして日本社会を変えていく、いや変えていけるのは、やはり今の日本のシステムにおいてマイノリティで不利な立場にある女性だということだ。エイジョに参加した彼女たちの笑顔や自信を活かしていける社会に、日本は変わらなければならない。そう実感した一日だった。

(注)営業職は、従来男性の仕事というイメージが強く、多くの営業職の女性は、結婚や育児を経て、営業の仕事を継続しないことが多いという現実がある。そのような現実を受けて、その状況を変えていくことも目的として、このプロジェクトも開始されたのである。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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