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人間とロボットは戦わねばならないのか?…ロボットの発展は人間や社会の存在そのものを問うている!

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
ロボットの進化は人間の存在の意味を問いかける。(提供:アフロ)

ロボットの発展は人間や社会の存在そのものを問うている!

久しぶりに興味深く面白い会合に参加した。それは、2015年10月11日に開催された「『ロボット法学会』設立準備研究会」である。筆者は、その前半部分にしか参加できなかったが、それでもかなり興味深いお話を伺うことができた。

この研究会は、EUや米国ではすでにロボット法に関する研究や学会設立などがかなり先行しており、日本でもさまざまな動きが出てきているが、中国などにその動きをうまく使われてしまい、アジアでの動きの主導権を取られてしまう恐れがあるので、急遽開催されたもので、ロボット法学会を来年には設立していくための動きをプロモートし、加速しようという試みであった。

「ロボット法学会」設立準備研究会での議論の様子
「ロボット法学会」設立準備研究会での議論の様子

同研究会の内容に関しては、次の関連記事などを見てほしい。

「法律が普及の足かせになってはいけない」ロボット法学会の設立目指し、準備会開催  @弁護士ドットコム

ロボット法って何 @IT Research Art

本記事では、同研究会での議論内容を踏まえて、筆者がインスパイアされたいくつかのポイントについて論じていきたい。

まず、同研究会での議論を聞いて感じたのは、科学技術と社会や人間との関係が、新しいステージに入ったということである。

これまでも、さまざまな科学技術やそれに基づいてつくられた多くの製品が、人間の生活を向上させ、豊かにし、人間社会を変えてきた。だが、それは飽くまでも、人間が主で製品や機械が従で、人間の下でその役割を果たしてきた。もちろん、その環境においても、製品や機械、つまり科学技術が人間の役割を一部変えてきた面もあったわけであるが。

ところが、今科学技術に起きつつあることは、次のいくつかの点のように、その状況を越えた新しいステージが生まれつつあるのだ。

・パフォーマンス

例えば、ロボットは、これまでは、人間を真似する(しかも、そのパフォーマンスは人間より劣るといえるもの)だけのいわゆる「カラクリ人形」だったのだ。ところが、コンピューター・AI(人工知能)やインターネットなどの発達の発達により、ある面では人間を超える知的あるいは身体的なパフォーマンスをすることも可能になってきている。それは、人間の役割を大きく変えてしまうことを意味する。

・自律的なロボット

これまでの機械やロボットは、所有者がいて、その管理・コントロール下で機能してきた。ところが、今後はロボットが自律的に学習し、自律的に機能できるようになることが予想されている。その場合、その自律的なロボットが、問題を起こしたり、犯罪を起こした時には、誰の責任になるのか。所有者の責任なのか、ロボット自身の責任(果たして、そんなものがありうるのか)なのか、はたまた別の責任なのか。所有者が、ロボットを社会に放った責任は考えられるとしても、非常に難しく、ファージ―な面が出てくることになり、従来のような「原因と結果」に基づく考え方やそれに基づく法体系では、問題を解決できない可能性が生まれてくるのだ。

・サイボーグ  

サイボーグとは、サイバネティック・オーガニズム(CYBernetic ORGanism)の略称であり、 広い意味では自動制御系の技術(CYBernetic)および生命体(ORGan)を融合させたものであり、要は生命体と機械を組み合わせたものである。

そうすると、そのサイボーグは人間なのかあるいはロボットなのかの区分が難しくなる。最近、義足作成技術などが進化し、走行競技において、義足の選手の方が、健常者の選手よりもよい成績が生まれる可能性生まれてきたといわれ始めているが、その場合、人間の能力やそれに伴う記録とは何かということが問われることになる。それは、正に人間とは何なのかという問題にも繋がっていくのである。

・存在としての人間あるいは権利主体としての人間とは何かという問題

クローン技術やiPS細胞の技術などが今度ますます発展していけば、人間の肉体は永遠に存続することができるようになる。その場合でも、脳については代えることができないといわれている。だが、その脳でも重要なのは、その中にある情報であり、記憶であり、判断力などである。それらを、コンピュータなりAIなりに転写・取り込め、拡張できるのであれば、ある意味で、「脳」も不滅にできることなる。さらに、それがインターネットにつながれば、その存在は、地域的に限定されることもなくなるのである。

また、もし権利主体としての人の問題を考えた場合、最も重要なのは「記憶」であるが、それが先述したように、転写され、不滅になるのであれば、極論すれば、物理的な意味での肉体としての人の存在の意味は薄れるといえなくもない。

つまり、いずれにしても、将来的には、「人」というものが「死ななくなる」と考えることもできるのである。その場合の子孫の意味とか、DNAで「人」の存在を人類という形でつなぐということの意味が問われることになる。

上述したこと以外にも新たな状況は生まれていてきているが、要はこれまでの「人間」と「機械・ロボット・ITなどのテクノロジーや技術」などは、これまでは、ある意味で別個に考えることができた存在であったものが、相互に関係性が入り組んでくることになってきており、それらが人間社会のあり方や「人間の存在」自体を問いかけるステージにきているのだ。科学技術と社会や人間との関係が、正に新しいステージに入ったということである。

このことは、映画「2001年宇宙の旅」「ブレッドランナー」「ターミネータ」「バイオハザード」「僕の彼女はサイボーグ」「アイアンマン」「アバター」「トランスフォーマ」「ルーシー」「トランセンデンス」などの映像では観てきたものである。だがそれらの世界が、正に現実化してきていることを意味する。

このような状況を受けて、今回の研究会のスピーカーのお一人で、明治大学法学部教授で弁護士の青井高人氏は、その様な事態に、「百年以上前につくられた、現代の民法ではもう対応できない」ので、全く新しい法律や法体系を構築しなければならないと指摘した。

正に現在の法律や法体系が、自然科学の進展の現実や認識とズレてきてしまっているのであり、私たちは新しい発想に乗った社会のシステムを構築するべき時期にきているということであろう。

そのような話を伺っていて、思い出したことがある。それは、筆者が、数十年前にアメリカに留学していた時に、未来学の授業で聞いた話だ。それは、次のようなことだった。

社会の政治や法体系などの仕組みは、その時代の世界観や自然科学観の基に構築されている。つまり、現在の政治制度や法律は、ニュートン力学の世界観、つまり「原因と結果」が対をなす世界観・自然科学観に基づいて作られている。

より具体的にいえば、犯罪は、犯罪を起こす原因と犯罪者が必ずいて、その犯罪の結果に責任を有する者が存在している。だから、犯罪者に罪を負わせることができるというものであった。その考えに基づいて、法律や裁判の仕組みができている。

だが、現在(当時)は、量子力学が生み出され、ニュートン力学だけで、世界観や自然科学観が構築されているわけではない。量子力学では、原因と結果は対の存在ではなく、原因に対して結果は確率論的に存在するに過ぎない。

だから、現在は、量子力学の世界観や自然科学観に基づく、政治制度や法体系などの社会の仕組みが構築されるべきである。

このような考え方には、当時大いに刺激を受け、ずっと心に澱のように残ってきたのであるが、先に述べた人間と技術との関係は、その考え方の前提となるような現実が、実際に私たちの前に立ち現われてきたことを意味するのではないかと感じる。

このことからも、私たちは正に新たなる世界観に基づいて、新しい社会システムを構築していく必要が生まれているといえる。その構築は、一朝一夕でできるものでも、一人の天才にも実現できるわけでもない。多くの人々とその知見で、長時間かけて、トライ・アンド・エラーでやっと実現できるものであろう。

そして、このような新たなシステムの構築には、長時間かかり、トライ・アンド・エラーなどを通じてのみ実現することを考えれば、多くの人々、いやすべての人々・人類に影響していくことであろう。そのため、多くの不利益を被る者や、新たなる変化に反発や反感にもつ多くの人々も生まれてこよう。

そのことは、科学技術に対して、社会的な反発・反感、さらにヒステリー状況や恐怖感なども生むかもしれない。そのことの一端は、先の無線操縦の無人航空機「ドローン」の事件に対する、過度の反応などにも垣間見ることができる。それらのことは、科学技術の適正な発展をゆがめ、最終的には人類に不利益を基らしてしまうかもしれない。

その意味では、科学技術への的確かつ公平な理解を育む、科学へのリテラシー教育を行っていくことも必要であると考えられる。

私たち、そして私たちの未来は、今後ますます科学技術なしではありえない。であるならば、その限界と問題・課題を理解およびコントロールしながら、冷静に活用していくことが必要であり、期待される。

そしてそのためには、それを有効かつ適正に活かしていける、法制度をはじめとする未来への夢を創り出していく社会システムを構築していくことが必要である。

私たちの社会や未来は、正に私たち自身が創っていく存在であることを肝に銘じていく必要があろう。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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